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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
最終章 輪廻転生

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第59話 「ふたたびの憑依」


 令和の大和坤寧宮。

 本殿の舞台の下で、撫子と小百合が折り重なるようにして倒れている。


「ちょっと。神様。ウチの子に何してくれてんのよ!」


 亜紀が神様に食ってかかる。


―いや。本気度をテストしてみただけだよ。渓谷の幻影を見せて、それでも飛び込む覚悟があるか、って。ママちん、安心して。2メートルもないこんな舞台から飛び降りたくらいじゃ、死にはしないから。


「ちょっと待て。てことは、憑依は成功したってことね?でもって、撫子も鬼束さんもまた仮死状態で入院?ちょっとお。バイト辞めらんないじゃない。はああ」


―あ。一個言うの忘れてた。今度の憑依は凛音と星児にはできないから。もう二人とも抗体ができてて、拒絶反応起こしちゃうんで。


「じゃ、ふたりは誰に憑依すんのよ?」

―うーん。たぶん、凛音と星児に恩義を感じてる人たち?イエへ・ナラのカルマがそういう絆で結ばれてるし。


「見ず知らずの他人じゃなくて身近な人ってことね。なら、なんとかなるでしょうけど」

―トリマ、願い事は聞き届けたから。わし、行くね。あとはヨロ~~。


 神様が天上へと昇って行く。

 取り残された亜紀が、地面に放り出された小百合のスマホを拾い上げる。

 履歴に残された「チンカス」に電話する。すぐに出た。


「‥‥ハイ、ご主人様!何でもします。仰せのままに!」


 どうやら小百合からの電話には、こんな風に返答するよう調教されているようだ。


「…あ。チンカスくん?至急、車をこっちに回してほしいんだけど…うん。仮死状態の女が2名。それに‥‥」


 大の字になって鼾をかく母親を一瞥する。


「アル中患者が1名、よ」




 凛音と小梅(以下の呼称)が窓から外に出ると、惨状が広がっていた。


「大地震、だったのね?」


 凛音が愕然とする。

 壊滅、とはこのことだった。

 ビルは倒壊し、道路はあらゆるものでふさがれている。

 木造家屋が次々と延焼していく。


 関東大震災では、10万棟以上が全壊し20万棟以上が全焼したと言われている。

 被災者は190万人、死者・行方不明者は10万人以上と推定される。

 戸籍台帳などを保管していた役所もまた全焼しているので、推定するしかないのだ。


(これが、関東大震災?)


 消防設備もインフラも脆弱な時代である。ひとびとが、なすすべもなく呆然としている。

 おそらく助けを呼んでも、誰にもそんな余裕はないだろう。

 こんな所に、凛音をいさせるわけにはいかない。


「あ、安全な場所に避難する…だよ。り…ひ、ひい様」


 握ろうとした手を、やんわりと拒まれる。


「避難?違うでしょう。さあ、行くわよ」

「え。どこへ…だすか?」

「もちろん、新橋の『カフェ清流』よ。あなたは、そのために戻って来たのでしょう?大和撫子」


 唖然。


「気づいてたの?」

「小梅は間違っても、わたくしを『凛音』とは呼ばないわ。それに、わからないはずはありませんよ。あなたは、わたくしだったのですから」

「……」

 

 美少女なだけではない。聡明な子。


「あの子たちが心配ですわ。行きましょう」


 凛音が先に立って歩き出す。

 だが長い寝たきり生活で、足元がおぼつかない。

 つまづきかけたところで、小梅が凛音の身体を支える。


「じゃあ、凛音。あーしの背中に乗って」

「…わかりました。お願いします」


 凛音がおぶさると、小梅はフンと鼻を鳴らしてから駆け出した。


 背中に感じる、大正時代に戻って来た実感。

 前回憑依したばかりの頃も、こうして凛音は小梅の背中にしがみついた。


「撫子。あなたは東京が地震に遭うことを知って、危険を承知でこうして戻ってきてくださったのね。あなたは、またわたくしを救ってくれた」

「あ、違うよ。今回救ったのは、小梅ちゃんだよ」

「そうね。小梅にもあとでお礼を言うわ。でも、あなたにも。ありがとう。撫子」


 ぎゅっとしがみつかれた。

 もう、それだけで来たかいがあった。 

 あの高貴で美しい清流院凛音が、自分をねぎらってくれている。

 全てをわかってくれ、感謝してくれている。

 これが、真の華族の尊さ。


「わたくしは三月の間、あなたを見ていた。そして思った。ああ、そうか。こんなふうに行動すればよかったんだ。こんなふうにもっと率直に話せばよかったんだ。そうすれば、わたくしにも友達ができたのかもしれない。もっといろんな方たちと親しくなれたのかもしれない、って」

「……」


「一番驚いたのは、清流院家が借金だらけだと知ったあなたがカフェ経営に乗り出したことよ。この時代には、女性が自分の力で運命を切り拓こうという発想自体があり得ないの。女は黙って男の言う事を聞いていればいい―それは殿方だけではなく女性自身が諦めてしまっていることなの。でも、あなたは違った。尊敬するわ」


 尊敬されることではない。

 ただ食っていかねばならないという切迫感、危機感だった。

 それに時代の環境が違う。

 自分がエライわけではない。


「撫子。あなたはね、わたくしのお手本です。先生であり、ヒーローよ」


 よしこにも褒められた。

 そして今度は、自分の方が憧れてる凛音にも。

 令和に生きていた頃に疼いていた承認欲求。

 その一生分がいま満たされた。


(な、なんか…泣きそうだよ。ふえ~ん)

「みんなを救いましょうね。一緒に」

「はい!ひい様!」


 泣いてることを悟られないようにスピードを上げる。


(もう、何だってやってやるぜ!)




 乗馬クラブの被害は、それほど大きくはなかった。

 厩舎などは全壊したが、さいわいにも放牧中だったので馬たちは全頭無事だった。

 地震直後は馬たちも暴れ回ったが、三十分ほど経った今は落ち着いている。

 むしろ厩務員のショックの方が大きかった。

 六平はずっと腰を抜かしている。


(とんでもなくでけえ地震だよ。怖かったあ)


 頭をつつく者がいる。スカイキッドだった。


「どうした?スカイ。飼い葉はたくさん食ったろ?」


 馬が六平の襟首を咥える。


「な、何すんだよ、おい」


 六平を立ち上がらせた。

 そして、首を振って自分の背中を示している。


「…え?まさか。乗れ、って言ってんのか?」


 今度は首を縦に振る。

 鞍を取り付けて跨った。


「…どっか…どっか行きたいのか?」


 馬はヒヒンと嘶いて、走り出した。


「わあ。いったいどうしちまったんだよ?」


 どうやらこの馬は、意思を持って行動しているようだ。


〈ち。不本意だが、この際贅沢は言ってらんねえ。こんな姿でも、できることをやるしかねえ!〉


 鬼束小百合の二度目の憑依先は、スカイキッドという芦毛の馬だった。





つづく




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