2:絶対に関わらないだろうヤンキー女子
「なぁ、おい。おいって」
声をかけられているようだ。
択夢は目を覚まし、硬い地面を確かめるとわずかに混乱する。
自室のベッドではない。すでに家を出発して登校している途中だ。
「なんでこんなとこで寝てんだよ……大丈夫か?」
「うっ……うぅ……あ、あれ?」
目覚めた択夢は起き上がり、すぐに辺りを見回した。
自分の記憶が間違っていなければ、天使のような美しい少女に乱暴な感じで攻撃されたはずなのだが、近くに彼女の姿はない。
代わりにそこには同じ学校の生徒だろう女子だけがいた。
金髪ショートカットで目つきが鋭く、ピアスまでして、ブレザーの下にパーカーまで着ており、明らかに校則を守っていない。
普段択夢が決して関わらないタイプの生徒だ。
「なぁ、大丈夫かって聞いてんだけど」
「へっ⁉ あ、はい! 大丈夫、です……」
びくっとして思わず反応してしまった。
目の前には睨むようにこちらを見つめる怖そうな女子。
彼女のようなタイプに免疫がない択夢は面白いほどにビビっていた。
「えーっと……あれ? 僕はなんで……」
「気ィ失ってたんだ。ふーん……病院とか行かなくていいの?」
「えっと、特に痛いところとかはないので、大丈夫かと思うんですが……」
「でもなんかあったらヤバいじゃん。一応診てもらった方がいいんじゃない?」
「え? えっと……はい」
「なんなら救急車とか呼んでもいいけど。いや、さすがにやり過ぎか」
意外に親切な人でほっとする。
人は見かけによらないな、などと失礼なことを考えつつ、択夢は何もされていないとはいえまだ彼女に怯えてびくびくしていた。
態度を見ればわかりやすい。
ヤンキー女子は苛立った様子で舌打ちし、直後にもじもじし始めた。
「あのさぁ、私は心配してるだけだから。なんでビビってんの?」
「えっ⁉ い、いやあの、決してそういうわけでは……!」
「肩……貸してやろうか?」
「大丈夫です! しっかり自分の足で歩けますので!」
まずいと思って択夢は慌てて断った。迷惑をかけるわけにはいかないという気持ちと後が怖いという心配が混在しているのだ。
その瞬間にヤンキー女子が確実に嫌そうな顔をした。
「チッ! なんで断んだよ……!」
「あわわわわっ⁉ ごご、ごめんなさい⁉」
なぜかはわからないが断ったせいで気分を害してしまったらしい。
これ以上この場にいられない。択夢は歩き出そうとした。
「あ、あの、とりあえず、学校に……行こうかと思うのですが」
「ん。わかった」
彼女はなぜか動かなかった。
緊張して気まずさしか感じられない。
択夢は恐る恐るぺこりと頭を下げ、歩き出す。すると彼女が隣に並んで、まるで一緒に登校するかのような状況になってしまった。
「あっ、あのあのあのっ⁉」
「何?」
「いえ……い、一緒に行くんですか?」
「は? 悪い?」
「悪くありません!」
「じゃあいいじゃん」
はい! と元気よく返事をして一緒に歩くことになった。
なぜかは全くわからない。
しかしよくよく考えれば目的地は同じ。向かう場所が同じなのだから隣を歩いてもおかしくない、と思うことにする。
初めて女子と二人きりで登校。
その相手は名前すら知らない会ったばかりの女子であった。
「ねぇ……なんか喋ってよ」
「ええっ⁉ な、何かとは……!」
ガチガチに緊張して黙っていると声をかけられた。
択夢は混乱するばかりで、いい感じの話題など一切思いつかない。
「あんた、名前は?」
「う、浦世択夢です!」
「ふーん……別にどうでもいいけど。私は宇井涼子」
「はい! よろしくお願いします!」
わけがわからないがとりあえず挨拶をした。
とはいえ、取り乱しながらであっても自己紹介はできた。もしかしたら仲良くなるきっかけはできたのかもしれない。
択夢がちらっと彼女の様子を確認すると、ちょうど視線がぶつかる。
「こ、こっち見んなよ……」
「はい! すみません!」
言われた通りに択夢は慌てて宇井から視線を外した。




