20.あまに (日夏過去編)
あー、ゲームしたい。
「よろしくね、式村春一くん」
「あ、ああ、よろしく......って、俺の名前なんで?」
「同じ学年じゃん! 知ってるよ」
「そ、そうか」
3クラスあってそのクラスも違うんだけど。目立たないこんな陰キャの俺を覚えてるとか......もしかして学年全員の名前と顔を覚えてるのか?すげえな、こいつ。
「あ、ちなみにアタシは、真白日夏っていうの! みんなからはヒナって呼ばれてるよ、良かったら君もヒナって呼んでね?」
「ああ、うん」
いや呼べない。無理、こわい。
「君は、春一くんだから〜、ハルくんだね! 改めてよろしくね、ハルくん!」
(ハルくん......ネトゲと同じ呼ばれ方だな)
彼女は、小悪魔のように悪戯に微笑んだ。
◆◇◆◇◆◇
教える事を約束したその後、恐るべき事態が発生する。なんと日夏はそのまま部屋へ入ってこようとしたのだ。
「いや、まてまてまて! ストップ、ストップ!」と、急いで止めると「? え、教えてくれるんでしょ? なして?」とキョトンと首をかしげ不思議そうな顔をしていたが、それはこっちのセリフつーかこっちの顔なんですけど。
「いや、後で教えるから! 俺ん家では教えらんないから! てか今人いれられる状態じゃないから!」
「ええー、後でって......どうやって教えるきなん? まさかこのまま逃げる気だったり?」
「いや逃げないから! 学校同じだし逃げらんないだろ!」
「ふーん......まあ、それもそーか。 りょ!」
彼女はそう言い、可愛らしく敬礼をした。
バカめ、こうなったら避けまくってやるわ。居留守だってつかってやる。ここで分かれたが最期、残念グッバイだ。はっはっは!
「んじゃ、はいケータイだして? 連絡先交換するから」
「え、俺、ケータイモッテナイ」
「んなわけ無いじゃん! あー、やっぱり逃げるんだ! この人でなしー!!」
いや、声がでかーい!これはさっさと帰らせないとご近所さんに迷惑!!
いや逃げないけど、素直に従うってーのは俺の性分に合わないんだよ。要するに捻くれてるんだよね、俺。
「わかったわかった、ちょっと待て! 今携帯持ってくるから、そう騒ぐな! 近所迷惑だろ!」
「あ、ごめんごめん」
人差し指を唇にあてる彼女。
「でも1分たっても出てこなかったらインターフォン連打するからね、わかった?」
「わかったわかった。 ちゃんと戻ってくる」
「戻ってきたら連絡先交換してアタシにゲーム教える、オッケー?」
「戻ってきたら連絡先交換してゲーム教える、オッケ」
復唱すると彼女は満足気に笑う。そして――
「うむ、よろしい」
彼女は、俺の頭を「よしよし」と撫で撫でする。犬かな?
「お、おい、やめろ!」
「あ、しっつれぃ! あははは」
撫でられた頭がくらくらする。高揚する気持ちに心が追いつかない。
だが、俺はギャルには屈服しない。
例えそれが奇跡のような美しい人、真白日夏であっても。
そう、俺はネトゲ生活に青春を捧げると決めたのだ。