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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第五章 因果応報

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第57話 「11時58分」


 令和。


「この一週間天童星児と関わった人たちのことを調べてみたが、驚くほど記録が残ってなかった。警視庁のデータベースは犯罪記録だから、天童組のことくらいあるはずなんだがな」

「あーしもググってみたけど、『清流院凛音』も『カフェ清流』も出てこなかったね」


 情報社会に生きる、令和の人間には信じ難いことだ。

 だが大正時代には、マスメディアですら新聞社くらいしかないのだ。


「そりゃまあ、100年前の今日はアレがあったからのう。住民台帳も不動産記録も燃えてなくなっとるんじゃろうな」

「「アレ?」」


 撫子と小百合、ふたり同時に発した。





 大正12年9月1日 午前11時47分。


「長い、長い夢を見てるみたいだった」


 天童星児は、大川邸の応接間で大川と坂崎にそう語った。

 腹には包帯とさらしを巻いてはいるが、坂崎が急所や臓器を避けて刺したので命に関わることはなかった。

 一週間たった今は、退院して体も動かせるようになっている。


「5月5日、端午の節句の日に拳銃で撃たれた。もう死んだ、と思ったんです。でも気がついてみると、僕は幽霊になっていたんだ」

「幽霊?」

「僕は常に宙にいて、意思とは関係なく身体が行動しているんだ。僕はただ、見ていることしかできない。そんな三か月間だった」

「……」


 久しぶりに天童星児と話をしているが、何もかもが違うと坂崎は感じた。

 

(俺の知っている天童は、頭は切れるがすぐに手が出る無骨な男だ。だが、今のこいつからはそんな雰囲気は微塵も感じられねえ)


 「僕」と自称し、穏やかで自信のなさそうな優男である。

 

「でも、確か6月だったか、凛音を見た時に一度自分を取り戻したことがあった。彼女が生きていたことを知って、思わず彼女を抱きしめたんだ」


 カフェ清流前での再会だ。


「まあ。すぐに凛音が気絶して、また幽霊に戻ったんですけどね。そしてこの間、大川の親分を見た時にも…雷に打たれるような衝撃が起きて、また自分の身体に戻ったんです。気がついたら、サーベルを手に取っていた」


 思い起こすと、確かにそんな感じだった。

 挨拶の途中で、この男は人が変わったような空気を醸し出していた。


(すげえ殺気だった。まるで、復讐の鬼)


「走馬灯のように、父との思い出が脳裏をよぎった。それから、耳元で声がした。『大川辰吉。こいつがお前の父親を殺した。仇を取れ。仇を取れ!』」


 思い起こしたくないのか、星児が耳を塞ぐ。


「そうだ。仇を取らなきゃ。そのあとは何も考えられず、サーベルを構えたまま突進して行ったんです」

「ちょっと待て。じゃあ、無意識におやっさんを殺そうとしたってのか?」

「…大川さん。本当に申し訳ありませんでした!」

「ざけんな。無責任な事言ってんじゃあ…」

「そいつは、『業』ってやつだろうな」


 大川が口を挟む。


「業、ですかい?」

「ああ。実はな、俺がお前の父親・天童侑李を刺した時もそうだった。男の意地を守るためにゃ、何が何でもこいつを殺さなきゃならねえ、てな」

「……」

「俺もあの時、業に操られたんだ。そして悔いても悔い切れねえ過ちを犯した。で、今度はその息子の業によって、てめえが殺られるところだった……因果応報、だな」

「そんな、おやっさん。他人事みてえに…」


 大川が立ち上がる。


「ふう。おめえの話を聞いて、俺は腑に落ちたぜ。星児。早く怪我を直せ。そして、まだヤクザを続ける気があるのなら、改めてウチの門を叩きに来い」

「おやっさん。まさか、こいつを許す、ってんですかい?」

「親分。ご厚情には感謝します。ですが、僕はもうあなたが認めて下さる天童星児ではないんです。今までの天童組二代目は別の人間なんです。ですので、もし許されるのであれば、僕を凛音の傍に…」

「ん?ちょっと待て!」


 ぽちゃん。

 水が零れる音。

 サイドボードの上の金魚鉢が揺れている。

 そして、足元も。


 壁に掛けられた振り子時計が「11時58分」を指していた。




 カフェ清流では、従業員たちが後片付けをしていた。

 この日は半ドンの土曜日なので、営業は午前中だけだ。


「ひい様が入院なさってもう1週間。まだ目を覚まされないのかしら?」

「今日は小梅が付き添ってるけど、店にいらっしゃらないと活気がなくなるわね」

「お客様からも『あの明るい美人店長がいないと寂しい』って‥」

「やっぱり、このお店はお嬢様あってのカフェ清流、なのよ‥‥ン?」


 ガリ!という音を残して、音楽が中断した。

 鳴らしていた蓄音器の針が飛んだのだ。

 椅子もテーブルも、音を立てて揺れている。

 コーヒーカップが落ちて割れる。


「地震、地震よ!大きいわ。みんな、外に出て!」


「‥れ、レコードが‥嫌あ!」


 横揺れが起きて、針がレコードを掻きむしるように傷つけていく。


「ひ、ひいちゃまの好きなお歌なの!」


 蓄音器を抱きかかえている。

 逃げようとしないゆきの頭上に、屋根の鴨居が落下する。


「ゆき!」


 花が、ゆきの身体に覆いかぶさった。




 

 令和。

「なんぢゃ。ギャルはともかく、大人のお主まであんな大事な日を忘れとるのか?情けない」

「……今日は九月一日だろ?何かあったか?」

「この馬鹿者が。関東大震災ぢゃ!大正時代最大の悲劇ぢゃろうが」

「「関東大震災?」」

「……お主ら、わしをからかっとるのか?ほりゃ。ちょうどその発生時刻ぢゃ」


 美和が「11:58」と表示されたGショックを見せる。


「いや。本当に初耳なんだ。大正時代に震災があった?‥‥え?いや、待てよ。たった今思い出した。関東大震災、だよな。歴女の俺が知らないはずがない」

「あ。あーしも思い出した。確か避難訓練の時、さんざん聞いた地震だ」


「そう言えば、あっちにいたときからちょくちょく記憶が飛んでいたな」


 「民同会抗争事件」というヤクザが絡む歴史的事件も、あのときは思い出せなかった。

 先日警視庁のデータベースを開いたとき、はっとした。

 自分が関わったのはそれほどの大事件だったのだ、と。


「記憶が飛んでおったか。それは神様がお主らへかけたリミッターぢゃな」

「リミッター?」

「未来から憑依したお主らは、歴史を変えてしまうおそれがある。だから歴史に残るほどの情報は、お主らの脳からはく奪されたのぢゃろう。もうすぐ関東大震災が起きるからみんな逃げろ、などと騒がれては歴史が大きく変わってしまうからのう。それで発生時刻を過ぎた今、記憶が復活したんぢゃな」


「…ん?だが俺は向こうで、絶対に上がる株を買ったぞ?」

「あーしも、オムライスを発明しちゃったよ?」

「株は関東大震災で紙くずになって燃えておる。オムライス程度は支障ない、と判断されたんぢゃろ。それよりカフェ清流の記録も残ってない、と言うたな。となると、その店はやはり大地震で焼失しちまったのかもな。天童組も、な」




つづく


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