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#9-11 奪われた変身時間


「狛華ちゃん!現在地から南方向を中心に解析して!」


『了解しました!』


 海美に言われた通りに走り出す。真っ直ぐの大通りを走って信号を右に。また少し走った後、人気のない細い路地裏を通って民家の屋根に飛び乗り、屋根から屋根へと飛び移っていく。


 見えて来たのは臨海工業地帯。下にいる!と言われて降り立ったそこは工業用の建物と建物の間の大型トラックが通るような太い道だった。空を見上げると入り組んだ鉄骨が邪魔する。


「ここだな?」


「ここに……そこにいる」


「メイン、確認して」


 小声で指示を出す龍斗さんが胸ポケットに刺さった小型カメラに触れる。


『解析中』


 しばらくの静寂。海美を下ろして、3人で背中を合わせ周囲を警戒する。海美は一点先を見つめて動かない。サァァッと軽く風が吹いて、チュンと鳥が鳴く。なんてこと無い日常の時間が流れているはずなのに、俺たちの中には異様な緊張が走っていた。


 拳銃を取り出し安全装置を外す。


「2人とも気をつけて、そこにいる」


「ストーム、見えますか」


「いいや……そっちも?」


「えぇ。ただ、嫌な感じはします」


「……俺も」


 海美が睨む先は何もない。ただの舗装された道だ。


『解析完了!スパーク正面に特異生物反応あり!』


 拳銃を構え、海美の正面に向けて撃つ。



「ふふ、隠れんぼもここまでですね」



「まさか本当にいるとはな」


 俺が撃った弾は空中で歪んで止まり、地面に落ちてカランと音を立てた。


「まさか見つかってしまうとは。鮫の触覚も舐めたものではありませんね」


 少しずつ何もなかったはずのそこに色がついていき、徐々に質量を帯びていく。相変わらず見えない目元、右のこめかみに大きく咲く紫色の花、葉のミニドレス。


 クスクスと笑いながら姿を現す──ザセルだ。


「こんにちは優也くん。会いたかったですよ」


「……俺もだ」


「あら、嬉しいです。今日はこちらの使徒を連れてきました」


 そう言ってザセルが指をパチンと弾く。するとザセルのすぐ後ろの風景が歪み、色がついてその姿を現す。


「ご紹介します。センチュウとオリックスと人間のキメラ、セリヌンティクスさんです!」


「あ、ども。あの、こんにちは。あだ名はセリーです。人見知りですけど、どうか何卒よろしくお願いします」


 頭頂部から伸びた大きな2本の角。顔は白と黒の2色で牛のような顔をしている。体は人間の体をベースに半透明で中の臓器が薄く見え、ところどころに何かの金属がへばりついていて先端が尖っている金属やボコボコと波打っている金属も散見される。それ以外はそのオリックスの毛皮に覆われている。


「オリックス?なんかのスポーツだっけ?」


「どうだったかな。俺スポーツ詳しくなくて」


「違う。牛だ牛。牛の一種」


「う、牛です。よろしくです」


 変に律儀に礼をするセリヌンティクス。……何か嫌だなこの名前。言いやすいしセリーでいいか。



「ハロー!セリー、元気にやってる?」



「「「!?」」」


「あ、ネピアさん。お疲れ様です。どうもです」


 俺たちのいる道の少し先、建物と建物を繋ぐように鉄骨が伸びたところに、ミディアムロングの黒髪、オレンジ色の肩にスリットが入った洒落たニットに黒のロングレーススカートの女性が座っている。海美によく似た大きな瞳に光はない。


「……お姉ちゃん」


「あれ〜?海美じゃん元気〜!?」


 ザセルがため息をつく


「ネピアさん。今日は来ないようお願いしたはずですが」


「えぇっ!?良いじゃん!私、どうしてもそのクソトカゲを殺りたくて!それにザセル様からもらった──」


「ネピアさん」


「──っ……何でもなーい!」


 しどろもどろに視線を逸らすネピア。これは何か仕掛けているな。さっきの隠れんぼってことから警戒しちゃいたが何かあることは間違いないようだ。


 コホン、と仕切り直すようにザセルが咳払いをする。


「まぁいいです。優也くん以外は好きにしてください」


「やったぁ♡ありがとうザセル様!」


「ずいぶん優也にお熱だね。何が目的かな?」


 龍斗さんが俺の隣に立ち肩にポンと手をおかれる。まるで渡さないとでもいいたげだが、俺だって行く気はない。そんなに心配しなくても。


「彼が“ギフト”だからですよ」


「ギフト?」


「神が作り出した最高傑作。使徒やネピアさん達、それに貴方や鮫島海美さんとは訳が違うんです」


「『私に従わないなら失敗作』……じゃなかったの?」


「優也くんなら別ですよ。あぁその力がどれだけ素晴らしいか!貴方にはわからないでしょうね」


「……………」


 鳥肌どころじゃない。本当に吐き出しそうなぐらい気持ち悪い。そんな俺の様子を見て、俺の肩をポンと軽くたたきながら皮肉気味に龍斗さんが笑った。


「ご生憎様、本人には振られてるみたいだよ」


「そうなんです。そこが問題でして。仲良くできればベストだったのですが……1番必要としているのは本人の意思よりそのお力ですから。最悪意思無き、体さえ頂ければ十分ですよ」


「どいつもこいつも雑にラット扱いしやがって」


 記憶に新しい的戸さんの言葉が脳に反芻してしまい、呆れたため息と共に苦言が漏れた。


「さて、おしゃべりはここまで。今日はやりたいことがあって来たんです」


 ザセルが腕を前に伸ばす。またオルガーか!


 ポケットから変身シリンジを取りだ──


「っ!?」


 突然背中に痛みが走る。咄嗟にしゃがんで転がり次々に襲いかかる何かを避ける。この感覚には心当たりがあった。植物の茎、しなる鞭のような蔦、ザセルの攻撃!


 体を起こすといつのまにか近くの叢から発生したオルガーに襲われる。鋭く尖った剣のような腕を避け、腕を掴んで背負い投げにし、顔面部分を高熱の拳で連続で殴りつけて焼き殺す。その間にも他のオルガーがこちらに迫ってくる。クッソ変身できてないのに!


「私思ってたことがあるんです。ヒーローが変身する間、悪者は待ってくれるじゃないですか。あれ何で待ってるんだろうって」


 龍斗さんと海美を見るとそれぞれがそれぞれに群がるオルガーと交戦中だ。特に苦戦している様子はないが俺と同じようにまだ変身できていない。人間態でも普通の人間より遥かに頑丈だけど、できれば無駄な傷は作りたくない。早く変身しないと!


「変身させなければ良いんじゃ無いかって、そう思いません?」


 目の前のオルガーを蹴飛ばし腕に絡んでくる蔦を引きちぎる。胸ポケットにある変身シリンジを取り出し、横から迫るオルガーを回し蹴りで退けながらソケットを展開させシリンジを滑り込ませる。


「っ!!」


 ソケットを閉めようとする右手に蔦が絡む。その出本まで視線を動かせばニコニコと笑みを絶やさないザセルの姿。力を込めてもぎちっと嫌な音が鳴り、右手は動く気配がない。間髪入れずに群がってくるオルガー達を蹴散らす。


「変身しなければお互い面倒もなく済みます。どうか大人しくしていただけませんか?」


「そりゃ、できない相談だ!」


 右手に複雑に絡む蔦を逆手に取り、体を引いて思いっきり引っ張る。突然引っ張られた勢いでザセルが体勢を崩した隙にミューテーターをソケットを近くにいたオルガーにぶつけて無理やり閉める。



 Flame!Ready for injection!



「くっ」


 ザセルが蔦を切る。逃げるつもりか。このまま逃すつもりはない。ここで、今ここで焼却する!



「change my feature!!」



 プランジャーを一気に押し込む!



 Genes are promoted!



「フレイム変身完了!!」


 炎の中から飛び出し、鉄骨に蔦を絡ませて上へ上へと逃げるザセルを追って地面を蹴り建物の壁を跳ねて鉄骨を掴む。ぐるっと勢いをつけて回り鉄骨の上に乗って笑いながら逃げるザセルを追う。


 そういえば龍斗さんと海美は?と視線を引かれて一瞬下を見る。


 龍斗さんは風を起こしオルガー達を一気に周りから退ける。その間に変身シリンジを取り出し、ソケットに入れて閉じた。



 Storm!Ready for injection!



 風に負けじと襲いかかるオルガーを軽くいなし、その長い足でオルガーを蹴り飛ばす。そのまま。



「change my feature!!」



 Genes are promoted!



「ストーム、変身かんりょーう!」


 同時に海美は何体かのオルガーに囲まれ、死角から羽交い締めにされてしまう。しかし焦って俺が助けに入ろうとした一歩手前で何とかオルガーを背負い投げの要領でなんとか引き離し、変身シリンジをソケットに入れ閉じる。



 Spark!Ready for injection!



 あとはプランジャーを押すだけ。でも周りを囲うオルガーが多すぎるせいで手が離せない海美。もおおお!という叫びをあげて地面に手をつく。その一瞬でオルガー達は海美に群がっていく。まずいな、あれじゃ身動きが─


「す──」


「全部感電しろおおおおお!」


 バチバチバチっ!!!


 すると海美に群がっていたオルガー達が半球状に全て飛び散って行く。その中心には海美の姿。自分を中心に球状に放電をしたのか!


 海美はプランジャーを押し込み、



「change my feature!!」



 Genes are promoted!


 そう宣言すると雷が海美に向かって落ちる。直視しないよう上げた腕を下ろせばそこはスパークの姿。


「スパーク!変身完了ぉおおお!!!」


 2人とも問題ない。改めてザセルを追うように鉄骨をアスレチックのように登っていき非常階段を駆け上がったその先は工場の屋上。かなり広くところどころ長いパイプが這っていて蒸気を逃しているのか所々で煙がたつが風でどんどん流されていく。


 退屈そうに屋上で強く吹く風に千切った花びらを乗せていたザセルは、俺の姿を見ると待ち侘びていたかのようにパッと手に摘む花を風に全て乗せて俺に微笑んだ。


「なかなかいらっしゃらないので振られてしまったのかと思いましたよ」


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