34、景品『魔力だんご』のガチャガチャ完成
俺は、シルルとマシューが袋詰めした団子を、ガチャガチャの上部の商品投入口に放り込んだ。
投入口に流し込むと、セロファン袋に入れた団子は、一つ一つ透明な丸いカプセルに包まれて、商品ケースの中に入っていった。
透明なカプセルは、セロファン袋の光沢が反射して、キラキラとしている。商品ケース部分には、魔防バリアを張ってあるようだ。透過魔法での盗難を防止したのだな。
「わぁっ! カール、すっごい綺麗だね。なんだかガチャガチャの中に、たくさんの宝石が詰まっているみたいに見えるよん」
「セロファン袋の光沢と、ビニールテープの色がとても綺麗だね。団子も赤白黒で、いいね」
「はい、想像以上に見た目が綺麗になりましたね。あとは、キチンと団子が出てくるかをテストしたいんですけど、カシャンコのお客さんは、まだ居ますよね」
「そうだね。売店の営業時間に合わせて、カシャンコも終了にするつもりだから、もう少しかな」
「じゃあ、後にしてもいいけど……まぁ、今、設置してしまいますね」
夜中に俺がやろうと思ったが、マシューもシルルも起きていると言いそうだ。いま、やる方が良いだろう。
俺は、呪具に、ガチャガチャを運ばせることにした。別に俺が運んでもよいが、設置するまでは呪具に触れさせておく方が、商品ケースの魔防バリアを維持しやすいだろう。
『え〜、運ぶのぉ? あ〜ん、重いわぁ〜』
(コイツ、いちいち……)
呪具は、野太い気持ち悪い声を上げながら、台車の形に変化した。俺にしか聞こえないのは、いいような悪いような感じだな。コイツの気持ち悪さが、誰にも伝わらない。俺にだけストレスが溜まっていく。
そして、ガチャガチャを乗せて、呪具はガタガタと俺の後をついてきた。ずっと、重い重いとうるさいが、無視しておいた。
ガチャガチャの置き場は……やはり目立つ方が興味をそそられるだろう。出玉を数える計数機の横に置いた。
だが、計数札は細長いな。これでは、ガチャガチャのコイン入れには入らない。
「コインは、専用のメダルを使うか」
『じゃあ、貸玉機にコイン交換の機能をつければいいのねぇ、うふっ、あはっ、うふふっ』
俺は、褒めてくれとすり寄ってくる呪具を蹴り飛ばし、早くやれと命じた。蹴り飛ばしたのに、呪具は喜んでいる。なぜコイツに、こんな性格が形成されたのだ?
(まさか、誰かがいたずらしたのか?)
呪具は、貸玉機にブスリと何かを突き刺した。そして、ほんの一瞬で作り替えたようだ。貸玉機には、計数札をメダルに交換するボタンが追加された。
そして、俺が確認作業をするのをわかっていて、それを先取りし始めた。壺状のケツをふりふり、鼻歌まじりだ。
呪具は、計数機の中へ、オェーと言いながら新たに作り出した銀玉を吐き出した。そして銀玉を数えた計数札を、貸玉機に入れてメダルが出ることを確認していた。
銀玉10.000個で、メダル1個に交換すると言うと、その設定も呪具が自らやっていた。
設定が終わり、交換したメダルを、壺状のケツをふりながら俺に渡しに来た。気を利かせたつもりだろうが、残念だったな。俺は、どんどんストレスが溜まってきたぞ。
呪具の褒めて褒めてを無視し、メダルを受け取ると、ガチャガチャのコイン入れに、メダルをセットした。
そして、ダイヤルをガチャガチャと回すと、カタンと音がして、カプセルが取り出し口に落ちたことがわかった。
取り出し口を開けると、カプセルはパカっと割れて、中身のセロファン袋に入った団子を取り出すことができた。
ふむ、カプセルは、ガチャガチャが回収するのか。空のカプセルは、また団子を補充したときに再利用するのだろう。
「わぁぉ! すごぉいね。この神具、すごく優秀だぁ〜」
シルルが、すごいすごいと拍手していた。すると、呪具は嬉しそうに、壺状のケツをふりふりしている。
「まだ、交換制限の確認ができていないぞ」
俺がそう言うと、慌てて再びメダルを貸玉機から出して、俺に持ってきた。ふむ、忘れていたのだな。俺に渡すと、俺が怒ると感じたのか、スーッと離れていった。いつもそうしていればいいのだ。
俺は、メダルをガチャガチャのコイン入れにセットした。そしてダイヤルを回そうとすると、警告音が鳴った。
「ガチャガチャは一日1回よぉ〜」
野太い声がガチャガチャから流れた。
(この声、女性の方が良いな)
そしてダイヤルはひねっても回らない。さっきダイヤルを握って回したときに、弱い呪いをかけたのか。
俺には呪い耐性がある。だが、回らないということは、魔力識別だけのサーチのようなものなのだろう。
「ふむ、大丈夫なようだな」
そう言うと、すかさずすり寄ってきた呪具に、俺は封印を施した。そして、魔法袋に入れるフリをして、ペンダント型のアイテムボックスに収納した。
(これで、よし)
「カール、これで完成かい?」
「はい、マシューさん。ガチャガチャも、カシャンコセットと繋げたので、これで完成です。あとは、団子の説明ですけど、あえて何もしない方がいいと思います。その方が興味をそそられますし」
「そっか、うん、そうだね。従業員もよくわからない、謎の団子の方が面白いね」
「はい」
「これがなくなったら、また補充は頼めるかい?」
「はい。ですが、100個以上は入ってますし、なかなかなくならないですよ。逆に団子が古くなって、効果が消えないかの方が不安です」
「どれくらい日持ちするんだい?」
「ん〜、たぶんカプセルが保存効果を付与していると思いますけど、どうでしょうね。まぁ、半年くらいなら大丈夫かな」
「じゃあ、安心だね。それまでには立ち寄ってくれるだろう?」
「はい、そうですね」
ふとシルルを見ると、ちょうどあくびをしていた。眠そうだな、そろそろ休ませるか。
俺達は、宿の従業員に案内され、用意された部屋に入った。すぐ隣だが、シルルとは別の部屋だ。
部屋の中は、けっこう広く、綺麗にしてあった。こんな良さそうな部屋なのに、客がいないのか。この宿も、戦乱がなければ、もっと賑わっていただろうか。
俺は、住人の暮らしのことは、これまでは配下から報告を受けてはいたが、興味はなかった。
正直なところ、世界を制圧するための障害となるものしか、気にしていなかった。昔は栄えていただろう宿場町が、このような状況になっているとは、想像しようという気すらなかったのだ。
俺は、ずっと汚れ役だった。そのために、シードルは俺を生み出したのだ。アイツは、自分の悪しき心を切り離し、俺というバケモノを作り出したのだ。
だから、俺は、住人の暮らしなど、考える気もなかった。役目が終われば、俺は消滅するか、どこかでこっそりと生きることになるはずだった。
だが、状況が変わったのだ。
(城を出てきてよかったな)
マルルには、家出だと騒がれたが、俺の当初の狙い通り、配下達は俺を心配して探し回っているようだ。
その一方で、意外ときちんと戦後処理を進めているのは、マルルの指導力なのだろう。
まだ、アプル村と、宿場町しか見ていないが、俺が城に引きこもっている間に、シードルが何かをかなり進めていることがわかった。
それに、この世界の住人が、特に人間が、遊ぶことを忘れている。楽しむという発想が消えてしまっているのだ。
俺とシードルの約束……この世界の覇者としての地位を譲る約束は、いまもまだ有効なのだろうか。シードルは、そんなことはすっかり忘れて、何かを進めている。俺だけが、馬鹿正直に数千年前の約束を守ろうとしているのか……。
(俺は、いつまでこの世界と関わるのだ……)
俺は、この夜、自分自身が何をすべきなのか、答えの見つからないことを、ずっと考え悩んで過ごした。
コンコン!
ドアを叩く音が聞こえた。俺はその音で、現実に引き戻された。今の俺は、12歳の人間のガキだ。
「カール、起きてるー? 朝ごはんを食べて出発だよん」
(朝から元気だな)
「わかった、ちょっと待って」
俺はベッドを使っていなかった。寝たことにしておかないと不自然だ。俺は、ベッドに潜り込んだ。
キィ〜
待てと言ったのに、シルルが部屋を覗いた。そして、俺がベッドの中にいるのを見つけて、目を輝かせている。
(なんだ?)
「もう、カールってば〜。いつまでも寝てないのー。朝ごはんだよん。私が起こしてあげないとダメなんだからぁー」
シルルは、なぜかまた喜んでいるようだ。よくわからないが、俺がグズグズしているのが楽しいらしい。
「わかったから〜。先に食堂に行っていいよ」
「ダメだよん。絶対、カールまた寝ちゃうでしょ。宿のチェックアウトの時間もあるんだからね」
そう言うと、俺のベッドに近づいてきた。
(ちょっと待て)
シルルの、あまりにも警戒心のない行動に、俺は少し動揺した。俺に襲われるとは考えないのか? あ、いや、俺は……12歳の人間のガキだったな。
見た目で言えば、シルルは大人と変わらない。巨人族の血のせいで背が高いのだ。今朝も口紅を塗っている。少し童顔だが、もし18歳だと言われればそう見える。
「もう! シルル、男の部屋に入ってくる意味わかってんの?」
「へ? カールが、男の子なのは知ってるよ?」
(ダメだな、これは……)
俺は、この旅で、やらねばならぬことが増えたような気がした。シルルに、警戒心を持つことを教えねばならない。




