#9-10 不注意と電気感覚
「こちらフレイム。ポイント現着。捜索を開始します」
『司令部、了解』
3日後──都内某所にて
車から降りて辺りを見渡す。グラフィック解析が引っ掛けたのは新たに現れた特異生物とそれを従えるザセルの姿。まだ体調は万全じゃないが寝てもいられない。ズキ、と痛む頭に今日何度目かのため息が出た。
「さて、どこにいるかねぇ」
「前に話した通りザセルは透明化できます。触れたものも透明にできると思っていい。急襲を受ける前に見つけ出しますよ」
「了解。でも無茶すんなよ。まだ脳のダメージが回復してねぇんだからな?」
「心配無用です」
「心配しかないでしょ……」
海美が珍しく呆れたようにため息をついた。点滴中に抜け出したことがバレてお叱りをもらった身としては返す言葉もない。
この3日間、海美は訓練しろ勉強しろと言っても何の意地なのか俺のベットのそばをなかなか離れようとしなかった。熱せん妄の時に俺が頼んだのか?と聞けば別にと返ってきて、それ以上は教えてくれないし。あの時の実験で鎮静剤を打たれたところから夜に目が覚めるまでの間がすっぽり抜け落ちた記憶を気遣われているようで気持ち悪い。
なるべく普段の通り、体調不良を悟られないようにしよう。それに今はザセルが出てきてる。早めに俺が殺すんだ、間違えないために。
「優也、音は?」
「何も。見えます?」
「んーん。何にも」
かなり高いビルの屋上、その縁から2人で周りを見渡す。未だに被害が出ていないがとりあえずの人払いは済んでいて、辺りは静寂に包まれている。足音の一つ、聞き逃すはずがない。
「わっ!?高いねぇ」
おそるおそる縁にしゃがみ込んで下を覗き込む海美は怖いというより楽しんでいる表情だ。さすがジェットコースター好きは違うな。落ちるなよ、と声をかけるとわかってるって〜、とわかっているんだかいないんだか分からない返事が返って来た。
「あぁいいなぁ2人とも。索敵出来て」
「ふふ、海美ちゃんはちょっと待っててね」
「むぅ、私だけ……何かできることないかな」
目を瞑り腕を縁からやや斜め下に突き出してはぁ〜っ!何かを感じ取ろうと突っ立っている。アニメかなんかの影響か?ともあれ気を遣われるだけの雰囲気はどうも慣れなくて苦手だし、通常運転のテンションで助かるしいいんだけど。
「どう海美ちゃん。なんか感じる?」
「んんん………」
「ふざけてないでザセル達探せ。カメラだけじゃ追いきれない」
龍斗さんは苦笑いで海美ちゃんに何か特殊能力があればねぇと頭をかく。
通常のサーチシステムは特異生物を自動で検出してくれる優れものだが、ザセルの透明化を看破するためのプログラムは全自動ではできない。できる限り場所を絞って狛華さんが一つ一つ解析しないといけないのだ。いくら狛華さんが優秀でもこればっかりは難しい。
「まぁ焦んなって。あっちだってこっちに用事があるだろうし」
「あっちこっちに逃げられる前に捕らえたいだけです」
「むうぅ、にっちもさっちもいかないね。相手の目的が分かるまでは」
無駄にテンポのいい会話の合間にも海美は両腕を前に出したまま立ち尽くす。ふざけるにしては少し長い。任務中に少しふざけることあってもここまでじゃないのに、と少しずつ怒りよりも心配が勝って、言葉をもらおうと龍斗さんを見ると同じ不思議そうな顔をしていた。
「あのー海美ちゃん?」
「海美、さっきからどうした」
「……わかる、かも」
「「え?」」
ポカンとした言葉に海美は反応しない。
「わかる。どこに何があるのか。どこに誰がいるのか。何となく」
「海美?」
「わかる。そこにいる。そこだ!!」
「海美ちゃん?」
海美が大声をあげて素早く立ち上がる。え、何?どうし──
「あっ」
「え?」
突然全てスローモーションに写る。
急に立ち上がったせいで海美の足がビルの縁に引っかかって上体がビルの外へ反る。俺に向かって右腕がゆっくり伸びるが宙をかいた。
やばい、やばいやばいやばい! このままじゃ海美がビルから落ちる!
「やばっ……!?」
「海美!!」
ほぼ反射の速度で海美の腕を掴む。よし、これで……
「「あ」」
重力に引かれる海美の体重をかけて俺の腕を引っ張られる。さらに咄嗟に掴んだせいで体勢が足が浮いた俺の体はそれに引っ張られて、あ、やば
「きゃぁぁああっ!!」
「うわぁあああっ!?」
「優也!!?ちょ、嘘だろ!?」
海美と一緒にビルから足を踏み外し、地面へと向かって一直線で落ちていく!ぐんぐんと加速して落ちて行ってやばい、俺だけならまだしも海美がいるんじゃ話は別だ!庇いきれない!!
「ゆうやっ、手、はなし……!!」
「誰が離すか!クソ……!」
空中で海美の腕を強く引き、腕に抱き寄せて体勢を整え横に一回転する。絶対に離すもんか。守るって決めたんだ。
でもどうする!? 変身はその衝撃で海美が危ない。いや、まだ大怪我覚悟で壁にぶつかりながら着地すればもしかしたら───
「っ!?」
どこからともなく吹き上げてくる上昇気流で俺たちの落ちるスピードが緩くなっていく。この風、
「龍斗さん!」「りゅ、りゅうとさ、ん」
「海美ちゃんのことしっかり抱えとけ!」
風に巻かれたことである程度スピードが落ちて人間態の俺でも海美を抱えながら着地できそうだ。ぐんぐんと近づく地面に比例するように心拍数が跳ね上がる。集中しろ。いつも通りやるだけだ。
地面が近づく。
荒れた息を整える。
海美をなるべく体の重心に近づけて、ぐるっと回転した。そうしていつものように衝撃を殺して着地した。
「……はぁ、」
良かった、できた。
抱えた海美も無事だ。問題ない。……本人は目をぎゅっと固く瞑ったままだけど。
隣に風を纏ってゆっくりと龍斗さんが着地する。
「大丈夫!?」
「えぇ、なんとか。ありがとうございます」
「うぅ、ごめんなさい……」
「ったく、落ちるなって言っただろ!」
「ごめんなさい!!」
「まぁまぁ何とかなったんだし反省は後。海美ちゃん、わかったって何が?」
すると海美は目を瞑る。息を整えて何かに集中しているみたいだ。
龍斗さんと顔を見合わせながら、答えを待つ。
「感覚を研ぎ澄ますとわかるの。どこに誰がいるなか、その小さな電気を感じ取れる」
「そういえば聞いたことある。鮫は微小な電気感覚で獲物の場所がわかるって」
「……まじか」
そんな能力があるのか。龍斗さんとアイコンタクトをとる。それが正確かわからないけど今はかけてみよう。
「急がないとわからなくなる……あっち!!」
「了解!」
「狛華ちゃん!現在地から南方向を中心に解析して!」
『了解しました!』




