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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第五章 因果応報

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第58話 「ギャル魂」


 大正。

 神田の大川邸。

 星児、坂崎、大川の三人は地震発生時に中庭に飛び出した。


「すげえ揺れだな。こいつあでけえぞ。おい、伏せて頭を隠せ」


 四つん這いになり、主要動をやり過ごす。 

 屋敷の障子や窓が割れて落ちる。 

 柱も傾き始めている。


「なんか、船に乗ってるような揺れ方っすね」


 中庭にあった蔵が崩れ始めた。

 轟音を立てて、屋根と壁が倒壊した。

 数分後、揺れは収まった。

 大川が立ち上がって、屋敷の状況を確認する。


「自慢じゃねえが、俺の家は頑丈に造らせてある。それでもこの壊れ方だ。街の中はえれえことになってるかもしれねえな」


(街の中…確か、凛音は新富町の病院に入院していたはずだ)


 居ても立っても居られない。


「あ、おい。天童。どこへ行く気だ!?」


 星児が屋敷から飛び出した。




 令和では、神降ろしの儀式が始まっている。

 美和が巫女舞を舞う。

 ただ足元がふらついている。


「おい、千鳥足じゃねえか」

「だから、アル中なのよ」

「ホントに降りんの?あんなんで」


 撫子たちが眉をひそめる。


「かしこみ、かしこみ曰す。神よ。我が許に…うげ…あ、吐きそう…我が許に下りて、この大和撫子の願いを叶えたまえ。かけまくもかしこき~~降りられよ!」


 美和がその場に崩れ落ちる。

 その身体からエクトプラズム。

 そして、神様の影。


―神、ですけど何か?


 今回は茶髪のウィッグを着けルーズソックスにガン黑、80年代ギャルのファッションだ。


―あ、令和ギャル。おひさ~。今日はギャル男やってみたんだけど、どう?イケてね?


「神様さあ。ギャル男ってギャルに女装した男、じゃないよ」


―え?そうなの?…てか、知ってたもんね。全知全能の神、なんだもんねえ。フン。


 ごまかしながらウィッグや衣装をチェンジする。

 白い袈裟を着て杖をつく、一般的な神の偶像になった。


―で、何?オレ忙しいんだけど。おまえとはもう…終わったはずだぜ。


「あーしは元カレに電話した女か!」


―どうせ、元鞘に戻して、とか言うんだろ?ふ。バカな女。


「だから…あ、元鞘、は近いか。あーしをまた、凛音に憑依させてほしいんだけど」


―ダーメ。あんた、また命を粗末にしたじゃん。わし、激おこプンプン丸だもんね。


 美和の仮説は当たっていた。

 凛音の命を危険にさらしたことを怒っているようだ。


―別に推しだからってわけじゃないよ。命に優劣なんかないの。誰の命だって大事にしなきゃ、なの。わし、けっこう頑張って作ったのよ。みんなの命。

「だからじゃん。大事だから、助けたいんじゃん。よっちゃんはあーしの親友なの。だから、命がけで命を守ろうとしたの。それが、あーしのカルマよ」

―…。


「それに今のまんまじゃ、推しの凛音の心臓はもたないんじゃないの?ものすごい大地震が起きてんでしょ?」

―まあ。歴史は変えらんないしね。

「凛音だけじゃない。小梅ちゃんも。霧子さんも。みつえちゃん、栄子ちゃん、久美ちゃん、花と蝶子、雅叔母様。ゆきは、自分の思い通りに体を動かせないのよ。あーしに、助けさせてよ!!」


―…あんたに、できんの?

「できるできない、なんか関係ない。やるの。助けんの!」


 神様がギャルに圧倒されている。


―ふうん。でも口だけかもしんないよねえ。

「違う。マジのガチだ!」

―前の憑依の時は、崖の上から落ちたんだよね?もう一度、やってくれる?

「…はあ?」

―ここ、崖の上に建てられた神社みたいなんだよね。ほら。


 立ち上がって見ると、 神社の裏手には三浦半島ほどではないが断崖絶壁があった。

 渓谷である。

 高さは十階建てのビルくらいだろうか。


(ここから飛び降りろ、っての?)


 下には川が流れている。

 だがあちこちに岩が突出している。

 岩場に落ちたらひとたまりもないだろう。

 覚悟を決める。


「やって、やるわよ!」


 本殿の端で、ふたりのやり取りを聞いていた小百合が立ち上がる。


「おい。大和撫子。バカな真似はよせ」

「崖がなんぼのもんじゃい。あーしのギャル魂、見してやんよ」

―よし。じゃあ、位置について。


 クラウチングポーズ。


―憑依……ドン!


 スタートを切る。


「よせ。バカギャル!」


 撫子が、崖の端を踏み切る。


「おおりゃあああ!」


 宙に浮いたその手首を、小百合がつかむ。


(あのときと同じだ)


 ふたりの身体が頭から落ちていく。

 眼前に水面が近づく。


「「わあああああ!」」


 迫りくる死にふたりは恐怖し、視界がブラックアウトした。




「んぐぐ。んんん」


 田中小梅がその怪力を生かして、落ちてきた屋根を支えている。

 新富町にある病院は、古い造りだった。

 俯瞰で見ている撫子の魂は、小梅の必死の姿を見留める。


(小梅ちゃん!)

「ひい様。起きて…起きてくだせえ」


 屋根の下にはベッドがあり、寝たきりとなった清流院凛音が眠っている。


(凛音!)


 いったいどれほどの時間、この状態が続いているのだろうか。

 小梅の額からは脂汗が滴っている。

 力士並みの踏ん張りも、限界が近づいているように見える。


「も、もうダメですだ。ひ、ひいさ…ま」


 小梅の眼が裏返り、白目になる。

 その瞬間、撫子の魂が小梅の肉体に吸い込まれていった。


(え、なに?今度は小梅ちゃんの方なの?)


 だが、贅沢は言ってられない。

 とにもかくにも凛音に会えたのだ。


「凛音、起きて!小梅ちゃんがつぶれちゃう!凛音!!」


 祈りに似た叫びが通じたのか、凛音の瞼がゆっくりと開いていく。


「…こ、うめ?」


 目の前に、金剛力士像のような表情の小梅。


「凛音。ベッドを出て!飛び降りろ!」


 天の声のようなものに凛音が反応する。

 力をふり絞る。


「も、もう…ダメ!」


 小梅の筋肉が悲鳴を上げる。

 最後の力。


「うおおお!」


 両手で支えていた屋根を放り出す。

 凛音が転げ落ちるようにベッドから這い出る。

 そして小梅の身体もまた、ごろごろと床に転がる。

 ズドーン!

 屋根がベッドの上に崩れ落ちる。

 塵煙が舞った。


「凛音!」


 いない。

 屋根に押しつぶされたのか?

 悲観の眼であたりを見回す。


「…こ、うめ。おまえ、は…だい、じょうぶ?」


 ベッドの下から声がした。


「凛音~~!」



 

つづく



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