表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon
課外授業編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/48

第31話 1秒の限界

 力があれば、何かを変えられる。


 そう信じて、ここまで来た。


 見えるものが増えた。

 届くはずの距離も、確かに近づいた。


 それでも――


 “届かない”という現実は、確かに存在する。


 そしてそれは、理解しているからこそ突きつけられる。


 逃げ場のない、事実として。


 第31話「1秒の限界」


 未来の拳が、弾かれる。


 ボフッ――


 鈍い音。


 確かに当たっている。


 骨に伝わる感触もある。


 それでも。


 衝撃は奥へ届かない。


 触れた瞬間、すべてがほどけて、横へ流れて、消える。


 まるで最初から存在しなかったみたいに。


 未来は一歩引いた。


 呼吸が浅い。


 肺が焼けるように熱い。


 喉の奥に、鉄の味が残る。


 それでも。


 視線だけは逸らさない。


 目の前の男――獅堂レオンは、ゆっくりと歩いていた。


 一歩。


 また一歩。


 速くもなく、遅くもない。


 ただ一定のリズムで近づいてくる。


 それだけで、圧がある。


 焦りも、苛立ちもない。


 すべてが“想定内”という顔だった。


(……通らない)


 未来は歯を食いしばる。


 分かっている。


 理由は明確だ。


 透明な膜。


 あれが、すべてを止めている。


 全身じゃない。


 接触した一点にだけ現れる。


 だから。


 ズラせばいい。


 速くすればいい。


 間に合わない瞬間を叩けばいい。


 理屈は、もう分かっている。


 なのに。


 届かない。


「惜しいな」


 レオンが言う。


 軽い声。


「顔見りゃ分かる。ちゃんと見えてる」


 未来は何も返さない。


 ただ、呼吸を整える。


 浅い呼吸を、無理やり深くする。


 肺が軋む。


 それでも、吸う。


 吐く。


(……まだいける)


 手首のブレイクリミットリングが、微かに震えている。


 光が不安定に明滅している。


 熱が溜まっている。


 限界が近い。


 それでも。


 ここで止まるわけにはいかない。


 未来は、踏み込んだ。


 今度は直線じゃない。


 わざと軌道を歪める。


 左へ見せて、右へ。


 視線をずらす。


 レオンの意識を外す。


 そのまま、懐へ。


 距離が消える。


 拳を打つ。


 ボフッ。


 通らない。


 続ける。


 肩。


 脇腹。


 肋骨。


 すべて同じ。


 だが。


 膜の動きが見える。


 どこに出るか。


 どの順番で出るか。


 反応の癖。


(……そこだ)


 未来は一瞬だけ動きを止めた。


 そして。


 意識を一点に絞る。


「……一秒」


 世界が変わる。


 だが今回は違う。


 身体ではない。


 視覚へ。


 意識をすべて集中させる。


 レオンの動きが分解される。


 筋肉の収縮。


 重心の移動。


 呼吸のリズム。


 そして。


 膜の発生。


 どこに出るかではない。


 “いつ出るか”。


 その、ほんのわずかな遅れ。


 完全に見える。


(――ここだ)


 未来は動いた。


 最短で。


 無駄なく。


 距離を潰す。


 拳を引く。


 全身の力を一点の隙に集める。


 迷いはない。


「――ブレイク・インパクト!!」


 叩き込む。


 狙いは、膜が間に合わない瞬間。


 確実に抜ける。


 そう断言できる一撃。


 ドッ――


 重い手応え。


 今までで一番、確かな感触。


 レオンの身体が、わずかに揺れる。


(――いける!!)


 その瞬間。


 膜が、追いつく。


 遅れて。


 それでも確実に。


 ボフッ。


 衝撃が消える。


 なかったことになる。


 すべてが。


 未来の思考が、止まる。


 ほんの一瞬。


 だが、それで十分だった。


 一秒が切れる。


 世界が戻る。


 身体が、一気に重くなる。


 呼吸が乱れる。


 膝が沈む。


 レオンが、目の前にいた。


「……今のは良かったな」


 軽い声。


 だが、その奥にわずかな本音が混じる。


「ちゃんと届きかけてた」


 一歩。


 距離が消える。


「でも」


 拳が来る。


 見えている。


 だが、動けない。


 ドゴッ!!


 顔面に直撃。


 視界が弾ける。


 身体が吹き飛ぶ。


 地面を転がる。


 息が抜ける。


「……足りねぇ」


 レオンの声が、遠く響く。


 未来は、なんとか身体を起こす。


 手をつく。


 立とうとする。


 だが、力が入らない。


 それでも。


 無理やり、立つ。


 足が震える。


 視界が揺れる。


 それでも、前を見る。


「……まだだ」


 声が、かすれる。


 それでも。


 踏み込む。


 だが。


 レオンの動きが速い。


 見えている。


 それでも、身体が追いつかない。


 拳。


 腹。


 肩。


 肋骨。


 連続で叩き込まれる。


 ドンッ

 ドゴッ

 バキッ――


 衝撃が重なる。


 呼吸が潰れる。


 身体が浮く。


 叩きつけられる。


 痛みが、遅れて全身に広がる。


 それでも。


 未来は、地面に手をつく。


 立ち上がろうとする。


 指先が震える。


 腕が上がらない。


 それでも。


 無理やり身体を起こす。


「……なんで」


 声が漏れる。


 分かっている。


 全部見えている。


 やるべきことも分かっている。


 なのに。


「なんで……!」


 拳を地面に叩きつける。


 力が入らない。


 それでも。


「なんで、何も変わんねぇんだよ……!」


 声が、崩れる。


 ここまで来れば、変えられると思っていた。


 力があれば、届くと思っていた。


 でも。


 現実は、何も変わっていない。


 誰も救えていない。


 何も動かせていない。


 ただ。


 止められて。


 終わるだけ。


 レオンが、ゆっくりと近づく。


「いい加減にしろって」


 軽い声。


 そのまま。


 拳が振り下ろされる。


 ドンッ!!


 未来の身体が、真後ろへ吹き飛ぶ。


 背中から叩きつけられる。


 肺の空気が全部抜ける。


「……がっ……!」


 息ができない。


 視界が白くなる。


 音が遠のく。


 身体が、動かない。


 それでも。


 もう一度、起き上がろうとする。


 だが。


 腕が上がらない。


 指先が、わずかに動くだけ。


 そこで止まる。


 レオンの足音が近づく。


 一歩。


 また一歩。


 未来の前で止まる。


「……終わり」


 あっさりと。


 未来は何も言えない。


 ただ。


 頭の奥に、ひとつだけ残る。


(……何も変えられなかった)


 その言葉が、内側に落ちる。


 ――ああ、これが。


 絶望ってやつかよ。


 笑えるくらい、何もできなかった。


絶望という言葉が、未来の中で沈む。


 重く。


 深く。


 逃げ場もなく。


 意識が、落ちていく。


 暗くなる。


 沈む。


 その直前。


 レオンの言葉が、蘇る。


 ――異質


 ――壊す側


(……ふざけるな)


 小さく。


 本当に小さく。


 指先が、わずかに動く。


 だが。


 それ以上は、続かない。


 意識が、完全に途切れた。


 レオンはしゃがみ込む。


「……手間かけさせんなよ」


 未来を担ぎ上げる。


 そのまま歩き出す。


「これで仕事は終わりだ」


 だが――


 ほんの一瞬。


 レオンに抱えられた未来の指先が、微かに震えた。


 誰にも気づかれないほど、小さく。


 それでも確かに。


 何かが、内側で軋み始めていた。



次回

第32話 1秒の暴走-overflow-


第31話、読んでいただきありがとうございます。


 今回は未来にとっての“限界”を描いた回になります。

 単純な敗北ではなく、「見えているのに変えられない」という状況を通して、これまでの積み重ねが一度崩れる瞬間を意識しました。


 また、ブレイクリミットリングの負荷や、一秒の使い方の変化など、戦闘面でも少しずつ次の段階に入っています。

 ただ、それでもなお届かないという構図が、今回の核になっています。


 そしてラスト。


 完全に意識を失ったはずの未来に、わずかに残った“違和感”。

 ここから先、流れは大きく変わっていきます。


 次回は、いよいよ“その先”です。


 引き続き読んでいただけると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ