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アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon
課外授業編

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第32話 1秒の暴走-overflow-

限界は、越えた先で訪れるものだと思っていた。


 だが実際は違う。


 限界は、越えた瞬間に“形を変える”。


 積み上げてきたものが、そのまま力になるとは限らない。


 むしろ――


 制御できない形で、現れることもある。


 第32話「1秒の暴走」


 揺れている。


 一定のリズムで、視界が上下に揺れていた。


 規則的な振動。


 足音。


 誰かが歩いている。


 その背に、未来は担がれていた。


 意識はない。


 呼吸も浅く、力も抜けきっている。


 完全に、戦闘不能。


「……重くはねぇけど、面倒だな」


 獅堂レオンが、軽くぼやく。


 肩に担いだまま、林の中を進む。


 任務は完了。


 あとは持ち帰るだけ。


 それだけのはずだった。


 風が、木々を揺らす。


 葉擦れの音。


 遠くで鳥が鳴く。


 いつもと変わらない、静かな森。


 その中で――


 ほんのわずかに。


 違和感があった。


「……ん?」


 レオンの足が、止まる。


 振動。


 肩に担いだ未来の身体が、ほんの微かに震えた。


 気のせいかと思うほど、小さな変化。


 だが。


 レオンは、その違和感を見逃さない。


「……おい」


 軽く声をかける。


 反応はない。


 意識は戻っていない。


 そのはずだ。


 だが――


 ピシッ。


 小さな音。


 レオンの肩に触れていた未来の指先が、わずかに動いた。


「……」


 レオンの目が細まる。


 次の瞬間。


 空気が、変わった。


 重い。


 圧が落ちる。


 いや、違う。


 “沈む”。


 周囲の空間そのものが、ほんのわずかに沈み込んだような錯覚。


 レオンは、即座に未来を地面へ放り投げた。


 距離を取る。


 同時に構える。


 直感が告げていた。


 これは――


 さっきまでの延長じゃない。


 未来の身体が、地面に転がる。


 動かない。


 はずだった。


 だが。


 ゆっくりと。


 腕が、持ち上がる。


 関節が、ぎこちなく軋む。


 糸で引かれているみたいな、不自然な動き。


 そして。


 未来が、立ち上がった。


 俯いたまま。


 顔は見えない。


 呼吸も、聞こえない。


 ただ。


 そこに“立っている”。


 レオンの口元が、わずかに歪む。


「……おいおい」


 軽く息を吐く。


「冗談だろ」


 未来の頭が、ゆっくりと持ち上がる。


 その目を見た瞬間。


 レオンの思考が、ほんの一瞬だけ止まった。


 焦点が合っていない。


 いや、違う。


 “どこも見ていない”。


 視線が、存在していない。


 そこにあるのは、ただの空白。


 人の目じゃない。


「……暴走、か?」


 レオンが呟く。


 その言葉と同時に。


 未来の身体が、消えた。


「――っ!?」


 反応が、遅れる。


 視界から消えた。


 次の瞬間。


 腹部に、衝撃。


 ドンッ――!!


 レオンの身体が、地面を滑る。


 呼吸が一瞬で潰れる。


「……は?」


 理解が追いつかない。


 見えなかった。


 完全に。


 さっきまでの速度じゃない。


 次の瞬間。


 未来が、目の前にいた。


 距離ゼロ。


 無音。


 予備動作なし。


 拳が振られる。


 レオンは反応する。


 膜を展開。


 間に合う。


 はずだった。


 ドッ――


 衝撃。


 そのまま。


 貫通する。


「……なに?」


 ありえない。


 防御は発動している。


 なのに。


 止まっていない。


 未来の拳が、そのままレオンの身体を打ち抜いた。


 内側に、衝撃が届く。


 初めて。


 確実に。


「……っ!」


 レオンの身体が浮く。


 次の瞬間、さらに一撃。


 横から。


 背後から。


 上から。


 連続。


 速い。


 いや、違う。


 “速い”という認識が追いつかない。


 ただ、結果だけが積み重なる。


 ドンッ

 ドゴッ

 バキッ――


 レオンの身体が、叩きつけられる。


 地面が抉れる。


 土が跳ねる。


 木々が揺れる。


「……なんだよ、それ……!」


 レオンが吐き出す。


 構え直す。


 今度は確実に防ぐ。


 膜を展開する。


 だが。


 未来が踏み込む。


 何の迷いもなく。


 何の躊躇もなく。


 ただ、“壊すためだけ”に。


 拳が振られる。


 膜が出る。


 だが。


 “効かない”。


 いや。


 違う。


 膜そのものが、機能していない。


 触れた瞬間。


 防御が、崩れる。


「……おい」


 レオンの顔から、余裕が消える。


「それ、どうなってる」


 未来は答えない。


 当然だ。


 意識がない。


 ただ。


 身体だけが動いている。


 いや。


 “動かされている”。


 次の一撃。


 レオンは、止めにいく。


 触れる。


 静止させる。


 だが。


 その瞬間。


 未来の動きが、変わる。


 止まらない。


 止められない。


 そのまま、振り抜かれる。


 ドゴッ!!


 レオンの身体が、地面に叩きつけられる。


 息が抜ける。


 視界が揺れる。


「……っ、クソ……!」


 理解する。


 これは。


 ただの強化じゃない。


 もっと、質が違う。


 その時。


 空気の奥で、何かが鳴った。


 声。


 誰のものでもない。


 どこからでもない。


 ただ、響く。


 静かに。


 淡々と。


 ――アフェクトの暴走状態(オーバーフロー)


 ――感情が臨界を超えたとき、制御は失われる。


 ――出力は解放され、理性は排除される。


 ――その結果、能力は本来の制限を逸脱する。


 レオンの目が、わずかに見開かれる。


「……そういうことか」


 未来を見る。


 理解する。


「制御捨てて、全部出してるってわけかよ……!」


 だが。


 それだけじゃない。


 レオンの防御が、通じない。


 それは。


 単なる出力の問題じゃない。


「……こいつ」


 未来が動く。


 止まらない。


 躊躇がない。


 次の一撃が来る。


 レオンは、避ける。


 ギリギリで回避。


 だが。


 その直後。


 未来が、すぐそこにいる。


「……速すぎだろ……!」


 拳。


 直撃。


 防御は意味をなさない。


 そのまま、叩き込まれる。


 レオンの身体が、大きく弾けた。


 地面を転がる。


 呼吸が乱れる。


 立て直す。


 だが。


 間に合わない。


 未来が来る。


 もう一度。


 今度は、逃げられない。


 レオンの目に、初めて焦りが浮かぶ。


「……チッ」


 舌打ち。


 だが。


 次の瞬間。


 未来の拳が、振り下ろされた。


 ドンッ――!!


 地面が沈む。


 衝撃が、森全体に広がる。


 土が舞う。


 木々が軋む。


 その中心で。


 未来は、静かに立っていた。


 呼吸はない。


 表情もない。


 ただ。


 そこにいる。


 壊すための存在として。


 レオンは、地面に倒れたまま、空を見上げる。


 息が荒い。


 身体が、まともに動かない。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れる。


「マジかよ……」


 視線を、未来へ戻す。


「……こりゃ、回収どころじゃねぇな」


 未来は、何も答えない。


 ただ。


 ゆっくりと。


 次の一歩を踏み出した。


次回 

第33話 1秒の回収

第32話、読んでいただきありがとうございます。


 今回は未来の“暴走”を描いた回になります。

 これまで積み上げてきたものが、そのまま強さとして発揮されるのではなく、制御を失った形で現れる――その危うさを意識して描いています。


 また、レオンの能力が通用しない描写についても、単なるパワーアップではなく、質の変化として感じてもらえるよう構成しています。

 この違和感が、今後の展開に大きく関わってきます。


 そして何より、未来はまだ“戻ってきていません”。

 ここから先は、戦いというよりも“どう止めるか”という段階に入っていきます。


 次回以降、状況はさらに大きく動いていきます。


 引き続き読んでいただけると嬉しいです。


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