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第五章 母の手
ある日、フィンは母の手が以前よりずっと荒れていることに気づいた。
「どうしてそんなに働くの?」
「大人になると、そういうものなのよ」
母はそう答えて、いつものように微笑んだ。
その晩、フィンはこっそり家事を手伝おうとした。だが張り切りすぎて、皿を二枚割り、水を盆ごとひっくり返してしまった。
帰ってきた母がそれを見て、フィンは咄嗟に言い訳を考え始める。怒られる、そう覚悟していた。
けれど母は笑って、フィンを抱きしめた。
「いつも自分で全部やるのが助けとは限らないの。そばにいてくれるだけで、十分なときもあるのよ」
フィンにはまだ、その言葉の意味が半分もわからなかった。それでも、なぜかその言葉だけは、しっかりと胸に残った。
寝る前、フィンは初めて自分から皿を洗った。
今度は――一枚しか割らなかった。
母との何気ないやり取り。だがこの温かさこそが、後にあの木の御守りが持つ重さを、静かに支えることになる。




