公認性風俗店第1号
風俗街エリアはJRセクター23駅前の南口を直進すると見えてくる。当初は北と南に分かれていたが、スマートシティ化に伴い、一区画にまとめたのだ。南口にまとめられた理由としては駅の待ち合わせスポットとして有名な金時計があること。そして駅を出て最初に目にする天に届かんと手を伸ばす超高層ビル群が観光客を第3の都市に来たと実感させる為でもある。
「ここか……」
車を降りた2人は白崎愛が勤務していた『公認性風俗店第1号』を見上げた。高さ50メートル。12階建ての白い清潔感溢れるビルだ。
かつてはソープランド、ファッションヘルス、あるいは店舗を持たないデリバリーヘルスというものが存在した。多種多様な業務形態。性欲という3大欲求が業界に混沌としたカオスを生み出す。しかし、スマートシティ化に伴う管理の徹底。アマテラスの統治によってそれらはソープランドという単一の公認規格へと集約された。浴室を備えた完全個室。それがアマテラスが無辜の民に許した唯一の、そして最も衛生的で安全な快楽の享受。精神の安定に必要な措置への回答でもあった。
2人は並んで歩き、自動ドアを潜り抜ける。004にとっては初めての体験であった。中は消毒液の臭いで溢れている。白を基調とし、落ち着いた色合いの待合室だ。パステルカラーや白のソファなど大小様々な物があり、多様な年代の男女がくつろいでいる。本来であれば待ち時間など5分程度のはずであるが、中にはわざと早く来て、日々の疲れを癒すかのようにソファに体を預けて天井を仰ぎ、目を瞑って心を落ち着かせている男性の姿も見受けられた。
028は慣れた足取り靴の汚れをジェルマットに吸わせ、一直線に受付へと向かい歩き出す。004も急ぎ、後を追った。
「いらっしゃいませ。ご予約はされておりますか?」
白いユニフォームを着た女性アンドロイドだ。
「いえ。我々はこう言うものです」
彼女は手の平をアンドロイドへと向ける。するとアンドロイドはアマテラスからの情報で、彼女がバグハンターであることを理解した。
「かしこまりました。店舗責任者へとお繋ぎ致します」
そう言い終わると同時に店舗責任者を呼び出す。
「いえ、ここでは他のお客様もいらっしゃいますし、できれば休憩室などでお話できるとありがたいのですが」
「…………」
先程までとはまるで別人だ。004は感心する。彼女の顔は2つの仕事のプロとしての矜持が見受けられた。
「ご配慮、誠にありがとうございます。では、こちらへ」
そう言ってカウンターから出てきたアンドロイドは正方形の待合室から伸びる右奥の廊下。金色のポールと赤いロープで仕切られた暖色の蛍光灯が照らす先へと2人を案内する。
すると、1人の男が立ち上がり、エレベーターに向かって歩き出す。彼の網膜には『お待たせいたしました。ご準備が整いました。エレベーター2階。205号室までお越しください』と表示されている。
その瞬間、アンドロイドと028はピタリと足を止めた。004が構わず進もうと足を動かすと、028に制止させられる。
何事かと思っていると、男は「申し訳ありません。お通りください」と会釈した。だが、彼女らは動かない。
「いえ。もうすぐエレベーターが参ります。少々お待ちください」
そう言って受付ロボットは頭を下げる。
なんなんだ……?
004はエレベーターに目を向ける。扉は磨き抜かれており、男の姿や004、028を映し出す。
扉が開いた。
「いってらっしゃいませ」
ゆっくり深く、お辞儀をする。028も両手を前で揃え、頭を下げた。
なんで頭を下げるんだ。今は執行官だろうと内心ツッコみを入れながらも「ありがとうございます」と頭を再び下げた男が乗り込むのを見送った。
「お待たせ致しました。こちらです」
アンドロイドは再び歩き出す。
「なんなんだったんだ……」
004は耳打ちする。
「お客様の前を横切るなんて、失礼ですよ」
028の答えに004は首を傾げる。
先に進んでいいと言われたではないか。意味が解らない。
妙な世界だと彼は内心、馬鹿にした。




