1:天使のお仕事?
浦世択夢は奇妙な少女に出会った。
白いワンピースにふわふわのミニスカート。白髪赤目で、頭の上には天使を連想させる光の輪が浮いていて、背中には小さな羽が生えていた。
天使みたいだ、と思いはするがまさか本物とは思えず。
それでいて少女は眠そうな顔をしていた。
「はぁ~いどうもー……恋を応援するキューピットちゃんですよー」
「え⁉ えっ⁉ す、すごいものを見ている……のに眠そうだ⁉」
「いや私夜型なんだよね。朝から働くとか新じられない……あ、でもやっぱ昼でも夜でも嫌だわ」
「なのに天使なんだから人間のために働けとか言われてさ~、天界から蹴って落とされちゃったんだよね。ひどくない?」
「ひ、ひどいと思います……色々と」
「つーわけであんたの恋応援してやるわ。女だったら誰でもいいでしょ?」
「めちゃくちゃひどいことを言われている⁉」
その少女はあまりに神秘的で美しく、可愛らしくもあるのだが、どう見てもやる気がない。
どうやら本物の天使のようなのだがそう思いたくはない。
択夢は驚きと不安でわなわな震えていた。
「はいこれ、恋が成就したらいいなーっていう“天使の矢”ね。これで胸貫かれたらなんかこう……いい感じになるから」
「痛くはないから大丈夫。あと服とかにも穴開かないし」
「なんかよくわかんないけどもしかしたら恋が上手くいくかも的なやつで、確定で恋させるとかっていうのは洗脳なんでダメなのね」
「だからまあ、あくまで応援っていうか……」
「ハァ、もういい?」
「逆ギレみたいにやめられた⁉ なんでちゃんと説明してくれないんですか!」
イライラした様子でため息をつく少女を見て、択夢は黙っていられなかった。
普段の彼は小心者で他人とのコミュニケーションが苦手であり、学校でも数える程度の友人しかおらず、クラスでは孤立していると言っても過言ではない。
しかしこの状況では思い切り叫ばずにはいられなかった。
少女があまりに適当過ぎる。やはり天使ではないのかもしれない。
「とにかくこれズンッてやったらいいことあるから。いきまーす」
「ままま待ってください⁉ 誰でも良くないですよ! ちゃんと話し合ってくれませんか!」
「ぼ、僕には、好きな人がいるんです!」
「無理だ。諦めろ」
「判断が早すぎるっ⁉ まだ相手が誰かすら言ってないじゃないですか⁉」
聞きたくないと言わんばかりに少女は会話を拒もうとする。
もしも学校の女子生徒にそう言われたのなら何も言い返せずに黙ってやり過ごしただろうが、不思議とテンションが上がっていた択夢は咄嗟に叫んでいた。
「その矢って、好きな相手が誰かとか大事じゃないんですか! せめて聞くくらいはしてくれてもいいでしょう!」
「あんたがその子に好かれてるわけないでしょ。土台無理ってもんよ」
「くぅぅっ⁉ 自分でもそう思ってるとはいえ話を聞く前からはっきり言いきらなくたって!」
「まあいいか。聞くくらいはしてやんなきゃだめだよね」
「ありがとうございます!」
「はぁ~めんどくさ。天使の仕事ってマジでめんどくさ」
「こ、こんなに目の前ではっきり言われることあるんだ……」
少女の態度に傷ついたものの、択夢は勇気を出して話し始める。
「同じクラスに……井伊奈緒香って人がいるんです」
「無理だな」
「早いっ⁉ 最後まで聞くくらいはしてくださいよ!」
「毎朝、こんな僕におはようって挨拶してくれるんです……」
「……は? 終わり?」
「えっと、終わりました」
「マジでなさすぎて引くんだけど。ドン引きだわ。そうは言ったけどさすがになんかエピソードあるのかと思ったら誰にでも言うやつじゃん」
「わ、わかってますよ。引いたことを言わないでください!」
「んぁ~聞いて損した。とりあえず刺すね。もうめんどいから」
「あぁ、僕の恋が雑に処理されようとしている……!」
少女が弓を使うこともなく右手に矢を持ち、狙いを定めようとする。どうやら直接投げて突き刺すつもりらしい。
そもそも信用していいのか?
大丈夫とは本人が言っていたが嘘ではないと決まったわけではなかった。
択夢は見た目に違わず小心者だった。
小柄で眼鏡で見た目がオタク。そして実際にオタクであった。
たとえ天使のものだとしても矢を向けられて冷静でいられるはずもない。
「いくよー」
「わわわっ⁉ 待ってください⁉ 本当にそれ大丈夫なんですか!」
「ん~大丈夫なんじゃない? 使ったことないけど」
「ないんですか⁉ 天使なのに⁉」
「新卒だもん。仕事初めがこれ」
「不安すぎる⁉ ちょっと一旦話し合いましょう!」
少女は聞き入れずに槍投げのように矢を投げつけた。
「いくよ~。ほいっ」
「あうっ⁉」
ズンッ、と額に突き刺さって頭部を貫通した。
白目をむいた択夢は倒れてしまう。
「あれ? なんで倒れてんの?」
「なんかもっとエネルギー注入される感じじゃなかったっけ?」
「ん? そもそも頭に刺すもんだったか……」
「あー……左胸だったかも。つーか心臓?」
「ま、だーいじょうぶでしょ」
そう言って天使の少女は光になってフッと消えてしまった。




