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2157【アマテラスの家畜たち】  作者: ひろひさ
Episode.004

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記憶と記録

 エレベーターの前を通り過ぎ、関係者のみ立ち入りが許される聖域へと足を踏み入れる。廊下の奥にもエレベーターがあることに004は気付く。ああ、あれなら客とはほとんど鉢合わせることはない。よく計算されているなぁと感心しながら通されたのは客用エレベーター横の応接室兼執務室。部屋は長方形。背の低い机を挟む形で茶色い革張りのソファが2脚ある。


「初めまして。店舗責任者の井上と申します。よろしくお願い致します」


 痩せ型。ひょろりと背の高い古典文学に登場するドラキュラ伯爵のような男だ。白崎愛の死はすでに聞かされている。004は男のバイタルデータを確認しようがないが、その顔色の悪さから従業員を失った動揺が隠せていない。


「執行官の004です。よろしくお願い致します」


「028と申します。よろしくお願い致します」


 挨拶も終え、井上はソファの方へと右手を動かした。


「どうぞ、こちらへ……」


「失礼します」


「失礼致します」


 下手をすれば飲み込まれてしまいそうな柔らかさだ。004は浅く座り、身を乗り出しように井上に尋ねる。


「では、単刀直入にお聞きします。塩屋修平という人物に心辺りは?」


「シオヤ、ですか……」


 少し考えるような仕草をしてから井上は口を開く。


「申し訳ございません。シオヤという人物に心当たりはありませんね。当店を利用された方かどうか、今お調べしますね」


「お願いします」


 井上は虚空を見つめ、何度か瞬きをした。顧客名簿から該当人物がいるか調べている。


「あ、ございました。塩屋、修平様。当店を一度だけご利用されておりますね」


「一度だけ?」


 たった一度の接触で白崎愛をバグに落としたというのか?


 にわかには信じられない。しかし、現実に白崎愛はバグへと堕ちた。


「その時対応した方は白崎さんですか?」


「はい。白崎が対応しております。指名ですね……。え」


 井上が言葉を区切る。虚空を見つめていた瞳を大きく見開く。


「どうかされましたか?」


「おかしいんです。このデータ……」


「具体的には?」


 こちらからは何も見えない。彼だけがその異常性に驚愕する。


「この日、彼女は有給を取得していまして……」


「有給!?」


 それでは出勤している筈がない。


「はい……。その日、私は彼女の姿を見ておりません……」


 何がどうなっているんだ…………。データは全てアマテラスへと送られる。それがなぜ、現実とデータとの間に齟齬が生まれるのか……。


 004は言葉を失った。


「いま待機している子たちに話を聞いてもよろしいですか? 無理はさせません」


 028が寄り添うように問い掛ける。


「はい……。私の言葉だけでは、信じられないでしょうから……」


 井上は頷く。だが顔を上下左右に動かし何もない虚空に目を向け、膝の上で祈るように組んだ指が小刻みに震えていた。アマテラスの目の前で彼は突然目の前に現れたあり得ない現実に押し潰されようとしていた。






「…………」


 004は天を仰ぐ。アマテラスから無言で送り付けられてきた膨大な塩屋修平に関するデータ。その中身の確認を終える。


 顧客データ。正面玄関。待合室。エレベーター前。エレベータ内。廊下。施術室出入口。これら全ての防犯カメラの映像に塩屋修平の姿が記録されていた。男はその日、白崎愛と会っていたとデータは物語っている。028が可能な限り聞いてきた従業員の証言は井上と同じ、その日、彼女の姿は見ていない。彼女は有給を申請したというもの。


 何を追わされているんだ。俺たちは……。


 ふいに視線を上げた先、天井の隅で黒く光る半球体の防犯カメラが目に入る。アマテラスの瞳。004と交差する。アマテラスは無言を貫き、頭を垂れる3人の姿を天から眺めていた。こちらの困惑も、井上の震えも、すべては計算通りなのか。004は自らを射抜くその無機質なレンズを忌々しげに睨み返していた。


ん?


 その時ふと、アマテラスからもたらされた情報に偏りがあることに気が付く。


「028!!」


「ん? どうかした?」


「普段、従業員はどこから出入りする? 正面玄関か?」


「何言ってるんですか。表はお客様。従業員は裏口からですよ」


 ねぇと井上に同意を求める。


「え、ええ。我々従業員は朝、裏から入って正面玄関のロックを解除します」


 それは酷く乾いた声だった。


「それで、従業員はあの奥の専用エレベーターで各部屋に行く。そうだよな?」


「はい。そうですけど……」


 何を確かめたいのか。028にはまるで理解できない。


「このデータには偏りがある!! 塩屋修平の存在を証明する物はあっても白崎愛がこの日、この場所にいたという事実を証明する証拠は1つしかない!!」


「あ!! 裏口とかエレベーターの防犯カメラ!!」


「そうなんだよ!! 彼女がこの日出勤したというのなら、そのデータがある筈なんだ!! アマテラス!!」


 見ているんだろうと004は叫ぶ。だが、人工知能は答えない。


「……クソッ!!」


 この手掛かりから塩屋を追えってか!? それとも白崎愛は関係ないのか!?


「しょうがない。もう一回見直そう!!」


「うん!!」


 2人はそれぞれの端末で与えられた情報を再度、確認し始めた。

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