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アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon
未来救出編

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36/48

第36話 1秒の突入

アフェクトブレイカーを読んでいただきありがとうございます。


第36話は、連れ去られた未来が目を覚ますところから始まります。

そして、もう一人の希望アフェクト――レグルスとの対話。


これまでの戦闘とは少し違い、「力」そのものに踏み込む回になっています。


静かなシーンですが、ここから物語は一気に動き出します。

ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。


 意識は、沈んでいた。


 どこまで落ちていたのかは分からない。ただ、底に触れたような感覚だけが残っている。水の底に置き去りにされたみたいに、身体の輪郭だけが遠くにあった。


 そこから、ゆっくりと浮かび上がる。


 最初に戻ってきたのは、音だった。


 ぽたり、と水が落ちる。


 一定のようでいて、わずかにずれる間隔。その一滴だけが、この空間で生きているように感じられた。


 次に、身体の感覚が戻る。


 指先。腕。足。


 動かせる。だが重い。自分のものなのに、どこか噛み合っていない。


 未来は、浅く息を吸った。


 冷たい空気が肺に入り、その冷たさで意識が一気にこちら側へ引き戻される。


 目を開けた。


 暗い。


 完全な闇ではない。だが、何かをはっきり見るには足りない光しかない。


 石の床。湿った匂い。重たい空気。


 地下だ、と直感する。


「……どこだよ、ここ」


 声に出すと、思ったよりも響いた。


 身体を起こす。


 拘束はない。痛みもない。


 なのに、逃げ場がない。


 出口が見えないからじゃない。空間そのものが閉じている。外から切り離されているような、そんな感覚があった。


 記憶を辿る。


 戦っていた。


 獅堂レオンと。


 そこまでははっきりしている。


 だが、その先がない。


 勝ったのか、負けたのか、どう終わったのか。


 そこだけが、綺麗に抜け落ちている。


「……は?」


 小さく漏れた声が、やけに軽かった。


 おかしい。


 ここにいる理由が繋がらない。


 普通なら、戦って、負けて、連れてこられた。


 なら――


「……レオンはどこだ」


 自然に口に出ていた。


 確認だった。


「いない」


 背後から声が返る。


 未来は反射的に振り向く。


 そこに、男が立っていた。


 最初からそこにいたように、何の違和感もなく。


 黒いコート。無駄のない立ち姿。


 レグルス。


「……お前か」


 未来は低く言う。


 敵だと分かる。だが同時に、ここで動くのは違うと分かる。


「じゃあ誰が俺を連れてきた」


 苛立ちを隠さずに問う。


 レグルスはすぐには答えない。


 ほんのわずかに視線を外し、言葉を選ぶ。


「順番に話す」


 落ち着いた声だった。


「いきなり全部は繋がらない」


「回りくどいのは嫌いなんだよ」


「まぁ、そうだろうな」


 あっさり返す。


「だが今回は付き合え。お前のためでもある」


 未来は舌打ちを飲み込む。


「……いいから話せ」


 レグルスは頷いた。


「まず、お前は最初から狙われていた」


「ただの戦闘の結果じゃない」


 一拍。


「回収だ」


 未来の目が細くなる。


「……レオンは?」


「ただ役割をこなした、それだけだ」


「もうやつに用はない」


 淡々と言う。


「お前を止めて、意識を切る。それまでだ」


 未来は黙る。


 完全には納得できない。だが筋は通る。


「じゃあここはいったい何だ」


 レグルスはわずかに間を置く。


「お前をそのまま先に通すつもりはない」


「先?」


「会わせる相手がいる」


 未来の眉が動く。


「……誰にだ」


「今は知らなくていい」


 切る。


 そして続ける。


「その前に」


 視線が戻る。


「お前がそれに見合うかどうかを見る」


 未来の空気が変わる。


「……は?」


「そのままの意味だ」


 レグルスは淡々と続ける。


「連れてきた理由は一つじゃない」


「回収もその一つだが、それだけじゃない」


 一歩だけ近づく。


「お前の力を確認する必要がある」


「確認って……テストかよ」


「それに近い」


 否定しない。


「だが形式はない」


 一拍。


「ここから出てみろ」


 未来の思考が止まる。


「……は?」


「閉じている」


 短く言う。


「外とは切り離されている」


「出られるなら、それでいい」


 未来は数秒黙る。


 理解はできる。


 単純な話だ。


「……出られなかったら?」


「会わせる価値はない」


 即答だった。


 未来は歯を食いしばる。


「……気に食わねぇな」


「だろうな」


 レグルスはわずかに肩をすくめる。


「だが、条件はそれだけだ」


 未来は空間を見渡す。


 出口は見えない。


 だが――


「……壊す」


 低く言う。


「見えないなら、見えるまでぶっ壊す」


 レグルスはそれを見て、わずかに目を細める。


「そう来るか」


「他にねぇだろ」


 短い沈黙。


 そして、


「嫌いじゃない」


 静かに言う。


 未来は舌打ちしそうになる。


「ずいぶん上からだな」


「そう見えるなら、それでいい」


 だがレグルスは揺れない。


 そこで、未来の中に別の違和感が残る。


「……なあ」


「何だ」


「お前さ」


 一度言葉を切る。


「なんでそんなに全部分かったような顔してんだよ」


 レグルスはわずかに目を細める。


「分かった顔?」


「してるだろ」


 未来は視線を外さない。


「最初から、全部見えてるみたいな言い方してる」


 レグルスは少しだけ考える。


 否定しない。


「全部ではない」


 静かに言う。


「分かる範囲で話しているだけだ」


「その範囲が広すぎんだよ」


 未来は吐き捨てる。


 レグルスはその言葉を受け止める。


「……お前、ここまで何を見てきた」


 唐突な問いだった。


「は?」


「いいから答えろ」


 短く言われる。


 未来は一度だけ息を吐く。


「……発現してからだろ」


 一拍。


「戦いだよ」


 それだけ言う。


「模擬戦もあったし、実戦もあった」


 言葉はぶっきらぼうだった。


「同じアフェクトでも、能力が全然違うアフェクターたちをみてきた」


 レグルスは頷く。


「なら分かるはずだ」


「恐怖は恐怖のままじゃない」


 黒崎の姿がよぎる。


 立っているだけで空気を支配する、あの圧。


「喜びも、ただ明るいだけじゃない」


 ひかりの光。


 前に進ませる、あの強さ。


「怒りも同じだ」


 ガイの一撃。


 直線的で、だが迷いのない力。


 未来はわずかに目を細める。


「……ああ」


 レグルスは続ける。


「同じアフェクトでも、形は一つじゃない」


「性格や経験で変わる」


 一拍。


「同じ力でもな」


 未来の喉が詰まる。


「……だから何だよ」


 低く言う。


 レグルスは、そこで言った。


「俺も同じだ」


 静かに。


「希望アフェクト」


 一拍。


「お前とは違う形で、そこにいる」


 未来の呼吸が止まる。


「……ふざけんな」


「お前のどこが希望だ」


 レグルスは否定しない。


「そう見えないなら」


「お前はまだ、その形を保っている」


 未来の拳がわずかに震える。


 その時だった。


 レグルスの視線が、わずかに外れる。


 未来ではなく、外側へ。


「……来たか」


「は?」


 未来には何も分からない。


 だがレグルスは把握している。


「数は多い」


 一拍。


「厄介なのは五つ」


 空間が歪む。


 複数の影が現れる。


「第一層で止めろ」


「流れを崩せ」


「抜けた場合は内側で処理する」


「――行け」


 影は消える。


 未来は何も言えない。


 何も聞こえない。


 だが確実に――


 外では、戦いが始まっている。


 そして、


 ここには、まだ届いていない。


第37話

1秒の交錯


第36話を読んでいただきありがとうございました。


ついに、未来とレグルス――

「希望アフェクト同士」の対面を書けました。


同じ力を持ちながら、まったく違う在り方をしている二人。

この対比は、この作品の核になる部分でもあります。


そしてラスト、救出部隊の突入が始まりました。

次話からはいよいよ本格的な戦闘に入っていきます。


もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブックマークや評価をしていただけると、とても励みになります。


一つ一つの反応が、本当に力になっています。


次話もぜひお付き合いください。

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