29.はくび
「またぼーっとしてますね、春一くん」
「白雪」
「寝不足ですか? またゲーム?」
「あー、まあな」
(......まあ、実の所それだけでも無いんだけどな)
「本当に好きなんですね、ゲーム」
いつの間にか曇り空が開けている。落ちる日差しが白雪と俺を順に照らす。
「白雪はこんなところで何してるんだ?」
「私は部活動を」
「美術部だったっけ」
「はい。 雪のかかる樹を描こうと」
指差す先には真っ白に雪をかぶった綿飴のような大樹が。その姿はFDの世界にあっても不思議じゃないファンタジー色の強いものだった。
「この樹ってこの高校が出来るずっと前からあるんだってな」
「みたいですね」
相槌をうちながら彼女は抱えていた画板を首にぶら下げ、絵を描く準備にはいる。左のポケットから忍ばせていた鉛筆を取り出し、対照的に右のポケットに突っ込んだ手には何も持っておらず、不思議に思った。
しかしそれ以上に気になったのが、白雪の手だ。気温はマイナス、日中にとけた雪が氷のはしらを屋根から降ろし、吐息は宙に白くとける。
「寒くねえの?」
「寒いですね」
まあ、だろうね。それに白雪って昔から寒がりだったしな。おそらく手袋などをすると絵の方に影響がでるんだろう......感覚が鈍るとか。
それはわかる気がする。俺もネトゲするときは些細なものでもプレイに影響しそうなものは排除するからな。
(でも、風邪ひいたら大変だよな。 一人暮らしなんだし)
そう思い、俺はおもむろに首に巻いていたマフラーを外す。
絵を描く事に集中している白雪。その眼差しは強かに鋭く美しい。
(......まつ毛長っ)
「白雪」
「はい? ......むぐっ」
俺は自分のマフラーを白雪の首に巻きはじめる。
「風邪ひいたら大変だろ、嫌かもしれないけど俺のも使え」
「え......でも春一くんが風邪ひいちゃいますよ」
「俺の風邪ひいたところみたことあるか?」
「......ない、ですねえ」
「だから心配すんな」
ぐいぐいっとマフラーの位置を整え調整。これ、落ちねえか?大丈夫?
その時ふと間近の白雪と目が合った。
――彼女はなぜだかジト目でこちらを睨んでいるように見えた。
頬が赤らんでいるのは、寒いせいだろう。
気温はマイナス。
――だから。
「......ありがとう、春一くん」
「あ、ああ。 絵、出来たら見せてくれよ......じゃあな、白雪」
彼女は顔だけを横へと向け俺を見つめる。潤む瞳と、赤色の耳と頬。それが更に白雪の体調を心配させた。
無言でこちらを見つめる彼女を横目に、俺はふたたび帰路へとついた。




