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アフェクト・ブレイカー ―感情が力になる世界で、たった一秒の能力を持つ少年の物語―  作者: paguzon
課外授業編

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第25話 1秒の重量

※第24話の続きとなります。


 ガイの戦い、決着です。


 前回は「潰される側」でしたが、今回はそこからどう踏み返すのか。


 そして、“前しか見ていなかった戦い方”がどう変わるのかにも注目していただけると嬉しいです。


 この回は、ガイというキャラクターの一つの到達点になっています。

 ズドンッッッ!!!


 轟音。


 衝撃。


 土煙が、開けた斜面のすべてを覆い尽くした。


 岩の砕ける音が遅れて響く。


 地面がまだ微かに軋んでいる。


 その中心で、ドレイクは動かなかった。


 ただ静かに、土煙の向こうを見ている。


「立てるなら立ってみろ」


 低い声が落ちた。


「次で潰す」


 返事はない。


 風が吹く。


 土煙が少しずつ流れていく。


 崩れた岩。


 抉れた地面。


 その中に、人影は見えない。


 普通なら、ここで終わっている。


 ドレイクは一歩、前へ出た。


 足元が沈む。


 その巨体が近づくだけで、空気がまた重くなる。


「しぶといだけじゃ意味はねえ」


 吐き捨てるように言った、その時だった。


 ガラ、と。


 崩れた岩の影で、何かが動いた。


 ドレイクの目が細くなる。


 次の瞬間。


 岩の隙間から、腕が伸びた。


 土まみれの腕。


 血で汚れた拳。


 それが、地面を掴む。


「……っ、は」


 濁った呼吸。


 そして、ガイが立ち上がった。


 全身がひどい有様だった。


 肩は腫れ、頬は切れ、制服は何箇所も裂けている。呼吸も荒い。足元はふらついていた。


 土と血で汚れたその姿は、立っていること自体が異常に見えた。


 それでも。


 まだ、前を向いている。


 だが。


 目だけは、死んでいなかった。


「……やっぱ、いてえな」


 口の端から血を垂らしたまま、ガイが笑う。


 ドレイクは数秒、無言でそれを見ていた。


 やがて、短く鼻を鳴らす。


「そういうやつか」


「何度潰しても立つ」


「嫌いじゃねえよ」


 ガイは答えない。


 視線は、ドレイクから外れていない。


 いや。


 前とは少し違っていた。


 肩。


 足元。


 拳を振るう前の重心の沈み。


 周囲に浮いている岩の位置。


 地面が軋む順番。


 呼吸の間。


 重さが切り替わる前の、ほんのわずかな空気の揺れ。


 全部を見ている。


 ドレイクが、その変化に気づく。


「……何だ」


 わずかに眉を寄せる。


「まだ折れてねえのは分かる」


「だが、お前の目……さっきと違うな」


 ガイはゆっくり息を吐いた。


 肺が痛い。


 腹の奥も焼けるようだ。


 立っているだけで、身体中が悲鳴を上げている。


 それでも、目を逸らさない。


「さっきまでの俺は」


 一歩。


 踏み出す。


 ズン、と重さがかかる。


 足首が沈む。


 膝が軋む。


 だが、それでも止まらない。


「前しか見てなかった」


 ドレイクの口元が、わずかに動く。


「今さら気づいたか」


「今さらで悪いかよ」


 もう一歩。


 足元が沈む。


 土が悲鳴を上げる。


 それでも、ガイは踏む。


「でもな」


 一拍。


「前しか見てねえんじゃねえ」


 拳を握る。


 血と土で汚れた指が、ぎしりと音を立てる。


「今まで、“見えてなかった”だけだ」


 その言葉に、ドレイクの目がわずかに細くなった。


 ズンッ。


 空気がまた重くなる。


 今度は一点じゃない。


 広範囲。


 地面ごと潰すような、面の圧。


 立っているだけで骨が沈みそうな、圧倒的な質量の支配。


「見えたところで変わらねえよ」


 ドレイクが両腕を広げる。


 周囲の岩が、一斉に浮く。


 軽くなる。


 次の瞬間には、全部が極端な重量を持つ。


「潰れるもんは潰れる」


 落ちる。


 雨みたいに。


 いや、滝のように。


 無数の質量塊が空から叩きつけられる。


 普通なら避ける。


 避けられないなら防ぐ。


 だが、ガイは動かなかった。


 いや。


 動けないんじゃない。


 動かなかった。


「……見えてる」


 小さく、呟く。


 ドレイクの肩が、落ちる瞬間。


 岩が軽くなる瞬間。


 重さが戻る瞬間。


 全部、切り替わっている。


 ほんの一瞬。


 わずかな継ぎ目。


 そこだけは、絶対にある。


 ガイの頭に、ひとつの光景がよぎった。


 未来。


 入学試験の時。


 たった一瞬に全部を合わせて、ありえない踏み込みを見せたあいつの戦い方。


 無茶苦茶で。


 危うくて。


 けれど、あの一瞬だけは誰よりも正確だった。


 真正面から来るだけの戦いじゃない。


 “見ている”から踏み込める戦い方。


(あいつは、一秒で決めてた)


 一拍。


(俺は違う)


 目を細める。


 拳に力が入る。


(でも――)


 身体の芯が、静かに熱を持つ。


(いるのは、一瞬で十分だ)


 落ちてくる岩。


 迫る質量。


 空気が潰れる。


 その中で。


 ガイは、一歩だけ踏み出した。


 ドレイクの目が見開かれる。


「……何を見てやがる」


 岩が落ちる。


 だが、ガイはその全部を見ていない。


 見ているのはひとつだけだ。


 ドレイクが重さを切り替える、その一瞬。


 そこで、すべての力の流れが変わる。


 そこだけが、噛み合わない。


 そこだけが、止まる。


 そこだけが、世界の継ぎ目みたいに見える。


「全部じゃねえ」


 ガイが言う。


 岩が肩を掠める。


 血が散る。


 頬を裂く。


 それでも止まらない。


「でも――」


 もう一歩。


 地面が沈む。


 足がめり込む。


 それでも、前へ。


「お前の“隙”だけは見えてる」


 ドレイクが咄嗟に両腕を前へ出す。


 防御。


 さらに自分の重さを乗せる。


 受ける気だ。


 正面から来るなら、そのまま潰せる。


 そのはずだった。


 ガイは拳を引いた。


 大きくではない。


 必要最低限。


 肩も。


 腰も。


 足も。


 全部が、ひとつの軸に揃う。


 派手な予備動作はない。


 ただ、全身が静かに沈む。


 その一瞬だけ、爆発の前みたいな静けさが生まれた。


 まるで、時間が一拍だけ止まったような。


 あの未来の踏み込みを見た時と、同じ種類の静けさだった。


「……それで終わりか?」


 ドレイクが言う。


 ガイは、笑った。


「終わるかよ」


 踏み込む。


 ズン、と。


 自分にかけられた重さごと、地面を蹴る。


 普通なら加速を殺すだけの圧。


 だが、ガイはそれを押し返すんじゃない。


 乗せる。


 潰される力ごと、拳に通す。


 重さそのものを、打撃の芯に変える。


「――震穿(しんせん)


 短く。


 低く。


 その一言だった。


 拳が突き出される。


 ドンッ――


 音は、思ったより小さかった。


 表面を派手に吹き飛ばす打撃じゃない。


 だが、次の瞬間。


 ドレイクの表情が、変わった。


「……っ!?」


 拳は、確かに受けた。


 防いだはずだった。


 なのに。


 衝撃が“中”に入ってくる。


 腕で止めたはずの打撃が、骨を、筋肉を、内臓を震わせながら貫いてくる。


 表面を砕くんじゃない。


 芯に届く。


 奥まで届く。


 重さで止めたはずの防御を、そのまま“貫通”してくる。


 ワンテンポ遅れて。


 ドゴォッ!!


 ドレイクの身体の内側で、衝撃が爆ぜた。


「がっ……!!」


 巨体が、浮く。


 自分の重さを支えきれない。


 いや、自分の重さそのものが崩されている。


 ドレイクの両膝が沈む。


 表面じゃない。


 芯を打ち抜かれたような崩れ方だった。


 ガイは止まらない。


 さらに踏み込む。


 今度は大きく。


「重いなら――」


 一歩。


「そのまま、叩き返すだけだ!!」


 腹の底から叫ぶ。


 ドレイクが顔を上げる。


 だが遅い。


 体勢は、もう立て直せない。


 ガイの拳がもう一度振り抜かれる。


「爆震拳ッ!!」


 ドンッッッ!!!


 今度は、正面から。


 何も隠さない、ガイらしい一撃だった。


 震穿で崩した芯へ、爆震拳を叩き込む。


 二段。


 連続。


 逃げ場のない、決定打。


 重さを操る敵に、真正面からではなく、見切った“切り替えの瞬間”を通して叩き込まれた一撃。


「――っ!!」


 ドレイクの身体が大きく吹き飛ぶ。


 地面をえぐりながら転がる。


 一度。


 二度。


 三度。


 そして、止まる。


 動かない。


 完全に、沈黙していた。


 静寂。


 風が遅れて戻ってくる。


 舞っていた土が、少しずつ落ちる。


 ガイは、その場に立ったままだった。


 拳を下ろす。


 息が荒い。


 膝が、今にも折れそうだ。


 それでも、倒れない。


「……はぁ」


 短く息を吐く。


 そのままドレイクを見る。


 もう動かない。


 重さの圧も消えている。


 数秒。


 何も起きないことを確認してから。


 ガイは、かすかに口元を歪めた。


「……これで、通さずに済んだか」


 それは勝利宣言というより。


 自分に言い聞かせるような、低い確認だった。


 未来の顔が、頭の片隅をかすめる。


 理屈じゃない。


 でも。


 ここで止めなきゃいけなかった。


 その感覚だけは、まだ胸の奥に残っている。


 数秒。


 何も動かないことを確認してから、ガイはようやく膝をついた。


 全身が悲鳴を上げている。


 今さらみたいに痛みが返ってくる。


「くそ……いてえな」


 笑うように吐き捨てる。


 その時。


 風の向こうから、足音が聞こえた。


 ガイが顔を上げる。


 最初に現れたのは、ゆいだった。


 相変わらず無駄のない足取り。


 傷も少ない。


「終わったのね」


 静かな声。


 ガイは口元を歪める。


「そっちもか」


「ええ」


 短い返事。


 余計な言葉はない。


 だが、それで十分だった。


 少し遅れて。


 別方向から、ひかりとハヤトが姿を見せる。


「……いた!」


 ひかりが声を上げる。


 ハヤトは周囲を見てから、小さく息を吐いた。


「間に合った……いや、終わってたか」


 ガイが片手を上げる。


「なんとかな」


 ひかりが近づいて、ガイの姿を見て眉をひそめた。


「なんとかな、で済む見た目じゃないんだけど」


「そっちは」


「似たようなもん」


 そう言って笑うが、ひかりも十分ボロボロだ。


 ハヤトが周囲を確認する。


「一旦、全員無事か」


 ガイの目が、わずかに細くなる。


 さっき胸をよぎった感覚が、まだ残っている。


 理屈じゃない。


 でも、消えない。


(……未来)


 薄く、舌打ちする。


「行くぞ」


 ガイが言う。


 立ち上がる。


 脚が重い。


 それでも、立つ。


 ひかりが「無茶しないで」と言いかけるが、ガイは聞かない。


「未来が危ねえ」


 短く。


 はっきりと。


 その一言だった。


 ハヤトの目がわずかに細くなる。


「……根拠は?」


「ねえよ」


 即答だった。


「でも、分かる」


 一拍。


「嫌な感じが、消えねえ」


 ひかりが眉を寄せる。


 だが、すぐに小さく息を吐いた。


「……分かった」


 ゆいは何も言わない。


 ただ静かに、進む方向へ視線を向ける。


 ハヤトも一度だけ頷く。


「行こう」


 四人が並ぶ。


 風が吹く。


 次の戦いの気配が、確かにそこにあった。



次回

第26話 1秒の解放


 第25話「1秒の重量」でした。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。


 今回はガイの戦いを“勝つための力”ではなく、“見えるようになることで勝つ戦い”として描きました。


 前しか見ていなかった弱さ。


 届かなかった過去。


 そして、未来の戦いから受けた影響。


 それらがすべて繋がった結果が、今回の一撃です。


 個人的にもかなり気に入っている戦闘回になりました。


 そしてラストですが、次は別の場所での戦いに移ります。


 ガイが感じた“嫌な感覚”が何だったのか。


 ぜひそのまま続きも読んでいただけると嬉しいです。

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