22.部屋に (日夏過去編)
扉前に佇む俺。名前を眺め、インターフォンをおそうかおすまいか、指をだしたり引っ込めたり、うんうんうなっていた。
もう思いっきり怪しいやつ。挙動不審な動きに、黒のパーカーとマスクが良い感じに犯罪者っぽく見える。
(......うう、む)
ここまで来るのに準備をして間をおいたからか、冷静になり、やっぱりこんな夜更けに女の子の部屋に入るなんて常識的にどうなのかと、迷い始める俺。
(......女子の家、高嶺の花である真白日夏の......しかも一人暮らし、一人暮らしなんだぞ?)
手汗が滲み出し、心音がゆっくりと加速していく。何もする気はないが、何かを期待する心は思春期の男の子として持ち合わせていて当然だろう。
しかし、冷静になったが故に浮上するもう一つの疑惑。
この話が陰キャいじりかもしれない可能性。もしかすると、彼女らの陽キャグループによる罠かもしれないということだ。
となれば、この部屋へと入ること自体が危険すぎる。
(いや、つーか......そうだよ。 おかしいと思ったんだよ。 あれ程の美人さんだよ? ああは言っていたが、俺に教えを請わなくてもクラスに教えてくれる人間なんざいくらでもいるだろ、フツーに)
......危なかった。もう少しで陽キャの奴隷と化す俺の未来が待ち構えているところだった。いや、マジであぶね〜。帰ろう。
と、その時、携帯が震えた。
俺は「うわあっ!」と叫び声をあげてしまい、うるせえ!と脳内で自分の叫びにツッコミをいれつつ、くるりと扉に背を向けた。そして素早く携帯を操作し、その着信画面を見る。
携帯に映るその番号は、やはりというべきか今日交換したばかりの彼女からだった。おそらくしびれを切らしたんだろう。
「......ど、どうしよう」
「なにがさ?」
「え?」
振り向けばいつの間にか開いている部屋の扉。顔だけだして、不満げに頬を膨らませている真白がジト目で睨んでいた。
「うわああっ!?」
「ちょ、騒がないでよ! 静かに......!」
「ご、ごご、ごめん」
「はい、とにかく早くはいって!」
ぐいっと、手を引かれ部屋の中へ。
「あ、まっ......」
待ってと言おうとする俺の言葉を遮断。
「いいだけ待ったし!」
と、有無を言わせず部屋の中へと連れ込まれた。
(......おお、これが)
玄関に入ると、靴棚の上の花々の写真と、色とりどりの小さなロウソクが目に入った。その隣に黒猫のぬいぐるみがお座りしている。
(女子の部屋か......何か良い匂いがする)
家と間取りは同じなのに、全然印象が変わるな。
「こっちこっち」と、引っ張られリビングへとあげられた。
(やっぱりリビングも綺麗にしてんな、女子の部屋って感じだ。 つーか、なんか観葉植物? ちがうか? たくさん置いてあんな)
鉢に入っている植物が7つほど窓際に置かれている。名前が書かれたシールが貼ってあったが、手を引かれ一瞬しか見れなかった為よくわからなかった。
「はいはい、こっちね〜」
そしてそのままリビング左手の一部屋へと招かれた。
ガチャとドアノブを回し、開けた先に目の当たりにしたのは可愛らしい花がらのベッド。
「寝室!?」
「そだよ〜、きてきて」
「やはり罠かッ!?」
「いや、なにがだし! いいからこっち、ほらゲームみてよ」
踏み入った彼女の部屋をきょろきょろと見回す。
(な、何か......カメラ的な! 隠しカメラどこだ!? 盗聴器は!?)
「ちょっと! そんなにじろじろ見ないでよ! い、急いで片付けたから......あんまし見ないで」
「あ、いやごめん」
そうだよな、これが誤解だとしたら俺は女子の部屋を目に焼き付けようと頑張るただの変態だ。冤罪を避けようとして新たに罪を作ろうとしていた......危ないところだった。
「え、え、どーしたの? ちょっとさっきから挙動不審すぎんだケド」
「確かにな。 すまん、少し疑心暗鬼になっている」
「......?」
不思議そうな顔をしてこちらを見る日夏。
俺は罠であろうがなかろうが、もうこれ以上奇行を重ねないよう、紳士的に冷静にいこうと考えた。もうここまで来てしまえば録画されていたとしたら、言い訳もきかない。
だったら、せめて胸を張って『僕は何もしてないです!』と言えるよう、紳士的かつ誠意に満ちた振る舞いを心がけよう。
そう、彼女がハメる気であれば......もう、なにもかも遅いのだから。せめて、ね。
(しかしこれが女子の寝室......)




