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令和ギャル、転生だかタイムリープだかして伯爵令嬢だか極妻だかになって大正時代を無双する……とかしないとか  作者: 真夜航洋
第四章 諸行無常

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第44話 「華族軍人」


 

 後藤が、ふたりを会議の輪の中に入れる。

 誰も異存はなかった。

 増田が口を開く。


「俺の組はここ大吉組と隣り合わせの浅草だ。だから辰吉とは長いことやりあってきてるし、先代天童組とも因縁のある間柄だ。今さら俺らが手を組むと言っても信じらんねえだろうが、それを承知の上でここに来た」


「聞きやしょう。どういうお考えです?」

「今度の民同会のやり口が気に入らねえ。数にものを言わせた不意打ちに飛び道具、そんなもんは喧嘩じゃねえ。これを許したら渡世に掟破りが罷り通ることになる。だから、今回はおめえらを推す」


「つまり、今回だけの同盟…ですか?」

「ああ。無作法者に仁義を叩き込んだら、また前のようにバチバチやり合おうじゃねえか」

「天童組も同じだ。今回だけ、おめえらに付いてやる」


 これからずっと仲よくしよう、などというのはヤクザのリアリズムではない。

 ついたり離れたり、だがお互い死なない程度の戦いが彼らのリアルだ。

 ふたりの言葉は信用できる、と後藤は判断した。


「親分さんたちのお気持ちはわかりやした。どうぞ、よろしくお願いしやす。ただその前に、この喧嘩を一家として受けるか愛国会として…」

「愛国会として受けた方がいい、と思うぜ」


 星児の言葉に幹部連がピクリとする。


「理由はふたつある。愛国会という団体のうさん臭さは俺の鼻にも届いている。こりゃあ単なる政治家の派閥争いの道具だってな。だからこそ、やつらを最前線に引きずり込んでやった方がいい。仮にこのまま大吉一家単独で喧嘩を始めて勝ったとしても、やつらは愛国会の手柄にすり替えちまうだろうしな」


 やりかねない、と後藤以外の幹部は頷く。


「二つ目は単純に数の問題だ。一騎当千とはいえ大吉は総勢千人に届かねえ。俺が調べたところじゃ、民同会は頭数だけなら三千人を超えている」


 その情報は誰も持っていなかった。

 

「…それがどうした。ひとり3人倒しゃ済む話だろうが!」


 威勢のいい幹部が口を出す。


「相手が拳銃を持ってても、か?」


 ついさっき実証済みなので、場が静まり返る。


「いや。しかしあんなもんは、そうおいそれとは…」

「政治家の派閥の代理戦争なんだとしたら、その政治家が武器を調達して民同会に流していると考えるべきだろう」


 確かこの男自身が拳銃で撃たれた、と聞いている。

 坂崎が訊く。


「天童。おめえ、何か知ってんな?」

「これも調べた。また撃たれちゃかなわねえからな。民同会の桜田に拳銃を渡したのは政治家だが、さらにその背後には華族の人間がいる」

「華族、だと?」


「今の日本の政治状況を簡単に説明する。国会には衆議院と貴族院があって、衆議院は民間から選ばれるが貴族院は華族の中から華族同士の選挙で選ばれる。ところが、いま流行りのデモクラシーは、それは不公平だから廃止すべきだという流れに傾いているんだ」


「小難しい話だな」

「いや。簡単な話だ。華族は自分たちの持ってる権力を手放したくはない。だから衆議院で張り合ってる憲政会と政友会を両てんびんにかけて、その時々で自分たちに都合のいい政党を裏で操っているわけだ。今の時点でそれは政友会だ。そして政友会に付いているヤクザが民同会だ。華族→政友会→民同会。これが拳銃を運ぶルート…道筋だ」


「よくわかんねえが、華族は拳銃をどうやって手に入れるんだ?」

「華族と拳銃を結ぶもの、それは『華族軍人』だ」

「華族軍人?」


(たとえば、西恩寺中尉のような)





 侯爵は、公爵というほぼ天皇の血族に次ぐ爵位である。

 明治維新の多大な功績でもなければ下賜されない。

 西恩寺侯爵の屋敷もまた、ヨーロッパ貴族の城のように広大で豪華だ。


 西恩寺勝成は次男で、自ら進んで陸軍に入隊した。

 それが家のためになると信じたからだ。

 だが、いまその信念がぐらついている。


「ねえ。わたくしたちはいつまでこの関係を続けるの?」


 信念をぐらつかせた元凶が、広すぎるベッドの上に寝そべったまま訊く。

 シャツのボタンを留めながら西恩寺が答える。


「不満なら、いつやめてもいいんだがね」


 理想の答えとはほど遠い。

 女は拗ねた声で、男を責める。


「わたくしが邪魔になったのね?」

「……」

「知っているわ。あなた、権俵家の娘と縁談の話があるのでしょう?」

「…きみには関係ない」


 西洋から取り寄せた絹のネグリジェを脱いで、女はガウンに袖を通す。


「まだ女学生だというじゃない。二十も離れた娘の肉体を貪りたいの?気持ちの悪い」

「…下劣なことを言うな。それに、ガウンじゃないだろう。きみはここに来るときに着てきたドレスに着替えて、できるだけ速やかにこの部屋を出て行くべきだ」

「……まるで、娼婦のような扱いね」

「もう、ここには来ないでくれ」

「寝室には、ということ?ではたまにディナーくらい…」

「この屋敷にも、私の前にも、という意味だよ」

「……」

「清流院麗華さん」


 この女との付き合いは長い。

 彼女が清流院家に嫁いで半年後には、こういう関係になっていた。

 当時は「不倫」と言う名の媚薬に中毒を起こしていた。

 

 だが、この女は性悪だった。

 ギャンブル狂だった。

 自己中心主義者だった。


(この女に関係をバラすと脅されて、私は陸軍兵器局から拳銃を横領し民同会の連中に渡してしまった。このことが露見すれば、陸軍での立場どころか西恩寺家の拭い難い汚点となるのに)


「わかったわ。もうあなたの前に現れることはなくってよ」

「……」

「来世で、会いましょう」


 着替えた女は、捨て台詞を残して広すぎる寝室をあとにした。




つづく


 

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