3:新手
結果的にぽつぽつと会話をしながら学校までやってきた。
周りには徐々に生徒の姿が増えてきて、明らかなオタク男子と明らかなヤンキー女子が並んでいることに注目を浴びるものの、誰一人として声をかけてこようとはしない。
択夢は予想外の状況に何度となく驚いていた。
そして徐々に慣れていくと喜んでいる。
(あの僕が女子と喋っている⁉ 正直嬉しい!)
相手はさっき出会ったばかりの女子であるが、択夢は激しくドキドキしていた。
幼い頃からオタク趣味にどっぷり浸かって生きてきて、女子から興味を持たれることなど皆無。気の合う友達も男子しかいない。
別に彼女と付き合うだとかそんなことは期待していない。
ただ初めての経験でどうしても反応せずにはいられなかった。
こんな状況だからこそ思い出すのは天使の少女。
もしや、やはり彼女は本物の天使だったのではないか?
普段ならばまずあり得ない状況にそう思う。
確認のしようはないが、択夢は半ば本気でそう信じている。
(どうして僕が選ばれたんだ……理由はわからないけど、きっと天使の力で恋が始まろうとしているに違いない)
(もしかして僕は、この人と……宇井さんと⁉)
「あのっ!」
少ない会話の合間に真剣に考えながら校門まで辿り着く。
そこで別の女子生徒に声をかけられた。
やはり見たことがない女子だ。少なくとも知人やクラスメイトではなく、顔や名前を憶えている相手ではない。
地味めで黒髪が肩にかからない程度のまじめそうな生徒だった。
なぜか択夢をじっと見つめてわなわなしている。
「は、はい? あの、何か……」
またしても見知らぬ女子に話しかけられてしまった。
日に二度も奇妙なことが起こっている。
択夢はますます天使の仕業を信じざるを得ない。
「す、好きです! 私と付き合ってください‼」
「……へ?」
「は? はぁっ? はあああああっ⁉」
突然の発言で択夢はピタッと固まった。理解できずに混乱してしまう。
一方、宇井は激怒した。
周りの生徒はざわざわしているが、今まさに告白したばかりの普通っぽい女子生徒は赤面しており、択夢だけを見つめていて彼以外を気にしていない。
「えっ⁉ ええっ⁉ 告白された⁉ まさか⁉」
「はああぅ……! こんな気持ちになったの初めて……胸が苦しい」
「おまっ、なっ、ふっざけ……!」
生まれて初めての告白は、朝っぱらから、衆人環視の中でだった。
状況が理解できなくて択夢と宇井は目を白黒させている。
その間に見知らぬ女子は自分の胸あたりをぎゅっと押さえて辛そうにしていた。
何はともあれ告白されたことは間違いない。
無視するわけにはいかず、択夢は何らかの答えを出さねばならなかった。
「私も好きです! 私と付き合ってください!」
「あっ⁉ えっ⁉ 増えた⁉」
「はあああっ⁉ なんなんだお前ら!」
別の女子生徒が横入りしてきてさらに告白してきた。
まさかの展開に当事者だけでなくその光景を見ている全員が驚愕する。
「ちょっ⁉ ちょっと! 今私が好きって言ったんですよ!」
「いやマジでごめん! 絶対入っていいとこじゃないけどちがっ⁉ 全然我慢できなくなっちゃったから! でも嘘じゃなくて本気!」
「本気で僕に告白を⁉」
「意味わかんねぇ! お前らなんでこんなやつ好きなんだよ! どっからどう見てもただのオタクだろ!」
「なんでかわからないけどすっごく好きなんです!」
「わかるわかる! 全然見たこともない記憶にも残ってない人なのに今すぐ抱きしめたいくらい好き!」
ここまで言われれば間違いない。天使の矢の効果だ。
まさかこんな事態になるとは思っていなかったがそれ以外考えられなかった。
効果は抜群。おかしいくらいにモテている。
「こ、これが……天使の力……!」
「おいお前! いい気になってんじゃねぇぞタコ助コラ!」
「ごめんなさい⁉」
なぜかはわからないが宇井に叱られた。
択夢は微塵も意味を考えずに謝罪するのだった。




