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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」
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幕間 アタシの平穏

 病院から退院してすぐのアタシの最優先行動は、ある一軒家へ報告に向かうことだった。


 前に訪問した記憶を頼りに道を歩くと、だんだんと見覚えのある風景ばかりになってきた。

 閑静な街並みの、普通の一軒家。


 遠くからじゃ前見えた表札の文字も見えないなー……


 ってそんなのはいーんだよ。今はアタシのことは後回し。


 アタシは表札に近づいて「三好」と書かれてるのを確認すると、家のインターホンを、そっと押す。


『はい……三好です』

「あ、三好さん、アタシです。月城です」

『……! 今鍵を開けます』


 慌ただしい音と共に、玄関口が開いて三好さん……久我為幸により旦那さんを殺された被害者と、顔を合わせた。


 前に見た時から変わらず、深すぎる目の隈……


「とりあえず上がってください……」

「それじゃあ遠慮なくお邪魔します」


 家に入りリビングに座ると、三好さんがテーブルを乗り出してきた。


「そ、それで主人を殺した犯人は、どうなったんですか!」

「ちょちょ、落ち着いてください。アタシ自身が言えることはひとつしかないんですから」


 三好さんを宥めて座らせると、アタシも背筋を伸ばす。


 久我為幸について直接名前を出すことはできない。それでもアタシが伝えるべきことがある。


「……ちゃんと終わりましたよ。()()が終わってしまいました」

「…………」


 三好さんはアタシを見ながら口を押さえると、静かに涙を流した。

 静かに漏れる息が部屋に響いて、アタシはそれ以上声をかけられなかった。


 しばらくすると三好さんは落ち着いたみたいで、胸に手を当てて静かに俯いていた。


「ありがとうございました。全部ということは犯人が……」

「それ以上アタシは言えません」


 でも、伝えるべきだよね。


「……アタシの仲間たちがやってくれました。アタシはなーんにもしていません。アタシに出来たのは三好さんにこのことを伝えることくらいで……」


「だから、感謝も何も、しないでください」


 アタシのやるべき事は終わった。


「……じゃー、アタシは帰ります――」

「待ってください」


 立ち上がろうとしたら、三好さんに手を掴まれた。

 驚いて三好さんの顔を見ると、そこには笑顔があった。


「え……」

「月城さんが何もしていないなんてことはありません。話を聞いてくれた。調査してくれた。そして今、制約もあるでしょうに、わざわざ終わったのだと、伝えに来てくれました」

「それだけで、私の心が楽になったんです」

「貴方自身が何もしていないはずありません。だって……」


 三好さんのあったかい手がアタシの顔に触れる。

 やめてよ、もー……


「貴方も疲れた顔をしています。何もしていない人がそんな顔にはなりません」


 ……………………はー、まったく。


「ありがとうございます。なんか、嬉しいです」


 ただ報告しに来ただけなのに、ちょっと元気もらっちゃったなー……。





「……これであの人も前を向けるかな……って、みれ!」


 あれから事務所に帰ると、事務所の前の通りでみれを見つけてしまった……

 道の反対側で良かった。看板がいい遮蔽物になる。


「あー……っとー……?」


 遠いとみれの顔も見えづらい。一番イヤかも。


 仕方ない。スマホで……


 スマホのカメラでみれの顔を拡大していると、ちょうどレイちゃんと陽樹が後ろから走ってきた。

 それを見るみれの顔は……


「………………よかった。なんかスッキリしてそう」


 レイちゃんに話したかったことは話せたみたいかなー。

 これでひとまず大丈夫。いっつも一人で責任感じちゃうんだから。


「アタシもスッキリ前向けゆら!」


 決意を口に出すと、世界が言葉を聞いたような気がしてやらなきゃって気持ちになれる。

 うん、やる気出てきた!


「よし……」

「おーい! みーれー!」


 大声で呼びかけると、みれもレイちゃんも陽樹も振り返る。


 これまで通りだ。そしてこれからも――


 みれの為に、アタシは何でもする。

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