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第八章 初めての大人の恐怖
疲れた様子の行商人が村を訪れ、大人たちに東の遠い集落が襲われたという話をしていた。
壁越しにその会話を聞いてしまったフィンは、大人にも――言葉にしない恐怖があるのだと、初めて知った。
「ねえ、この村も、誰かに襲われたりする?」
母に尋ねると、いつもと同じ優しい声が返ってきた。
「前もって怖がっても仕方ないわ」
そう言いながら、母は以前より少しだけ長く、街道の方を見つめるようになった。
フィンはその空気を変えようと、いつもの調子で自分の将来の武勇伝を語り始める。母は笑ってくれた。だがその笑い方は、いつもと少しだけ違っていた。
その夜、父がいつもより早く、玄関の鍵をかけた。
フィンは何も言わなかった。
ただ、その音を、なぜか長く覚えていた。
穏やかな日常に、初めて小さなひびが入った夜だった。




