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08,戦勝パーティーにて

 いつものパーティーはとても楽しかった。みんな私に群がり心にもないお世辞を並べ立て、中には愛人など影響力ある高い地位を目当てに甘い言葉を囁く者もいる。誰の手も届かない場所にいるような優越感がとても愉快だった。でも今日は全く楽しいと思わない。世界からヘデラという虹色が消えた今では、色とりどりのドレスや料理がどれも色褪せているように見える。

 

 「お久しぶりです。皇女殿下」

 

 挨拶を終えて私の周りから人が減り始めた頃、ヘデラと同じ制服を身にまとった小柄な男が私に声をかけた。威厳を感じられる堂々とした佇まい、私はあからさまに険しい顔色を浮かべた。


 「騎士団長……まだ任命式をしていないのに、もう団長を気取っているのね」

 「生前のヘデラ元団長から直々に任命されましたので……お気に障ったのなら申し訳ございません」

 「気にしてないわ。」


 嫌味を言ったり皮肉を交えたりして話していると、隣から私を呼ぶ女の声がした。私を恐れているのか、やけに腰が低い。


 「皇女殿下」

 「何?」

 「騎士の方々の人数を先ほど数えましたところ、29名しかおりませんでした。30名招待していると耳にしたのですが、いかがいたしましょうか」

 「その人数であってるから、楽しいお話の邪魔をしないでもらえる?ダイアナ・ローゼリア」

 「も、申し訳ございません」


 ダイアナが顔を真っ赤にして人混みを潜り抜けて消えていく。あと1人は言わずもがな分かるでしょうに。

 にこりと笑って生意気小僧との会話を続けた。

 

 「そういえば、ヘデラ以外の団員の名前を知らなくてね。あなたの名前を教えてもらえるかしら?」

 「自己紹介が遅くなり申し訳ございません。コーダと申します」

 「聞いたことのない名前ね。外国産かしら?」

 「いいえ、有難いことに生まれも育ちもパールパレスでございます」

 「へえ」

 

 声色にほんのり嫉妬が混ざったかもしれない。

 

 「今日はぜひ楽しんでちょうだい。あなたにとってはもう二度と踏み入れることすら叶わない貴重なパーティーなんだから」

 「お招きいただきありがとうございます。存分に楽しませていただきます」

 「それと、1つだけ私から従者としての心構えを教えてあげる」

 

 コーダに飲みかけのワインを頭から被せた。ライム色の髪に紅い汁が滴る。

 怒りを堪えるのに必死なコーダに向かって振り向きざまに呟いた。


 「平民ならば身分を弁えるくらいの常識は守りなさい。コーダ騎士団員」


 下民に背を向けると、目の前にリラが立っていた。リラは時代遅れの特徴的なドレスを好むから、すぐに判別できる。


 「リーウィン! 久しぶりね」

 「げっ」


 リラ・シリンガ。パールパレスの二大公爵家の1つ、国の報道機関を牛耳るシリンガ公爵家の一人娘。両家は建国時から仲が良く、私たちも幼いころから交流があった。私が人の顔を識別できないことを知り私が心を開く数少ない人でもある。

 

 「げっ、ってなによ失礼ね。あぁ、また新米騎士団長を苛めていたの」

 「ただの団員よ。私は教育してただけ」

 「あんたは団員ごときに興味なんて示さないでしょ」

 

 リラはコーダに駆け寄り、私に掛けられたワインをハンカチで拭いた。白い制服には既に染み込んでいて馴染まない。

 正直、私はリラが苦手だ。成長するにつれ何を考えているのか分からなくなっていく。昔は雰囲気で全部わかったのに。


 「また親友に汚されるかもだけど、参加したいなら早く着替えてきなさい」

 「ありがとうございます、シリンガ様」

 「シリンガなんて堅苦しい。リラでいいわよ」

 

 マントで濡れた制服を隠し出ていくコーダにお淑やかに手を振り、姿が見えなくなると私に詰め寄った。


 「そうそう、ヘデラチャンの件は残念だったわね。あんたのことだから、引きずって今日は主催者不在のパーティーになるかと思ったわ。司会する準備もしてきたのに」

 「余計なお世話よ」

 「ちなみにだけど、私はちゃんと警告したわよ?」

 「覚えてる」

 「珍しい」


 返事をせず黙りこくった。そうすれば自然と離れて行くと思ったが、いつになっても私の傍から離れようとしない。

 むしろジロジロとみられてる気がする。我慢できず口を開いた。


 「――何よ?」

 「ユディト様とかって興味ない?」

 「ユディト? もうとっくに死んでるでしょ?」


 久しぶりにその名前を聞いた。

 

 「本気で言ってる? 無関心にも程がないかしら」

 「故人に関心を寄せる意味があるとは思えないけど」


 会場に不穏な空気が漂い始める。様子がおかしいリラに違和感を覚えた――刹那。

 

 「きゃああああああ!!」


 入り口の扉が開き、近くから貴婦人の耳がキーンとなる悲鳴が響いた。

 騎士2人が薄汚い服を着たみっともない男の腕を掴んで連れてきた。口には鉄製の轡が嵌められている。あまりに場違いな光景にこめかみが軋んだ。


 鮮やかなレッドカーペットに放り投げられると、我慢ならずに口を動かした。

 

 「神聖な場でなんてことを、今すぐ追い出して連れてきた騎士もろとも牢に入れなさい」


 近くの近衛兵に命令すると、冷静なリラが即座に止めた。見えなくても笑っている様子が窺える。気味が悪かった。

 リラは間を開けて言った。


 「やっと来たのよ。ユディト様が」

 「ユディト?」


 そう言われても、ユディトには特に何も渡してないから本当かどうか判別ができない。癖とかも覚えてないし。

 

 リラは戦勝パーティーにユディトが来るって知っていたの?

明日の12:10に第9話更新します。よろしくお願いいたします。


個人的にはヘデラより先にユディトと出逢っていればペリウィンクルはユディトに執着していたのかなと思います。

そしてヘデラは騎士団長になりペリウィンクルに苛められる。こんなルートもどこかで書きたいです。

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