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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第五章 因果応報

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第52話 「バックトゥザ令和」



 長い、長い長い夢を見ていた気がする。


 それもそうか。

 百年もの間、自分は眠り続けたことになるのだから。 


 目を開く。

 これもそう。

 100年前に目覚めた時も、こんな天井だった。


 病室。


(ああ。でもあんときみたいに、お医者さんとかいないんだ)


 あの時はおじいちゃんみたいな医者が「奇跡じゃ!」とか叫んでたっけ。

 いまいるのは、ソファで横になってる銀髪厚化粧で露出多めの……。


「ミサキ姐さん」


 くたびれたギャルのパイセンが寝ぼけ眼で宙を見回す。

 誰に呼ばれたのか、確認している。

 こちらを見留める。


「……なっち?」


 彼女は撫子をそう呼んでいる。

 ソファから飛び出して、ベッド脇に立つ。


「おまえ……」

「姐さん。鏡見して」

「お?あ、うん」


 美咲がスマホを取り出して、ミラーアプリをタップする。

 スマホを向けられる。

 アプリの中に写っているのは、懐かしい顔だった。


「はは。あーしスッピンだと、超ジミメンじゃんねえ。はは」


 清流院凛音の息を飲むような美形とは比べものにならない。


 それでも、愛しい自分がそこにいた。


「ミサキ姐さん。あーし……」

「……」

「あーし、生きてんの?」

「…ああ。おまえ、生きてんな」


 美咲の潤んだ瞳が、それを証明してくれている。


「あーし、生きてて…いいの?」

「……たりめえだ。この、バカギャル!」


 抱きしめる腕が、生きてていいに決まってる、と保証してくれた。

 生きているから、涙が溢れ出た。




 しばらく医者や看護師のドタバタがあって、検査やら何やらが続いた。

 付き添っている美咲に訊く。


「姐さん。今日は何年何月何日?」

「ああ。2023年…令和5年8月25日だな。おまえ、三か月以上眠り続けたんだ」

(ふうん。経ってる時間は同じなんだ)


 大正でも三か月半を暮らした。


(なんか、一生の半分くらい生きた気分)


「ママちんは?元気してた?」

「おう。おまえのかあちゃんはすげえぞ。おまえが入院した翌日から、本業のほかにバイトまで入れて働き始めた」

「……」

「『ミサキ、心配すんな。撫子は必ず生き返る。それよか病院の個室代稼がなきゃ』つってな。さっき電話したから、バイト先からすぐ駆けつけてく…」

「撫子!」


 駆けつけて来た。


「…起きたか?」


 毎朝の挨拶だ。

 おはよう、ではなく「起きたか?」。


「チョーだるい。ガッコ休んでいい?」


 これも毎朝のルーティン。


「…いいよ。好きなだけ休め。そしてママみたいなアホ女になって、クズ男に騙されろ」

「じゃあ、行く」


 ふたりで笑う。

 日常が戻ってきた。

 母親・大和亜紀が枕元に腰掛ける。


「ねえ、ママちん。あーし、謝んなきゃだわ」

「…受け子のこと?まあだいたい、警察の人から聞いてるけどね」

「そうなんだ?でね、あーし自首しようと思う」

「ああ。そうしな。ただあんた三か月寝たきりだったから、立つのも歩くのもリハビリが必要らしいよ。警察行くのは歩けるようになって…」


「いや。臨床尋問、というものがある。今からでも構わないぞ。大和撫子」


 個室の入り口から、車椅子が入って来た。

 黒スーツを着た、ハッとするようなショートヘア美人が乗っている。

 きめ細かい白い肌、妖しく揺れる眼差し、通った鼻筋、意志の強そうな口元。


(わ。マジで女版・天童星児じゃん!)


 ただその右脚は、ギプスと包帯に包まれている。

 そして手には、アルミ製の警棒…。


(てことは…ま、まさか?)


「警視庁刑事部捜査4課、鬼束小百合です」


 そう言って、警察手帳を掲げる。


「え?あ、あの鬼束刑事?」

 

 美咲が声を上げる。


「誰?」

「ほら。なっちを助けようとして、巻き添えくって一緒に崖から落ちちゃったオンナ刑事」

「え、そうなの?これはこれは。娘が大変なご迷惑を」


 亜紀が平身低頭して謝る。


「大和さんのご家族の方ですね?職務上のことなので、どうぞお気遣いなく」


 それでもペコペコ頭を下げる母親に微笑みかけている。


(あ。ホントに一般人には優しい)


「お母さん。申し訳ないんですが、しばらく席を外していただけませんか。決して娘さんの悪いようにはしませんので」


 亜紀と美咲が撫子を窺う。

 うんうん、と頷いているので二人にしかわからない何かがあるようだ。


「じゃ、じゃあちょっと」

「大丈夫です。うまくいけば、彼女を不起訴にもっていけますので」

「で、では、よろしくお願いします」

 




 ふたりきりになった。

 小百合がベッド脇に車椅子を移動させる。

 ベッドの上から見ると、白いワイシャツから豊満な胸の谷間がチラ見えしている。

 

(これ覗くと、警棒で殴られるんだよね。ヤベ!)


 メデューサの眼を避けるように、小百合の上乳から目をそむける。


「女は殴らねえよ。なんなら、揉ませたろか?」

「タチ悪!百合的セクハラ…ユリハラだよ、それ」

「…だがまさか、きみも出戻ってたとはな」

「離婚した女友達か!…小百合ちゃんは、いつ?」

「きみが目を覚ます二時間くらい前だ。俺が戻ったのは」

「あ。ホントに『俺』なんだ。すぐわかった?」

「一度経験してるからな。たぶんそうだろう、とは直感したが。なにせ体が、これだ」

「……なんか、ゴメン。あーしを助けようとして、だよね?」

「いや。足以外はなんともなかったそうだ。だから、医者たちは不思議がってたらしい。致命傷はひとつもないのに意識だけが戻らない、ってな」

「あーしも、おんなし事言われた」


 ふたりは大正時代での最後の状況を語り合った。

 小百合は、天童星児が父親の仇討ちを強行したことを。

 撫子は、凛音が清流院麗華の凶弾からよしこを守ろうとして失神したことを。


「生まれ変わったからと言って、思い通りにはいかないものだな」

「てか、最悪の結果ばっかだよね」

「まあ、何にしろ。令和に戻って来れて、これでめでたしめでたしだ」

「……」

「どうした?嬉しくないのか?」

「…清流院凛音は、どうなるの?」

「…天童星児も、な」


 ふたりして黙り込んだ。


(清流院…凛音?天童星児?)


 廊下で聞き耳を立てていた亜紀が反応した。

 ふうと深呼吸してから、個室に戻る。


「あんたたち!」

「ママちん?」

「まさか、大正時代に行ってたんじゃないだろうね?」




つづく

 



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