18.ないと (日夏過去編)
きらっきらと直視するには眩しすぎる笑顔を間近に、俺の顔はぐんぐんと熱をおびてゆく。
(やばいやばいやばい!)
ほのかに香る香水と可愛らしい声。思考能力が急激に低下していき頭がくらくらしてくる、と思いきや高速で回転し始めた。
(こいつ近くで見ると物凄く可愛いくねーか......いや遠目でも可愛いが! いや、そりゃ2大美女とか呼ばれんだから可愛いのは当たり前だろ......って、チガウそーじゃねえ! どうにかして逃げねえと......とりあえず質問に答えねば)
「す、すきだけど何?」
「あー! やっぱりー!?」
いや、やっぱりもなにも、そういう他認めない言い方だったきがするんだけど。
「なんかさー、そのゲームめっちゃ人気じゃん? アタシの友達もみんなやっててさあ〜」
すぼめた唇に指をあて、目線を泳がせるギャル。
「だからうちも買ってやりはじめたんだけど、難しくてさ。 ほら、アタシってゲーム苦手な所あるじゃん?」
そうだね、っていや知らねえし!ほら、うちらって今、初めて話すじゃん?
「だからさ、アタシ、ゲームの進みがすんごく遅いんだよね、友達にも置いてかれちゃっててさ〜」
「そ、そうなのか......それは、悲しいな」
いやまあ、確かにその気持ちはわかるかもしれん。ネトゲ内の話だが、仲の良いフレが先にコンテンツをクリアしていくのを指くわえて見ているのは辛いものがある。そいつニートだからあれなんだけどね。
悲しげな顔をする彼女に、俺は出来るだけ優しく声をかける。
「まあ、でも仕方ないよ、このゲーム最初なれるまで大変だから。 覚えること山のようにあるしな」
「ねー、そーなんだよね! いやあ、さっすがぁ! 話わかるねえ!」
バンバンと背中を叩かれる。しかし全然痛くないのはやはり女の子だからなのか、俺がヒョロいから手加減をしてくれているからなのかは計りかねる所だった。
つーか、なれなれしいな、この人。これが陽キャの力......ッ!!
そして彼女は次の瞬間とんでもないことを口にする。
「だからさ、君、アタシにゲーム教えてよ!」
天使が微笑んだように見えた。
彼女の美しい亜麻色の髪がふわりと浮き、うっすらと甘い色した唇の動きが心ごと言葉を奪い去る。
心音が煩く鼓動し、見つめる彼女の透明な碧に吸い込まれる。
曇り空の向こう......その果てにある、雨上がりに架かる虹を目にしたかのよう。心が奪われそうな、光。
まるでドラマのワンシーン。
――美しく可憐な、真白日夏のお願い。
そして俺は小さく頷き、返事をかえした。
「え、嫌です」