第21話「2021」
「え、松下先輩のが燃えたの?」
『あぁ、おそらくはあいつのエンジンの酷使が原因だろうな。直近2周のパワーユニットの温度、お前の倍くらいの温度だった。』
「そうだったのね。」
彼は私に順位を譲ったあと、3位に落ちた。
そこからの巻き返しを図っていた時に起きたことらしい。
『とりあえず、これで前のマシンとの差は詰まる。タイヤを守ってゆっくり差を詰めるんだ。』
「了解。」
なんとセーフティーカーが解除されると宣言されたのは58周のレースの58周目。
『飛花、ファイナルラップでセーフティーカーがいなくなる、ファイナルラップ、永野との本当の勝負だ。』
「わかった」
ホームストレートに戻って来るとグリーンフラッグが振られる。
トップの永野と2位の飛花が瞬時にレーススピードに戻る。
2台だけのバトル。
約5.2kmで決着がつく。
3位のマシンは一瞬で引き離されていった。
「3位は…米粒同然ね。これなら前にだけ専念できそう。」
赤いマシンを後ろから追い立てる。
「なんだ、この76号車…化物だ。ヒロくんに似てる…喰われる…」
フェラーリの永野は徐々に田邊のプレッシャーにやられ始めていた。
『いいぞ、飛花、永野が焦りだした。』
「その声、松下先輩?」
『あぁ、ここからは田邊先輩と俺でサポートするぞ。』
「ありがとう」
とは言ってもあと数コーナーで決着はつくが。
ターン5を抜け、ターン6に向けて加速。
「DRS起動!」
飛花のマシンのリアウィングが稼働する。
『モーターブーストを使え。ERSを使うんだ。』
ERSとは、パワーユニットに搭載されている排熱をエネルギーに変えるMGU-Hとブレーキ時の運動を電気に変えるMGU-Kから生成される電力を貯め、ブーストに使うシステムだ。
スイッチを押す。
「頼む、頼む…」
「ここ!」
ターン6で永野のイン側に飛び込む。
ピットはこの瞬間、大歓喜。
動揺した永野を横目に飛花がコーナーをクリアする。
最終コーナーを抜けてくる。
1位に輝いたのはモナコGP以来の優勝を決めた田邊飛花。
再び2位に終わった永野駿。
チームのピットは大歓喜だった。
「やったー!飛花が勝ったぞー!」
「お前が1位、1位だ!」
隣で亮が無線で叫ぶ。
『ウーフー!カモーン!イエース!ありがとうみんな!最高のレースだった!』
飛花も喜びが爆発しているようだった。




