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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第四章 諸行無常

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第47話 「激突」



「なあ、いいだろ。坂崎。俺はおまえが好きなんだよ」

「て、天童。おめえ…」

「はじめて会ったときから、ちっちゃくてかあいい奴だなって思ってたんだ。なあ、亮介って呼んでいいか?」

「お、おい。やめろ。変なとこまさぐるんじゃねえ」

「ふふ。亮介の乳首、かあいい」

「あ、バカ。なめるんじゃねえ!」

「ほら。立ってきたよ、乳首。下はどうかな?」

「や、やめろ。天童」

「わ。亮介のここ、全然ちっちゃくないじゃないか。まるで警棒みたいだな。よおし。俺の警棒とどっちが強いか、殴り合おうぜ。勝負だ!」


 星児が懐から警棒を取り出して振りかざす。


「おりゃああ!」

「や、や……」





「やめろお!」


 うとうとしていた坂崎が、後部座席で叫ぶ。

 驚いた運転手が、思わずクラクションを鳴らした。


「おい、亮介。でけえ声出してどうした?」


 左肩を包帯で巻いた大川が耳を塞いで、睨んでくる。


「え?あ、おやっさん?」

「なんだ。悪い夢でも見たのか?」

(…ゆめ、か)


 人生で最悪の夢だった。


(あの野郎に会ってからってもの、調子が狂ってしょうがねえ。前世であいつは、俺の天敵だったんじゃねえのか?)


 実際令和のヤクザ達は、鬼ユリを天敵だと思っている。


「ゆんべは徹夜だったらしいな」

「へい。天童の野郎に、陣の中での隊列の動きをみっちり訓練させられやした」

「ほう。隊列の動きを、か」

「警棒とかいう棒っ切れでビシビシ叩きながら、若えもんをしごいてました。まるで、鬼でした」


(実質、天童の息子が仕切る喧嘩になりそうだな。楽しみだぜ)


「総長。坂崎さん。もう間もなく着きます」


 運転手の呼びかけに、ふたりが窓外を見やる。

 埋立地が見えてきた。

 東京ドーム数個が入りそうな平地である。

 そこに蟻が群がるように愛国会・民同会双方の構成員が集結している。


「ここなら陣の動きが見れるな。おい、ここで停めてくれ」


 自動車が埋立て作業専用道路の途中で停まる。


(さて。いってえ何を訓練したのか、見してもらおうか。天童星児)





 横一列に20台のフォードが並んだ。

 その横にはトランペット奏者と旗を持った桜田がいる。


「いいか。進軍ラッパが鳴り始めたらエンジンをかけろ。鳴り終わって、俺が旗を振る。それを合図に、一斉に陣中央に向けて突撃開始だ。よし。ラッパ、鳴らせ!」


 桜田の指示に従って、奏者が突撃のファンファーレを吹き始める。

 エンジンの空吹かしをする。

 トランペットの最後の一音。


「ゴー!」

 

 旗が振り下ろされた。

 フォード20台がうなりを上げて発進する。

 砂煙が舞った。


「ゴホゴホ!」


 桜田が旗で鼻と口を押える。


(くそ。なんだ。海風か?こっちは風下、ってことか?)


 愛国会は朝からすでに陣取っていた。

 自分たち民同会は、その反対側に陣を敷かざるを得なかった。


(これまた時代錯誤だ。こっちは弓を引くわけじゃねえから、風向きなんて関係ない。拳銃なんだからよ。ふふ)


 20台のフォードが埋め立て地の上を走り抜ける。

 ただ、その道は凹凸の激しい路面だった。

 車が上下左右に揺れる。


(まずいな。こんなに揺れちゃ、拳銃が暴発しちまう)


 幹部で先鋒隊長の柏木が懐にしまった拳銃を取り出して、ガラスのない窓から外に突き出す。

 万一暴発しても車内の味方に当たらないようにだ。


「おい!みんな、拳銃は外に出せ!」


 それぞれが隊長に倣った。




 櫓の下には増田がいる。

 増田は、祭りで使う大太鼓の前でバチを構えている。

 櫓の上に登った星児に言う。


「へえ。おめえが予想した通り、車を駆り出してきたな」

「ああ。ヤクザってのは、車で突っ込むのが大好きなんだよ」


 昭和ヤクザのカチコミの定番は、相手の組事務所にトラックで突っ込むことだ。

 拳銃を調達できるのだから自動車ぐらいは持ち出すだろう、と予想した。


「わあ。車が隊列を組んで、こちらに向かってきたぞ」

 

 櫓の上では、村橋が不安を口にする。


「ものすごい勢いだ。こんな櫓なんて一発で吹き飛ばしそうですぞ。大丈夫なんですか?親分」

「も、もちろんですとも。なあ。参謀本部長」


 心もとない小沢が、隣に立って双眼鏡を覗いている星児に訊く。


「さあ」

「き、きみい。さあ、ってことはないだろう!」

「何が起きるかわからないのがヤクザの喧嘩なんでねえ。ただあんたらは総大将と後見人なんだ。たとえ車の大群がこちらに突っ込んで来たとしても、動かないでくださいよ」

「な、なにい!」

「よし。もう少しだ。もっと引き付けてからだ」

「お、おい!」

「もう少し。もう少し…」


 フォードの大群は、愛国会最前線の近くまで来ていた。


「わ。ぶつかるぞ!」

「わが陣が、車に蹴散らされる!」


 小沢と村橋が顔を背ける。


「増っさん。打て!」


 大太鼓が打ち鳴らされた。


 ドンドン、ドドドン!


「野郎ども。訓練の成果を見せてみろ!」


 太鼓を合図に、愛国会の先陣にいる数百名が真っ二つに割れた。

 まるで、モーゼが海を割るように。


 割れたスペースに、20台の車がすべり込むように進入する。

 完全に肩透かしを食らった格好だ。

 車の軍勢はスピードをゆるめず、櫓に向けて直進して来る。


「お、おい。あそこで堰き止めるんじゃないのか?こっちに来るぞ!」

(だ、大吉一家。謀りやがったな。ハナから俺を、あいつらに殺させるつもりだったな!?)


 だが、そばにいた星児はとっくに櫓を降りている。

 そして車も、もう目と鼻の先まで来ている。


「わ。わ。わああああ!」

 

 


つづく




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