32.うずまき
ゲーム内、haluさんへメッセージとプレゼントを送り胸を撫で下ろす。思い立ってから描き始めたクリスマスプレゼントの絵は思いの外すぐに完成し、なんとか今日渡すことができた。
(間に合って良かった......haluさん、喜んでくれたかな?ふふっ)
気がつくとにまにま口元が緩む。胸の奥が暖かい。これは決して風邪による熱ではない。それは、今日だけではなく、これまでに幾度となくこの暖かさを経験しているため理解していた。
けれど明確に言葉としては表さない。それをはっきりさせてしまえばこの関係が終わりを迎えてしまうような気がして、怖いからだ。
(......できれば、ずっと隣にいたい。あの人の隣は、楽しい)
ネトゲを開始した当初の目的は、幼なじみの春一くんの気持ちを理解する事だった。そしてそれはもう既に理解し達成されている。
現実世界とは違う、もう一つのリアル。人の心の集う場所。
勿論、プレイヤーでなくとも、そこに存在するNPCやモンスター等のゲームデータにも命がある。
だからこそキャラクターが命を落とせば悲しくなり、モンスターを倒した時には悲しくなる。
(これが、春一くんの好きな世界......)
私は、やっと......今更ながらも春一くんがこの世界に誘ってくれた理由が理解できた。
――そして、それと同時に......知りもせず遠ざけたあの頃の無知な私を、私は悔いた。
(それに今ではわかる。なぜ私が春一くんがネトゲを始めるのが嫌だったのか......)
額に貼り付けていた冷感シートがぼとりとキーボードに落ちる。
「......あ」
もうすっかりぬるくなってしまったそれを拾い、捨てようと立ち上がり、足元がふらつくのに私は熱の上昇を感じる。
学校から帰宅して数十分の仮眠をとり、遅れながらもネトゲの待ち合わせに駆けつけた。けれど、あまりの楽しい時間に少し無茶をしてしまったみたいだ。
「少し......体調もどったから大丈夫だと思ったんだけど、マズイかなこれ」
明日、学校に行けるかなと心配が頭をよぎる。それと共に彼の顔も思い浮かび首を横にふった。
(春一くんを心配させるわけにはいかない......あした、マフラー返さなきゃだし)
シャワー浴びて、お薬を飲んで、すぐに寝よう......たくさん睡眠をとれば明日には治るはず。
体調の悪い重い体を引きずって体温計をさがしに歩く。二人笑顔の写真立てを通り過ぎ、一歩一歩。
(......やっぱり。 春一くんの言うとおり......風邪ひいちゃったな)
言葉とは裏腹に、にやにやしている自分がいる。彼の言葉が私の胸の奥に揺れて感情を揺さぶってくる。
(......今、なにしてんだろ。 って、ゲームか)
やることを一通りこなし、ようやく布団へと横になる。彼の匂いがするマフラー。それを抱きしめ温もりに包まれながら、ゆっくりと微睡みに揺られ始める。
(......あったかい......)
なんだか、安心する。まるで側に彼がいるみたいで。
ああ......でも、どうせなら夢にも来てくれれば良いのに。
夢の中で、ゲーム一緒にしたい。春一くんはあの世界の何処で何をしているんだろう。
......あとどれくらいで私は彼の隣に並べるんだろう。
がんばれば、また昔のように遊んでくれるのかな。
鞄にぶら下がる、林檎のキーホルダー。
彼から貰った大切なそれをぼんやりみながら、私は眠りに落ちた。
◇◆◇◆◇◆
――ゲームなんかしたって仕方ないわ、春一くん。
「......そっか、わかった」
それは中学生になったばかりの春の事だった――
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