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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第五章 因果応報

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第56話 「仇討ちの行方」


「だが神様はどうして、美子さんみたいに大正時代にいたイエへ・ナラ巫女を使わなかったんだ?」

「もうその頃には、母・美子も他の巫女も麗華にクビにされとったようぢゃ。前妻の女中を屋敷の中に置いておきたくなかったんぢゃろうな」

「また、あの女か。ほんまもんのイジワル継母じゃん」


「う~ん。細かい疑問はあるが、大和撫子が凛音に憑依した経緯は飲み込めた。だが、俺のケースは?俺はイエへ・ナラとも天童星児とも無関係のはずだが」

「お主の場合は、やはり巻き込まれ事故なんぢゃろうな。お主、撫子が崖から落ちるとき一緒にいたんぢゃろ?」


 もう一度思い返す。

 

「崖から落ちる寸前に、確かこの子の手首を掴んだような気がする」

「あ。あれ、引っ張られたんじゃなく掴まれただけなのか?」


「カルマが複数集まると、化学反応を起こすことがある。業のせめぎ合い、ぢゃな。その時、天童星児も死にかけておった。そして凛音さまはご自身の命よりも夫の命を救いたいと考えた。そのカルマが連鎖して、ふたり同時に憑依するという形を取ったのかもしれん」

「つまり星児のカルマが凛音を助け、凛音のカルマが星児を助けた…のか」


「夫婦愛、ねえ。元ダンのクズ野郎に教えてやりたいわ」


 亜紀がしみじみと呟く。


「次の疑問は憑依の期間だ。今回十か月のレンタル期間を短縮して、ふたりとも三か月半という中途半端な期間で憑依を終えた。これはなぜだろうな?」

「おめえらの最期の話は、本人から聞いた方が良かろう。詳しく教えてくれ」


 まず、小百合が顛末を話す。


「‥というわけで、大川辰吉の姿を目にした途端に俺の魂が幽体離脱したんだ」

「ああ。それはもう、憑依の効力が切れたんぢゃろう。天童星児は父親の仇を目の前にして、強い自我を復活させたんぢゃ。復讐というカルマがお主を肉体から追い出したんぢゃろうな」


 次に撫子の話を聞く。


「神様の望みは凛音の命を守ることぢゃ。それなのにおめえは、その友達の命を優先させて危険行為をしてもうた。これではルール違反、レッドカードで一発退場、ちうとこぢゃろうな」

「また、サッカー?どんだけ好きなんだよ」


「だがそうなると、ふたりのその後が気になるな」

「そう。凛音は心臓が弱いんだって。あーしが抜けちゃったあと、どうなったのか心配だよ」

「星児の仇討ちもどうなったのか?俺は見届けられなかった」


 


 大正12年8月25日の品川湊。

 スローモーションという言葉を知る由もない大川だったが、天童星児が突き出したサーベルの切っ先が至極ゆっくりと自分の左胸に近づいてくるのを見とめた。


(ああ。あのときと同じだ)


 二年前の決闘でも、天童侑李のフルーレが自分の心臓を貫こうとしていた。


(因果…応報、だな)


 俺はこの男から父親を奪った。

 つまらぬ男の意地のために、だ。

 命はそんなものより遥かに重いのに。


 覚悟を決めた。

 死ぬ覚悟だ。

 せめて侑李の息子の仇討ちを見届け、最後に言おうと思った。

 お見事、と。


 だが、切っ先はすんでのところで停止した。


「何を、やってんだ。てめえは!」


 坂崎亮介の声だ。

 見ると、星児と自分の間に坂崎が割って入っていた。

 手にはドスが握られている。

 血が滴っている。

 星児の脇腹を突いているのだ。


「俺は…俺は、楽しみにしてたんだぞ。おめえと一緒に大吉一家を盛り立てていこうって…」


 泣いてるような声だ。


「それなのに、この……バカ野郎がああ!」


 低い体勢でタックルするように、星児の大きな身体を押し返していく。


「……ぱ、パーパ」


 アチェーツが「父上」であるのに対し、パーパはロシア語で「父さん」の意味だ。


「パーパ。ごめん…し、失敗し……た」


 星児が膝から崩れ落ちた。

 坂崎がドスを引き抜く。

 星児はサーベルを放り投げて、大の字に倒れた。


「‥‥天童。天童。おい、しっかりしろ!」


 自分が刺した相手を、坂崎が抱きかかえる。


「さ、坂崎くん」

「喋るな。すぐに医者を呼んでやる。黙ってろ」

「……これでもう……楽になれ…る……ありがとう」


 なんともいえない笑みを浮かべてから、星児は目を閉じてうなだれた。


 二年前のデジャヴ。


(また、俺を生かすのか?若いもんを傷つけてまで‥‥)


 命が助かったことよりそのことが切なくなり、大川はそっと目を伏せた。




 その二時間後。

 清流院凛音は、新富町の病院に搬送された。

 心臓発作の治療のためだ。


「なんと。またあの奇跡の少女か?」


 医者は5月に凛音を治療した老医だった。


「先生。凛音は、彼女は助かりますの?」


 権俵よしこもまた同じ病院で左肩の外傷の治療を受けたが、その傷は重症というほどではなかった。

 出血はしたものの、それは銃弾が毛細血管を破壊したためで動脈や骨に異常はなかったのだ。

 自分の応急処置が終わるや、よしこは凛音の病床に付き添った。


「ふむ。あのときと同じく心拍数は落ちておるが、停止する要因はないと見える。他の臓器に合併症でも現れない限り、命に関わることはない。ただ…」

「ただ?」

「いま欧米では精神医学なるものが発達しており、精神的な衝撃が大きいと肉体にも影響を及ぼすという論文も散見しておる。以前もそうじゃったが、今回もそうであれば仮死状態に陥ることもあるがのう」

「仮死…状態、ですか?」

「うむ。しばらく入院してもらった方がよかろう」




つづく

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