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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第四章 諸行無常

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第46話 「品川決戦」 



 品川湊の埋め立て地に櫓が設えられた。

 憲政会衆議院議員の村橋角蔵と愛国会会長の小沢徹治が乗せられている。


「おほ。これは特等席だな。上からすべてが見渡せる。絶景かな、絶景かな」


 歌舞伎の一節を口にするほど村橋は浮かれているが、小沢の方は一抹の不安を抱えている。

 はからずもこの一大決戦の愛国会側総大将に担がれてしまったからだ。


(まあ。会長なんだから当たり前なんだが、こういう時は現場のカシラが仕切るもんじゃねえのか?)


 これまで喧嘩の指揮などは、小沢組の若頭に任せてきた。

 自分は経営や人脈作りは得意だが、正直荒事は苦手だ。

 単純に怖い。

 向こうの方で、白いスーツの男が人夫たちに指示をしている。

 腰にはサーベルという洋式の剣を提げている。


(あの野郎に、まんまと乗せられた気がするがな)





 前日、星児ほか大吉一家の強面たちが小沢の家に乗り込んできた。


「会長。あんたは大正の徳川家康だ。あんたがしんがりにデンと構えてくれりゃあ、味方の士気も上がる。だから何が何でも、明日は総大将の座にいてくださいよ」


 徳川家康と言われて悪い気はせず、なにより強面たちは恐ろしい形相で睨みつけてきていた。

 首を縦に振らざるを得なかった。




「そうだ。まんべんなくばら撒いてくれ。薄く広く、だ」


 どうやら埋め立て地の上に細かい砂を巻いているようだが、何に使うのかまでは知らされていない。


「小沢の親分。あの大吉一家ってのは東京一の武闘派なんでしょ?大船に乗ったつもりで、われわれは高みの見物といきましょうや」

「……ええ。まあ、そうですな」


 口喧嘩しかしたことのない政治家が、のん気に構えている。


(そりゃあ味方のうちは頼もしいが、敵に回したらこんな怖え集団はいねえ。ゆうべのあいつらは、俺も敵の一人みてえな目をしていた。何事もなきゃいいが)





(馬に乗って果たし状を持ってきて、刀を振り回し大広場で喧嘩……やはり救いようのない時代遅れどもだ)


 桜田がフォードの後部座席でほくそ笑む。


(文明の利器というものをわかっていない)


 桜田の後方からは、フォード20台がついて来ている。

 牛ぎゅう詰めの座席に乗る兵たちは、懐に拳銃をしのばせている。

 すべて、政友会国会議員と華族議員が用意してくれたものだ。


(戊辰戦争で旧幕府軍が新政府軍に大敗したのは、銃や大砲に刀で向かって行ったからだ。「保守」とは「時代の変化に気づかぬ愚か者」という意味なんだよ)




「あ、これカーネーションじゃん!綺麗なピンク。白いのもある」


 権俵邸には美しい庭園がある。

 今日は花々に囲まれながら、凛音とよしこがアフタヌーンティーを愉しむ。


「母の日によく贈ったんだよねえ」

「母の日?何ですの、それは?」

(あ。この時代はないのか)*母の日が広まるのは1950年頃から


「でも蘭撫子の原名を御存じなのは、さすがわたくしのライヴァルですわ」

「らんなでしこ?」

「江戸時代にオランダから伝わったナデシコ科の花ですのよ」


 撫子。

 前世の名前。

 嫌いな父親がつけた嫌いな名前。


 物思いに浸りながら、お茶菓子をつまむ。


「わ。これ、おいしいね。なんていうスイーツ?」

「あら。お菓子のこともハイカラな呼び方なさるのね。そちらは、とらやの羊羹。こっちのは萬年堂のあんこ大福ですわ。和菓子ばかりですけど」


 大正時代は令和のように、甘味が豊富にあるわけではない。

 ただ和菓子に関しては例外だ。

 転生してから甘味から遠ざかっていた凛音(撫子)の舌には、至福の品々だった。


「お嬢様。ティーにミルクを…」

「ああ、もう結構よ。ねえ、橋本。ここからは乙女同士の大切な話をしたいの。席を外してくれないかしら」

「かしこまりました。では、護衛を二人残して…」

「それも下げて。お昼休憩をさせなさいな」

「ですが…」

「今日は訪問客も予定にないわ。たまにはお友達と自由に話をさせて」

「かしこまりました。では、ごゆっくり」


 橋本と呼ばれた執事が退出する。


「華族も大変ねえ。内緒話もできないの?」

「まあ、他人事のように。清流院家だってそうでしょ?」

「ああ。いまウチは没落しちゃってるし。ぜーんぜん自由だよ」

「はあ。やはり、あなたは変わったわね。女学校時代のあなたは、良くも悪くも華族令嬢でしたわ」


「良く、の方だけ教えてよ。よっちゃん」

「そう。気高くて近寄りがたくて、誰とも交わらない孤高のお姫様」

「それ、悪く、の方じゃね?友だちいない、っていう」

「でも今のあなたは、下々の方たちと同じように額に汗して働いて…」

「いや。不本意なんですけどお」

「そして、キラキラと輝いてらっしゃる。わたくしは今の凛音さんの方が好きですわ。憧れますわ」

「いやあ、照れるな。もっとちょうだい」

「やはり、星児さんという殿方があなたを変えたのかしら?」

(いや。根っこからひとが変わってんだけどね…ん?あれ?)


 胃腸から込み上げるものが喉元に漂う。。


「そう言えば、女学生時代あなたは甘いものがお嫌いだったし…」

「んん。ごめん。ね、トイレどこ?」

「どうなさったの?」

「な、なんか吐き気が…食べ過ぎたかも…」

「まあ、たいへん。トイレットはあちらですわ。一緒に参りましょう」





「わはは。案の定だ。」


 現場に到着し愛国会側の布陣を見た桜田が、高笑いをする。

 大将の櫓を奥に設え、その前に十重二十重の陣を敷いている。

 そして、両側に薄い陣。


「先方が刀か槍で突き進んできて、両の兵たちが囲む。鶴翼の陣のつもりだろうが、そもそも兵の数がわれわれの三分の一もないのでは、無意味に兵を分散させただけだ。おい!」

「はい」

「車両部隊を横一列に並べろ」

「は!」


(自動車であの陣を突破して、拳銃で櫓を狙い撃つ。それで終いだ)


 20台のフォードが最前線に並べられた。

 海風が砂を巻き上げ始めてきた。




つづく 

 



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