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アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon
選抜試験編

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第47話 1秒の開幕

第47話を開いていただきありがとうございます。


ついに、新入生選抜試験が開幕します。


未来たち一年生が、それぞれ何を抱え、何を武器に戦うのか。

そして、未来の前に現れた霧島リオとの初戦。


選抜試験編の本格的な始まりとなる回です。

ぜひ最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。


 選抜試験当日の朝、学園の空気はいつもと違っていた。


 廊下を歩く生徒たちの声はどこか低く、普段なら騒がしいはずの一年フロアにも、妙な緊張が流れている。


 笑っているやつはいる。


 友人同士で話しているやつもいる。


 けれど、そのどれもが少しだけ硬い。


 全員が分かっていた。


 今日から始まる三日間で、自分たちの立ち位置が決まる。


 未来は廊下の窓から差し込む朝の光を横目に、自分の右手を一度だけ握った。


 まだ、完全には掴めていない。


 あの感覚。


 レグルスと戦った時に見えた、自分の1秒の“先”。


 あれが何だったのか、今でも分からない。


 それでも、止まる理由にはならなかった。


「未来くん」


 横からひかりが声をかける。


「ちゃんと寝れた?」


「まあ、それなりに」


「それ、寝れてない人の返事」


ひかりがからかうように笑った。


「いや、寝たよ」


「ほんとに?」


 未来も少しだけ笑った。


「最近そればっか聞かれるな」


「聞くよ。だって未来くん、無理してても普通の顔するし」


「そんなつもりないんだけどな」


「周りから見ると、結構そう見える」


 ひかりは小さく肩をすくめた。


 その後ろで、ガイが鼻で笑う。


「信用ねえな、お前」


「お前にだけは言われたくないんだけど」


「俺は無理するとき、ちゃんと無理してる顔するぞ」


「それはそれでダメだろ」


 ハヤトが即座に返した。


「朝から騒がしいな」


「お前が真面目すぎんだよ」


「お前が雑すぎる」


「細けえこと気にすんな」


 いつものやり取り。


 けれど、その中にもどこか試験前特有の張り詰めたものが混ざっている。


 ゆいは少し前を歩きながら、掲示端末へ視線を向けていた。


「中央訓練場、かなり集まってるみたい」


「全クラス合同だからな」


 ハヤトが言う。


「人数も多い」


「面倒くさそう」


 ゆいがぼそっと言う。


「お前、その言い方だと全部面倒そうに聞こえるぞ」


 ガイが笑う。


 ゆいは視線だけを向けた。


「面倒じゃないの?」


「否定はできねえ」


 未来はそのやり取りを聞きながら、少しだけ肩の力を抜いた。


 考えすぎるな。


 今は前を見る。


 それだけでいい。



 中央訓練場へ入った瞬間、空気が変わった。


 広い。


 天井も高い。


 無数の傷が刻まれた床。壁。観覧席。


 ここで何度も戦いが行われてきたのだと、一目で分かる場所だった。


「……なんかここ、圧がある場所だな」


 ガイが低く言う。


 未来も周囲を見回した。


 一年生だけでもかなりの人数がいる。


 そして、その中には明らかに“強い”と分かる空気を持つやつらが何人もいた。


 静かに目を閉じている男子。


 壁際で一人ストレッチしている女子。


 周囲から自然に距離を取られている生徒。


 そして――


 霧島リオ。


 訓練場の端。


 壁にもたれたまま、こちらを見ていた。


 目が合う。


 リオはほんの少しだけ笑った。


 未来は視線を逸らさない。


「……いるな」


 ガイが低く言う。


「見れば分かる」


「気に食わねえ」


「昨日のこと引きずってるのか?」


「そりゃ引きずるだろ」


 ガイは肩を鳴らした。


「いきなり床ぶった斬りやがって」


「訓練場だからまだいいけどね」


 ひかりが苦笑する。


 その時だった。


「整列」


 よく通る声が訓練場に響く。


 相沢レイナだった。


 昨日と同じ軽い雰囲気。


 だが、中央へ立った瞬間に空気が締まる。


 全員が自然と静かになった。


「おはよう」


 レイナが軽く手を上げる。


「今日から三日間、新入生選抜試験を開始する」


 ざわめきが止む。


「昨日説明した通り、勝敗だけじゃなく内容も見る。立ち回りも判断も、自分のアフェクトへの理解も全部対象だ」


 そこで少し笑った。


「かっこよく負けるくらいなら、泥臭く勝て」


 何人かが小さく笑う。


「第一試験は個人戦。一対一。制限時間は五分」


「あと、一応言っとくけど」


 レイナが軽く指を立てる。


「この試験で見られるのは、“強い感情を出せるか”じゃない」


 訓練場が静まる。


「アフェクトは感情そのものだ。怒りも、恐怖も、喜びも、全部な」


 レイナは周囲を見回した。


「でも、感情に飲まれれば強くなる――なんて単純な話じゃない」


 その言葉に、未来はわずかに目を細める。


「怒りに任せて暴れるだけなら、ただの自滅だ。逆に、感情を押し殺しすぎてもアフェクトは鈍る」


 レイナは軽く肩をすくめた。


「要するに、“自分の感情をどう扱うか”を見られる試験だと思っとけ」


 ひかりが小さく息を呑む。


 ハヤトは静かに腕を組み直した。


 ガイは口の端を上げる。


「……なるほどな」


「だから、無理に誰かみたいになろうとするな」


 レイナの声が少しだけ低くなる。


「感情の形は、人によって違う」


 その言葉は、一瞬だけ訓練場の空気を静かにした。


 大型モニターへ光が入る。


「では組み合わせを発表する」


 空気が一気に変わった。


 未来は自然と呼吸が浅くなるのを感じる。


 名前が次々と表示される。


 ひかり。


 ハヤト。


 ガイ。


 ゆい。


 そして――


 天城未来。


 対戦相手。


 そこに表示された名前を見た瞬間、未来の目が細くなった。


 レイナが読み上げる。


「第一試合」


 一拍。


「天城未来 対 霧島リオ」


 訓練場がざわついた。


「うわ、マジか」


「いきなり?」


「霧島ってあの霧島レンの弟か?」


「天城ってあの希望の...」


 ガイが口の端を上げる。


「面白え」


 ひかりは少し不安そうに未来を見る。


「未来くん……」


「大丈夫」


 未来は短く答えた。


 その時だった。


「……チッ」


 小さく舌打ちが聞こえた。


 未来が視線を向ける。


 リオだった。


 だが、その表情は昨日とは違っている。


 笑っていない。


 むしろ、苛立っていた。


「またかよ」


 ぼそりと呟く。


 その声は小さい。


 けれど、近くにいた未来には聞こえた。


「……?」


 リオは視線を大型モニターへ向けたまま、低く言う。


「兄貴の次は、お前か」


 その声には、昨日までの余裕とは別の感情が混じっていた。


「周りはすぐ比べる」


 未来は黙って聞いていた。


 吐き捨てるように言う。


「そればっかだ」


 一瞬だけ、リオの目から感情が抜ける。


 冷たい。


 空っぽではない。


 ずっと押し込めてきた何かが、ほんの少しだけ漏れたような目だった。


「……だから、嫌なんだよ」


 小さく言う。


「最初から“弟の方”で見られるの」


「俺は、俺だ」


 未来は何も返さなかった。


 返せなかった、の方が近い。


 リオはすぐにいつもの笑みに戻る。


「まあ、いいけどな」


 肩を回す。


「だったら証明するだけだ」


 そう言って、試合エリアへ歩き出した。


 未来はその背中を見る。


 昨日より少しだけ、分かった気がした。


 あいつはただ強いだけじゃない。


 強くならなきゃいけなかった側の人間だ。



 白線の内側へ入る。


 試合エリア。


 周囲の音が、少しだけ遠くなる。


 リオが向かい側へ立つ。


「準備は?」


 レイナが確認する。


「いつでもどうぞ」


 リオが軽く答える。


 未来も頷いた。


「大丈夫です」


 レイナは二人を見比べる。


 そして、片手を上げた。


「――始め」


 次の瞬間。


 リオの右手が動いた。


「ライン」


 低い声。


 直後、床が一直線に裂けた。


 未来は反射で横へ跳ぶ。


 裂け目がさっきまでいた場所を貫いた。


「っ……!」


 音が遅れて響く。


 速い。


 そして鋭い。


「避けるか」


 リオが少し笑う。


「じゃあ、これは?」


 足を踏み込む。


「ライン」


 今度は斜め。


 床を裂きながら一直線の亀裂が未来へ走る。


 未来は後方へ飛ぶ。


 だが、リオは止まらない。


 追う。


 距離を詰める。


 その動きに迷いがない。


 ただ能力が強いだけじゃない。


 体、アフェクトの使い方が完成している。


 未来は息を吸う。


 焦るな。


 見る。


 読む。


 リオの肩。


 視線。


 踏み込み。


 必ず予兆がある。


「ライン」


 未来は今度、前へ出た。


 裂け目の“始点”へ潜り込む。


 リオの目が細くなる。


「へえ」


 距離が縮まる。


 届く。


 未来は拳を握った。


 1秒。


 世界が沈む。


 音が遠ざかる。


 リオの動きが少しだけ遅く見える。


 未来はその中でさらに踏み込む。


 だが――


 リオの目は、未来を追っていた。


「……っ」


 読まれている。


 完全には止められていない。


 でも、見えている。


 未来の拳が届く直前。


 リオは半歩だけ体をずらした。


 拳が肩をかすめる。


 浅い。


 世界が戻る。


 未来はすぐに距離を取った。


 リオは肩を見下ろす。


 制服が浅く裂けていた。


 数秒、それを見つめる。


 それから、小さく笑った。


「……へえ」


 その声は、さっきまでより少し低かった。


「同年代で、ここまで来たやつは初めてかもな」


 未来は黙って構えを崩さない。


 リオはそんな未来を見ながら、肩を回した。


「大抵はさ」


 ぽつりと言う。


「“霧島レンの弟”って聞いた時点で、勝手に引いていきやがる」


 笑っている。


 けれど、その笑い方は少しだけ冷たかった。


「ほんと、くだらねえ」


 その瞬間だけ。


 リオの目に、昨日までとは違う感情が滲んだ。


 苛立ち。


 諦め。


 ずっと押し込めてきたものが、一瞬だけ漏れたみたいな目だった。


 だが、それもすぐ消える。


 リオはいつもの軽い笑みに戻った。


「だから」


 右手を上げる。


「ちゃんと試させろよ」


 空気が張り詰める。


 未来は右手を握った。


 まだ届かない。


 でも、届かないまま終わる気もない。


 リオが踏み込む。


「ライン」


 床が裂ける。


 未来も前へ出た。


 試験は、まだ始まったばかりだった。


次回

第48話 1秒の攻防

第47話をお読みいただきありがとうございました。


今回は、選抜試験の開幕と、未来vs霧島リオの初戦を描きました。


リオは“霧島レンの弟”として見られ続けてきたキャラクターです。

だからこそ、未来という存在に強く反応しています。


そして未来もまた、“希望アフェクト”という特別な立場を背負っています。


似ているようで違う二人が、これからどうぶつかっていくのか。

ぜひ次回も読んでいただけると嬉しいです。


次回、第48話「1秒の攻防」。

選抜試験、激突。

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