#9-12 交錯する思惑
「なかなかいらっしゃらないので振られてしまったのかと思いましたよ」
「遊びは終わりだ」
「……少しお聞きしたいのですが」
構えをとる。油断はない。
「私は何か間違えたことを言っていますか?」
「何を」
「人間がどれだけ地球を痛めつけてきたのか。それを救おうとする私の意思はおかしいのですか?」
わからないと手を組んで問いかけてくる。初めて対面した時にザセルが言っていた『地球を人間の手から救う』。あれのことだろう。確か人間が地球を傷つけているとかなんとか。
「そういう話ならそういう専門家とやれ」
「人間を殺しているわけでもありません。変異の負荷に耐えられず死んでいく人間はただ淘汰されているだけですし、必要な犠牲ですよね。かつての自然淘汰に涙を流す人間はいるのですか?それ以上に地球の嘆きが聞こえませんか」
「知るか。俺はヒーローじゃない!」
地面を蹴り、瞬きの間に接近して盾のように重なる葉を焼き尽くす拳を放つ。ガードされたが連打を続けよろめいたところを蹴り飛ばす、が軸足を払われ俺が体勢を崩す形になった。
地面に手をつき逆立ちの形で顎に蹴りを入れ、足を下ろして着地し、体を捻ってそのまま横蹴りを決める。地面を滑るように転がるザセルを追撃で右手を硬く握りしめ拳を放つが、いつのまにか伸びた茎に右腕を絡めてとられチッと舌打ちが漏れた。この死角からの攻撃、慣れないな。
「そうでしたね。優也くんはお父様を取り戻そうと戦っているのでした。では」
ザセルはゆっくりと起き上がり、汚れた部分をパタパタとドレスをはたく。
「もしお父様を無事に返したなら、大人しく従っていただけるのですか?」
「……あぁ、お前の望み通りに動いてやるよ」
「へぇ」
シュルルルッザッザッザッッ!!
「ぐぅ……ぅっ」
後ろから5本の茎が伸び、2本は左腕で防ぐが3本に切り付けられ屋上のアスファルトに血が飛び散る。
「嘘はよろしくないですね」
「はっ……当たり前だ。そんな提案に乗ってられるか」
「私と仲良くすればお父様と一緒にいられるのですよ?」
「お前を倒せば父さんを支配している細胞が死んで自我が戻るかもしれない。それを試してからだな」
「なんとまぁ………私は特異生物と呼ばれる者同士、仲良くしたいだけなのですが、分かり合えませんね」
「無理だな。そっちだって俺の発熱能力が目当てだろう。俺と協力するつもりなんて無い癖に」
「……?」
何を言っているのか?とでも言いたげな顔。だけど惚けようとしている……わけでもなさそうだ。本当に意味がわかっていないような素振りのその隙に右腕に熱を込めて蔦を焼き切りぱっぱっと手を払う。
やっぱり俺を狙っているのは発熱能力だけが理由じゃないな、こいつ。何を狙っているのか、具体的にはわからないが。
「私は貴方の発熱能力が欲しいわけではありませんよ。貴方の力が欲しいんです」
「同義だろ」
「違いますよ。もしかしてまだ自覚がありませんか」
「何の話だ」
「その細胞に刻まれた力のことですよ。あぁそういえばまだ“ギフト”として覚醒前でしたか」
自覚?覚醒?厨二病みたいなことばっかり言いやがって。と心の中で舌打ちをする、
コイツの言っている細胞に刻まれた力ってのは、的戸さんが言っていた『進化』に関わる何かか。詳しいことはまだ何もわかっていない例の力。
ザセルは眉間に皺を寄せ、まさかと怪訝そうに顔を顰める。
「もしかして、それもご存知ないのですか?」
「はぁ?」
「そういえばご自身が父親の研究に利用されていたことも知りませんでしたね。それは当然……まぁいいです。時が来れば嫌でも分かります。それとも今、教えて差し上げましょうか」
何もかも知ったような口を聞きやがって。そうイラつきながら頭は冷静に。傷に手を当てて焼いて血を止める。傷は浅いし問題ない。
「お前に聞かなくとも自分のことぐらい自分が1番よく分かってる。余計なお世話だ」
「ふふっあぁそうだ!ついでと言ってはなんですが、折角なら教えてさしあげましょうか?」
嫌に釣り上がった口角に反射でゾワリと鳥肌が立った。
「お父様の最期を」
『優也、良い子にしてたか?』
心臓が大きく鼓動する。大好きな声が
『優也!!ダメだ来るな!!』
炎に溺れていく
何度も思い出しては頭で繰り返している。まだ頭の中で父さん、父さん、と叫ぶ幼い自分の声がこだましている。耳を塞ぐ代わりに左手首を強く握りしめてもおまじないは効いちゃくれない。
「黙れ……」
「知りたいですよね?大好きなお父様がどんな顔をして死んだのか、どんな無様な姿だったのか!」
「黙れ!!!」
「あははっ、必死なところもかわいいです」
我を忘れて跳びかかった拳は避けられ屋上に大きなクレーターができる。至る所に仕掛けられていた茎を全身に熱を籠らせ焼き切って爪でザセルを引っ掻いた。ザセルの体からは血ではなく透明な液体が流れ落ちていく。追撃に腕を伸ばすも体に蔦や茎が絡みついて動かない。
面倒だ。
「へぇ、面白い」
取り出したそれを振り翳せば体に絡まる茎や蔦が簡単に切り落ちていく。熱を込めた刀身が白く強い光を放ち、茎に触れるとジュッと焦げる音がした。
「優也くんに短剣とはまさに鬼に金棒ですね」
刀身が溶けない程度に熱し、俺を閉じ込めるような半球状に伸びる蔦と茎の正面を十字に切り付けて蹴り飛ばし、一気にザセルに近づいて体を切り付ける。
ギリギリ避けられたがスカートの端が焼き切れた。それを気にすることなく楽しげにザセルはふふっと笑う。
「その調子でどんどん熱を上げてくださいね、優也くん?」




