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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
最終章 輪廻転生

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第60話 「神に愛された子」


「ゆき。聞こえる?」

「花。返事して!」


 久美と蝶子が叫んでいる。

 やはり、カフェ清流も全壊だ。

 店舗の屋根が崩落して、ぺしゃんこの状態だった。


 ゆきと花は、抜け落ちたホールの床下に生き埋めになっていた。

 みつえと栄子が、屋根を持ち上げようとしている。

 だが、女性ふたりの力ではビクともしない。


「誰か。誰か、手を貸してください!女の子がふたり、埋まっているんです!」


 霧子が助けを呼ぶが、行きかう者らは自分や家族の命を守るのに精いっぱいだ。

 立ち止まる者はいない。


「霧子先生!」


 懐かしい呼び方だ。

 この呼び方をするのは、あの教え子のみ。


「お嬢様。それに、小梅?あなたたち、どうしてここに?病院にいたのでは?」


 小梅が背中から凛音を下ろす。


「病院は全壊しました。でも、この小梅がわたくしを助けてくれた。先生、状況を教えて下さい」

「は、はい。従業員のうち、私を含む5名は軽傷。2名が建物の下敷きになっています。花とゆきです」

(ゆき。花ちゃん)


 三人が現場に向かう。


「花。聞こえる?返事して!」

「…う。うう。蝶子?」


 屋根の下から双子の姉の声がする。


「動ける?」

「…ダメ。足の上に柱が。顔も、なんか熱い」

「近くに、ゆきはいる?」

「…うん。私の手を握ってる。でも、気を失ってる、かも…」


 おそらく、花がゆきを助けようとしたのだろう。

 小梅が屋根の下に両手を差し込んで、持ち上げようとする。


「んぐぐぐ!」


 少しだけ浮いたが、小梅の怪力をもってしても十センチ浮かせるのが限界だった。


「小梅。もう少しだけ頑張って」


 凛音が浮いた隙間に、落ちていたレンガをかませる。


「誰か、水を!」


 凛音の指示に、蝶子が反応する。


「花。これ飲んで」


 さいわい飲食店なので、食器はたくさん散らばっていた。

 井戸水を汲んだ湯呑を、屋根の下にいる花に差し入れる。


「ありがとう。のどが熱くなってきてるから、うれしい」


 まさに命をつなぐ水だ。

 東京の水道インフラは、この頃には既に整備されていた。

 だが井戸もまた各地に残っていて、飲料水として使われていた。

 関東大震災では水道管が破裂して用をなさなかったため、この井戸が恵みの水となった。


(この滑車、使えないかしら?)


 井戸水を汲み上げるときに使う滑車に、凛音が目を付ける。


(女学校で習った定滑車の原理。力の向きを変え、体重を利用する‥‥)


 カフェ清流の店前には、ガス燈が設置されていた。

 さいわい倒壊せずに残っている。

 木登りが得意だという栄子が、塔の頂上に滑車を結びつける。

 長いロープを滑車に引っ掛ける。

 ロープの端を屋根の鴨居にくくりつけた。

 もう一方の端を、女性総勢7名が綱につかまって引っ張る。


「せえの!」


 少しだけ屋根が浮き上がる。

 しかし、すぐに落ちた。


(人間の力じゃムリなんかも)




 天童星児は焦土と化した東京市内を彷徨った。

 大切なひとの姿を探し続けたのだ。


「凛音。凛音。僕だ。星児だ。凛音。どこだ?」


 呼び声がむなしく響く。

 新富町の病院は既に崩壊していた。

 瓦礫の山だ。

 入院患者の行方を訊く相手も見当たらなかった。

 それでも星児は、唯一の手がかりである廃墟となった病院から離れられなかった。


(頼む。無事でいてくれ)




「カフェのねーちゃーん」


 小梅が、呼び声に振り返る。

 芦馬に乗った少年だった。

 よしこのお見合い稽古の時に、凛音たちとは顔見知りになっている。

 馬が凛音に近づく。


〈やはり、ここにいたか〉

「あなた、星児さんが飼ってるお馬さんね?まさか、助けに来てくださったの?」


〈む。これはバカギャルじゃねーな。品が良すぎる。てことは、あいつも別の何かに憑依したのか?〉

「いいとこに来た。さっそく働いてもらうよ。さ、あーしんとこおいで」


 本物の真似をする余裕のない小梅が、馬の鞍にロープの端をくくりつける。


〈あーし?こいつか?〉


 凛音が六平に事情を説明する。


「よし。オイラたちに任しとけ。頼むぞ、スカイ」

〈馬の力、と書いて馬力だ。うらああ!〉


 いきおいよく、馬が走り出す。

 屋根が持ち上がった。


「おし。今だ!」


 1メートルほど上がったところで、小梅が屋根を支える。

 その間にみつえと蝶子が花とゆきを、引っ張り出す。


「花~~」

「ゆき。助かったわよ。しっかり」

「みんな、離れて!」


 小梅がさっとその場から逃げる。

 屋根が轟音を立てて再度崩落した。

 間一髪だった。

 街中の延焼の様子を見ていた霧子が、一同に声をかける。


「ここはもう危険です。宿舎に避難しましょう」


 花とゆきを大八車に寝かせて、六平が御するスカイキッドが牽く。

 従業員たちは後ろから押す。 


「さ、急ぎましょう!」


 あちこちで火の手が上がる、戦場のような新橋を脱出した。




 古い宿舎は全壊していた。

 だが、隣に建つ買い手のつかない清流院邸はしっかり残っている。

 凛音がみんなに指示する。


「緊急事態です。屋敷の中に入りましょう」


 この最中に、とやかく言う者などいはしないだろう。

 ようやく、ひと心地がついた。

 家具も何もない大広間で、全員が大の字になって身体を休める。

 しゃがみ込む小梅に馬が近づく。

 鼻先で頭を小突く。


「痛えな。なんだ?こいつ」

〈バカギャル。俺だ。わかんねえのか?〉


 そう言って、今度は首筋をなめる。

 百合的なハラスメント。


「ひい!このエグいユリハラは…え?まさか、小百合ちゃんなん?」

〈お。馬になっても憑依した者同士、意思疎通ができるのか?テレパシーだな〉


「プ。『桜田門の武闘派』が、ヤクザの次はウマっすか?ウケる」

〈おめえだって、女力士じゃねえか!〉

「う。うう」

「あ。ゆきが!」


 目を覚ましたようだ。

 凛音と小梅がそばに付く。

 12歳の少女がふたりを認める。


「‥‥ひ、ひいちゃま!怖かった」


 ゆきが小梅に抱きついた。


「ゆき。それは小梅よ。お嬢様はうしろにいらっしゃるわ」

「あんなことがあって、混乱しているのかもね」


 他の女中たちが苦笑する。


「あ、あの人はひい様。こっちはひいちゃまなの。ひいちゃま、ひいちゃまあ」


 赤ちゃんのように小梅にしがみつく。

 もう二度と離すまいとするかのように。


(そっか。発達障害を持つ子には特殊な才能があるって言うし、あーしの正体に気づいたのかもしれないな)


 凛音も同じことを考えていたのだろう。

 微笑んでいる。


「ゆき。あなたはやっぱり、神に選ばれた子なのね」


 そう言って、ゆきの頭をなでる。


(そりゃ、あんただよ。凛音)




つづく



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