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2157【アマテラスの家畜たち】  作者: ひろひさ
Episode.004

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9/13

028(ゼロ ニー ハチ)

 塩屋修平。18歳。独身。環境管理局、環境管理課所属。業務内容。公園の設備点検、維持管理。各公衆トイレの清掃、維持管理点検……。


 004はゴーグルに映し出された塩屋の姿を脳に焼き付ける。


 こいつが今から俺が追う男…………。18歳の少女をバグに落とした害虫…………。


 004は奥歯を噛み締めた。今すぐにでもこの男の喉笛を嚙み切ってやりたいが、アマテラスの指示で先に相棒の下へ向かわなければならない。


 まったく…………。それがなんで、よりにもよってあいつなんだ…………。


 ハンドルもない運転席の中、車は彼女の下へと向かう。




「ここか…………」


 そこは16階建てのマンションであった。天を突き刺す灰色の塔。結構いいところに住んでるじゃないか。車を降りた004は建物を見上げ、そんな感想を抱く。玄関はオートロック。


「アマテラス」


 しかし、呼び掛けには応じない。004は首を傾げながら記憶しているかつての同居人の部屋番号をタッチパネルに入力した。呼び出し音が無機質なエントランスに鳴り響く。応答なし。


「はぁ…………」


 事前に仕事だとメッセージを送っておいただろう…………。


 そういうところが駄目なんだ……。テキトーな女だと思いながら、携帯端末を操作し、かつて訓練施設で寝食を共に育った女性、S22-P144-028を呼び出す。


「……………………」


「………………」


「…………」


 まだか!!


「はあーいっ!! もしもしぃー!!」


 叩き起こされたことによる機嫌の悪さと半分ほど脳を睡魔に支配されている現状入り混じるカオスな声に004は目眩を覚えた。


 なんでこんなヤツと…………。


 しかし、考えていても仕方がない。全てはセクターのためと己に言い聞かせ、手短に要件のみを伝える。


「今すぐ下にこい。仕事だ」


「…………はあ?」


「—―—―チッ」


 思わず感情が吐露してしまう。


「…………はぁ。アマテラスからの命令だ。塩谷修平という男を追えと」


「しおや、しゅうへいー?」


 なんのことだ? 言っている意味が解らない。028の頭は未だ、夢の中。


「——いい加減にしてくれ……………………」


 004は堪らず声を荒げる。


「028!! いいから早く降りてこい!!」


「そんな、どならないでよぉー……」


 わかったよーと028は泣きながら告げ、通話は切れた。


「……………………」


 本当に大丈夫か?


 心配になりながらも待つしかない。004は大きな溜息をエントランスへと残し、車へと戻っていく。


 それから、1時間が過ぎようとしていた。


 遅いッ!!


 004が我慢の限界だともう一度電話を掛けようとしたところ、028は姿を現す。


「ごめん、ごめん!! お待たせー」


 明るい髪を1つにまとめ、背中側へと垂らし、ダークスーツを身にまとう。それを見た004は、さすがに格好はまともで良かったと胸を撫で下ろす。彼女が乗り込みやすいよう停めた車の左座席へと乗り込んだ。


「久し振り!! 004!! 元気だった?」


 彼女の明るい声が鼓膜を震わす。


「久し振り。028。お陰様で今日はすこぶる調子がいいよ。それじゃあ行こうか」


 車は目的地に向かって走り出す。向かうは駅の南側、風俗街エリアだ。




「ふーん。この人が塩屋修平かー。見たことないなー」


 028は伸縮自在、ゲル素材のウェアラブル端末で004から送られてきた捜査資料に目を通す。


「そうか。バグ化した風俗嬢とも面識はないんだよな」


「ないねー。すれ違ったことはあるかもしれないけど、記憶にないなー。この塩屋って人も見たことない。うちの店には来てないんじゃないかなぁ?」


 蛍光色の端末を腕時計へと変形させ、左手首に巻き付ける。表面には現在の時刻が表示された。


 うちの店。この言葉からも解るように彼女は超人として生まれ、バグハンターとしての訓練を受けながらも風俗嬢としての勤務をアマテラスから命じられた稀有な例だ。本人も配置転換を度々求めている。


「そうか」


 これでとりあえず探す店舗は白崎愛が勤めていた店だけで済む。そんなことを考えながらペットボトルの水に口を付けた。


「あー!! ずるーい!! 私にも頂戴!!」


「嫌だ」


「ケチ―」


 ブーと子供のように頬を膨らませる。004は内心、そんなんだからハンターになれなかったんだと溜息をついた。決して能力が劣っていた訳ではない。劣っていれば廃棄か富士の裾野でコールドスリープ状態で待機命令が出ていたはずだ。そうされていないのは、何か意図があったんだろう。一介の飼い犬には判らない。大人の事情が。


「今すぐ飲みたいんだけどなぁー……」


 何か呟いたようだが004は無視をする。


「あーあ、眠い……」


 彼女は大きな欠伸をし、椅子を後方に倒した。


「任務中だぞ」


 気を引き締めろと004は注意する。


「いーじゃん。これくらい」


 相変わらず固いなー……。そう彼女は彼を宥めた。


「…………」


 彼女の体は男を惑わす。小さな顔。弾力があり、瑞々しいさに溢れる艶やかな肌。丸く、大きな柔和な目。色欲を増長させて渇望させるほど潤う唇。そして白いブラウスを押し上げる2つの丘が目に毒だ。


 027と同じくらいか……?


 思わずそんなことを考えてしまう。手の平に収まりつつも揉みしだきたくなる大きさだ。さらに腰からウエスト、太腿に掛けての曲線が規律を重んじる聖職者でさえも過ちを犯させる。そこに加わる超人としての身体能力。並大抵の人間であれば一溜まりもないだろう。


「なんですか?」


 気付いているのかいないのか。028は尋ねてくる。


「いや。鈍っていないかと思って」


 あくまで冷徹なプロとして接する004に彼女は激怒した。


「太ったって言ってんの!? 私、別に太ってないからね!! お客さんからもお腹が引き締まっててエッチだねって言われるし!! 訓練場にだって通ってるんだから!!」


 横で捲し立てられ、鼓膜が悲鳴を上げる。


「悪かったよ。念のための確認だ」


 そう断りを入れてから、004は足元に置いてあった黒い正方形のケースを彼女に手渡す。


「ほら。アマテラスからの贈り物だ」


「アマテラス様から?」


 体を起こし、受け取った彼女は黒い物体を膝に乗せる。指紋認証のパネルが箱の蓋部分の鍵として取り付けられていた。


「どの指でもいいから押し付けて見ろ」


「じゃあ……」


 言われた通り、彼女は右の人差し指を押し当てる。


『ピピッ。認証番号。S22-P144-028。確認致しました』


「おおっ!!」


 ビクリと体を震わせ、彼女は恐る恐る蓋を上げた。


「わぁ…………!!」


 彼女は顔を綻ばせる。中から出てきたのは台座に納められた黒い拳銃だ。生体認証式自動拳銃。004が右の腰に下げている物と同じ物だ。


「銃だ!!」


 輝く目を004へと向ける。


 見れば解ると思いながらも彼の口角は僅かに上がった。


「早く登録しろ」


「うん!!」


 やり方は解っている。まず銃を握り、網膜スキャン。すると銃が彼女を記憶する。


『登録完了。認証番号。S22-P144-028。どうぞ抜いてください。これからはあなたの銃です』


 004はアマテラスが銃を渡す意味を理解できていなかった。彼女が喜んでいる。それでいいじゃないかと。


「ホルスターも入ってるぞ」


「これだね!!」


 折り畳み式のホルスターを広げ、彼女はベルトの右側に通す。


 やっぱり太ったんじゃないか?


 004は彼女のパンツスーツで締め付けられた肉感のある太腿を見てそう判断を下す。彼女はまるで気付かない。


「できた!!」


 弾倉を籠め、スライドを引き、撃鉄を戻す。これで彼女は1つ目の牙を手に入れた。


「ナイフもあるぞ」


「ナイフも!!」


 久し振りの対面を果たした拳銃との再会を噛み締める彼女はさらに目を輝かせる。


「あ、ホントだ」


 箱の下部にもう1つのタッチパネル。そこに今度は左の人差し指を当てると、電子音と共に引き出しが僅かに飛び出す。


「あー……。これも懐かし—…………」


 銃をホルスターに仕舞い、電磁加速式高周波ナイフを取り出した。


「うわー……。思い出すなぁー。訓練用のは刃が潰れてるもんね」


 鞘から引き抜き、その磨き抜かれた刀身に心を奪われる。


「怪我するぞ」


「そんな間抜けじゃありませんー」


 そうは言いつつも028は鞘に納め、左腰後ろへ装着。


「————ほら、乾杯だ」


「乾杯?」


 差し出されたのは水の入ったペットボトル。蓋の口が開いていない新品だ。


「あー!! 水じゃん!! 欲しい!! 欲しい!!」


 何かの小動物のように両手を差し出してくる。


「ほら」


 そう言って素直に004は彼女に渡す。


「ありがとー。……あ、これいくら?」


「別にいい」


 004はお金を支払おうとした彼女を止める。


「え? いいよ。悪いし……」


 もう一回断ってくれれば喜んで貰うつもりだったが、彼の口から出たのはやはり、2人の管理者の名前であった。


「これもアマテラスからのプレゼントだ」


「えー!! 優し—……。さすがアマテラス様!!」


 028はそんなことを気にすることなく口を付け、乾いた喉を潤した。


「はぁー……。おいしー…………」


 こうして準備を整えた2人は風俗街エリアへと足を踏み入れる。

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