33、呪具で景品交換用のガチャガチャを作る
宿の晩ごはんは、宿の食堂で提供された。シルルは、肉料理が好きらしい。満面の笑みで美味しそうに、口いっぱいに頬ばっていた。
(ふっ、やはり子供だな)
シルルと俺は、この宿に客として、部屋も用意されているらしい。同室はさすがにマズイかと心配したが、マシューの配慮もあってか、別室のようだ。
だが、これからは、共に旅をするとなると……基本、野宿にするか。シルルは気にしないだろうが、俺が気にする。それに俺は眠らないから、やはり、宿で同室はちょっとな。
「カール、昼間の件なんだけど」
俺達が食事を終え、食後にリンゴジュースを飲んでいると、マシューが声をかけてきた。マルル達は、あの後すぐに帰ったようだ。
「はい」
「えーっと……」
マシューは、相変わらず言いにくそうだ。するとシルルが、昼ごはんのときの話をした。
「私、カールに相談されちゃったよん。だから、いろいろアドバイスしてあげたの。これも、買ってきたよん。役所の人がお金出してくれたけど」
「えっと、シルル、それは何だい? リンゴを入れる袋かな。ちょっと小さすぎる気もするけど」
「うん、セロファン袋だよ。小さめでいいってカールがいうから。これで包むと乾かないし綺麗に見えるよん」
「えっ!? ってことは、カール、いいのかい?」
「はい、団子はそのまま放置していると、魔力が空気中に溶け出してしまうと思うので、何かに包む方がいいので」
「そ、そうか、よかった。ありがとう」
「それからね、団子と交換する機械も作るんだよん。カールが、怖い人に団子を強奪されるんじゃないかって心配したから、私がアドバイスしてあげたの」
「へぇ、それはいい。確かに管理が難しいかとは思っていたんだ。機械なら、安心だね」
「はい、従業員の人にも機械は開けられないようにしておきます。そうすれば、無理矢理、開けさせようと乱暴されることもないですから」
「そうか、カールありがとう。シルルはすごい頭がいいね」
「ふふっ、私が居てあげないとねー」
「シルルは、カールのお姉さんみたいだね。実年齢は、カールの方が上だと思うけど」
「でも、カールは世間知らずだから、私が教えてあげないといけないのよん、ふふっ」
俺は、シルルに完全にダメな子供扱いされているようだな。ふっ、まぁよい。シルルが楽しそうだからな。
「マシューさん、団子をもし店で買うなら、どれくらいの値段になりますか」
「えっ、あ、そうだね、対価を支払わないといけないね」
「へ? あ、いえ、銀玉何個と交換する機械にすればいいのか知りたいだけなんですけど」
「そうかい、いや、でもやはり対価は必要だね。うーん、全回復のポーションは、銀貨3枚以上するかな。毒消しはそんなに高くないけど、呪いも解除したよね。呪術士を頼むと、金貨が必要らしいよ」
「なるほど、だいたいの相場がわかりました」
ふむ、金で団子を手に入れようとする者が出てくるかもしれんな。だが、まぁ最初のうちだけだろう。珍しさがなくなれば、そのうち飽きる。
確か、貸玉機の設定は銀貨1枚で2,500個だったな。ということは、10,000個で銀貨4枚か。この辺が妥当だな。
そうだ、一日の交換制限もつけるか。大量に交換して、転売する奴らもいるかもしれん。ふむ、個人の魔力の痕跡を利用して、同一人物の特定ができるようにするか。
俺は考えごとをしながら、こねこねと『魔力だんご』を作った。そして、空き皿に、ぽいぽいと入れていった。
(あっ、三色とも作ってしまったか)
シルルが、ジーッと皿を見つめる視線で、その失敗に気づいた。まぁ、よい。他の団子も、俺の魔力を分け与えるものだ。人によっては、黒や赤を望む者もいるだろう。
「シルル、気になるなら食べてみていいよ。同じ色は一つずつね。二つ食べても効果はないから」
俺がそう言うと、シルルはパッと顔を上げた。ふっ、いい笑顔だな。輝いてみえるぞ。
「マシューさんも、よかったらどうぞ」
「あぁ、ありがとう。俺も気になったんだ」
二人は、赤と黒を手に取った。そして、パクっと食べた。二人とも赤から食べている。黒はちょっと食べにくいのかもしれんな。
「わっ! 白い団子とは全然味が違う〜。野イチゴみたいだね。甘酸っぱくて美味しい」
「そうだね、ベリーみたいだね。お菓子みたいだ」
「これって、やっぱりゾワゾワと何かが上がったよ。魔力じゃないみたい。なんだろう?」
そして、二人はすかさず、黒をパクっと口に入れた。シルルは妙な顔をしている。
「これ、何? 変な味〜」
「黒ゴマ餅みたいだね。うん、俺はこっちの方が美味しいな」
「私は、苦手ー。黒ゴマ嫌い〜」
「ふふ、赤は、ほんの少し攻撃力が上がるよ。黒は黒魔法、白は白魔法の魔力と能力が上がる。でも、ほんのわずかだけどね」
「へぇ、だから、勇者は強いんだね。こんな秘伝があったなんて……。もしかして、これは秘密にしておかなきゃならないものかな」
「僕が作ったとは言わないでもらえると、嬉しいですね」
「そうだよね、カールが秘伝をバラしたと責められるかもしれないね。でも景品にしても大丈夫なのかな? 勇者の家系の人達、この町にもいるんだけど」
(勇者の秘伝なんかじゃないが……)
「大丈夫ですよ。赤い髪の勇者に、白い『魔力だんご』を渡したとき、初めて食べたと言ってましたし」
「そうか、そうだね。じゃあ遠慮なく。対価はどうしようか……。後払いでもいいかい?」
(こんな状態で、客のいない宿から金は取れないな)
「じゃあ、僕とシルルがこの町に来たときは、この宿に無料で宿泊させてください」
「えっ? そんなことでいいのかい?」
「わーい! じゃあ、晩ごはんには肉にしてねー」
「ふふ、晩ごはん付きでお願いします」
「じゃあ、美味しい肉を用意するよ。それでいいかい?」
「うん! いいよ。肉を食べたくなったらここに来ればいいなんて、すごいね、カール」
あまりにもシルルのテンションが高い。俺は思わず、苦笑いをした。マルルも食いしん坊だが、シルルはその上をいくかもしれんな。
なぜか、俺には二人を重ねて考えてしまうようだ。マルルは、堕ちた天使だ。シルルは、白狐と巨人族のハーフ。全く異なる種族なのに、名前が似ているからだろうか。
「シルル、団子をセロファン袋にひとつずつ入れておいてくれる? 僕は、団子と銀玉を交換する機械を作るから」
「わかったよん」
「よし、俺も手伝うよ」
マシューは、何かを魔法袋から取り出した。ビニールテープのようだ。そういえば、袋入りのリンゴは、袋の口をいろいろな色のテープで止めてあったな。
「そのビニールテープは?」
「うん、これは価格がわかるように色分けに使うんだけど、袋の口をしばるのにいいだろ?」
「なるほど、価格ラベルなんですね」
「でも、団子に価格なんてないから、団子の色に合わせて、適当にたくさんの色を使う方が綺麗だよん」
シルルは、マシューにビニールテープを、全色出すように促していた。赤には黄色テープは派手だとか何とかいいながら、楽しそうだ。
いつしか、マシューが団子をセロファン袋にいれて、シルルがビニールテープで袋の口をしばるという流れ作業が出来上がっていた。
リンゴの袋詰めも、流れ作業でやっているのかもしれない。二人とも、とても手際が良い。
(さて、俺もやるか)
二人から少し離れた場所で、俺は兵器製造の呪具を出した。コイツは、念話でしか話せない。気持ち悪い声が聞こえてることはない。カシャンコ台の演出には、気持ち悪い声が音声として響き渡っていたが……。
『また、カシャンコセットなのぉ?』
「今度は別の物だ。だが、少し複雑だから、おまえに無理なら他の呪具を使う」
『いや〜ん、できるわよぉ〜』
(その自信はどこから湧いてるんだ?)
俺は、イメージを呪具に伝えた。すると、呪具は嬉しそうにしている。コイツ、変なことを思いついたな。
「言っておくが、呪いは使うなよ」
『いや〜ん、お見通しなのねぇ〜。いや〜ん、やん、やーん』
(コイツ、壊そうか……)
俺の怒りに気づいたのか、呪具はサッと俺から離れ、おとなしく考えるフリをしている。だが、壺状のケツをふりふりしている様子は、なんだか、バカにされているようで、イライラするが。
『個人識別用に、呪いがダメなら毒に似せた弱い呪いならいいかしらぁ?』
「結局、呪いか」
『じゃないと、一日1回っていう設定はできないわぁ。弱い呪いは一日で消えるようにすれば、制限できるものぉ』
「ふむ、じゃあ、それでよい。ただし、毒に擬装しろよ? 呪具が作ったとわかると、俺の素性がマルルにバレる」
『うふっ、完璧よぉ。あーんな色気のない小娘に、負けるわけないわぁ〜』
(意味がわからん)
なぜか、コイツは、妙にマルルにライバル心を持っているようだ。城で、マルルに何かされたのかもしれんな。
そして、呪具は、ペッと丸い気球型の機械を吐き出した。北部の都会によくあるガチャガチャを大きくしたものだ。都会では、飲み物や菓子の販売用に設置されている。銅貨1枚をセットして、ダイヤルをガチャガチャと回せば、ゴトリと品物が受け取り口に出てくる機械だ。
改良した点は、商品を入れるカプセルを丸く透明にしたことだ。シルルが、ビニールテープの色をこだわっているからな。それに団子が三色あると見える方がよい。
(まぁ、こんなもんだな。団子を入れようか)




