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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第四章 諸行無常

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第50話 「仇討ち」


 天童組を大吉一家の傘下に入れて、中枢に据えたい。

 その旨を、大川は後藤と坂崎に歩きながら話した。


「後藤はどう思う?」

「…異存はありません。私の見込みが甘かったばかりに、総長をそんな目に遭わせちまったんですから。自分は若頭失格です」

「俺のことはともかく、一家の若いモンを無意味な戦争に送り込む羽目になっちまった。そこはしっかり反省してくれ。おめえは人が好過ぎる。ひとを信じ過ぎる。そこがおめえのいいとこでもあるんだがな」

「はい。肝に銘じやす」

「うん。じゃあ、しばらく若頭の座は空席にする。その間、亮介と天童のふたりで補佐をやってもらいてえんだ」


 本当は、すぐにでも星児を若頭にしたい。

 だが、いきなり新参者を若頭に据えては反発を招く。

 しくじった後藤にも配慮した、大川らしい巧い人事だった。


「俺と天童が、ですかい?」

「いやなのか?」

「あの野郎と一緒に、ってなあ不服ですがね。おやっさんがどうしてもってんなら、子分がどうこう言うことじゃあありやせんし…しゃあねえっすねえ」


 隠そうとしても、口元が綻んでいる。

 

(ふふ。他人に興味のねえこいつが、最近は二代目のことばかり話しやがる。やはり、相当馬が合うんだろうな)


 三人は、いまだ陣が解けない中央に向かった。




「公開、処刑?」

「当然だろう。おめえは愛国会の人間と大川総長を殺そうとしたんだ。てめえも死ぬ覚悟をしていたはずだぜ」


 天童星児の本気の眼に、桜田の顔がくしゃくしゃになる。


「ち、違うんです。俺は立憲政友会の、政治家の先生に命じられて仕方なく…」

「だったら、その先生の名前を言え」

「…いや、それは」

「できねえなら、おめえが全てをおっかぶって…」


 サーベルを抜いて、桜田の喉元に刃を当てる。


「斬首、だな」

「ひいい!言います、言います!」

「おめえの背後にいるのは、誰だ?」

「立憲政友会の、岡崎晃次郎先生です」

「そいつは貴族院の議員か?」

「は、はい。岡崎先生は男爵でもいらっしゃいますので」


 これで拳銃ともつながった。

 政友会の貴族院議員なら、華族軍人を動かすこともできただろう。


「よし。あとで念書を取る。やつの名刺を持ってたら、それもよこせ」

「は、はい。一緒に写ってる写真もあります」


 助命のためには後見人だろうが恩人だろうが、簡単に売る男だった。

 そそくさと内ポケットから名刺と写真を取り出す。


「江田島。こいつはいずれ役に立つこともあるはずだ。保管しておけ」

「へい」


 江田島が写真と名刺を懐にしまった。


「おい、参謀長。ご苦労さんだったな」


 坂崎が声をかけてくる。

 振り返ると、そこには坂崎と後藤を伴った貫禄のある男もいた。

 そのオーラで、すぐにわかった。


(大川、辰吉)


 鬼束小百合も天童星児も、初めて間近で見る姿だった。


「おい、喜べ。天童組の大吉一家入り、オヤジさんが認めてくれたぜ」

「…そうか」


 思惑通りだ。

 このまま大吉一家の一員として今回のような手柄を立てていけば、いずれは若頭や総長に登りつめることができるだろう。

 そうなれば東京のヤクザ達を再教育して、義に篤い集団として未来に送り出せる。

 ある種自分は、時空を超えた潜入捜査をしたようなものだ。

 逮捕するのでなく、防犯のための潜入捜査だ。

 歩いてくる大川に最敬礼をする。


「大川の親分。これからは大吉一家の一員として、粉骨砕身して頑張らせていただきます。どうか宜しくご指導のほどを…」


 口が止まった。

 続きが喋れない。

 いや、口だけではない。

 腰に提げたサーベル。

 それを求めて、両手が勝手に動き始めている。


 コントロールが利かない。


(やべえ。あのときのやつだ。星児が凛音を見たときの…ああ!)


 幽体離脱。


 鬼束小百合の魂が、天童星児の肉体を離れて宙に浮遊する。


「どうした、天童?オヤジを前にして、緊張しちまったか?」


 頭を下げたまま固まっている星児に、坂崎が声をかけるのが見える。

 そして、星児の右手がサーベルの柄に伸びるのも。


(お、おい。星児。何やってんだ?おい)


 嫌な予感。

 そうだ。

 そう言えば、星児の父親はこの大川に斬られて死んだのだった。


「……大川…辰吉。ここで会ったが百年目……」


 昔の映画でよく聞く、仇討ちのときの決まり文句。


「父・侑李…アチェーツ(露・父上)の仇…」


 星児がサーベルを抜いた。


(ここで仇討ちだと?やめろ。俺の努力を台無しにする気か?)


「覚悟!」


 星児がサーベルを腰だめに構え、大川の腹に目がけて駆けていく。

 とっさのことに、大川も後藤も呆然と立ち尽くしたままだ。


「アチェーツ!」


 サーベルの切っ先が大川の腹部に届いたその瞬間。

 小百合の視界がブラックアウトした。


(え?)


 その魂は尋常ならぬ力に引っ張られて、別次元へと投げ飛ばされた。





つづく



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