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第二章 悪さのごほうび
市場の手伝いをしていたフィンは、あっという間にリンゴの籠をひっくり返した。
「――あ」
転がるリンゴを慌てて拾い集める。だが一番大きな一個だけが、老いた行商人の荷車の下へ転がり込んでしまった。
母に見つかる前に何とかしようと、フィンは棒を突っ込んで悪戦苦闘する。その様子に気づいた行商人は、怒るどころか声をあげて笑い出した。
「そんなに必死になるなら、逃げなかった分は褒めてやろう」
行商人はフィンにリンゴを一つ、手渡した。罰ではなく、ご褒美だった。
家に帰ったフィンは、得意満面でこう宣言する。
「今日、僕は村一番の働き者に認定されたよ」
母は空になった籠を見て、首をかしげた。
「じゃあ、どうしてリンゴが三つも減ってるのかしら」
フィンはしばらく黙り込み、それから胸を張って答えた。
「偉大な働き者には、時々ボーナスが必要なんだ」
母は呆れながらも笑い、その夜の食卓にはリンゴの匂いが漂っていた。
何気ない一日。特別な事件など何も起きていない。
けれどその「何も起きない」時間こそが、後になって、誰もが一番恋しく思うものになる。




