第36話 愛の代価
ティアナが森の魔法使いに言われた方法でレオンハルトの魔法を解いた日――ティアナの着替えを手伝ったイザベルから、胸に赤い刻印は浮き出ていなかったと、ジークベルトは聞いていたが――
僅かに胸元を捲ったティアナの、そこにジークベルトが手をかざすと、キラキラと銀色の輝きを放ち、拳ほどの大きさの刻印が浮かび上がり円を描く。
そのことに、ティアナに気づかれないように安堵の息を漏らす。
「これが――?」
ジークベルトから、森の魔法使いが取った代価が髪だけではなくもう一つあること――それが胸に刻まれた契約の刻印だと説明されたティアナは、鏡に映った自分の胸元で輝く刻印を、目を瞬かせて見つめる。
「ああ」
そう言って素早く手をどけたジークベルトは、顔を顰める。
「何が書かれているのかは、解読しないと分からないが。一つ確かなことは、この契約はレオンハルト王子の魔法を解くことの代価として結ばれたものではない」
「そうなの?」
「ああ、もしそうならば、レオンハルト王子の魔法が解けた今、俺が手をかざさなくても赤く、ティアの体に浮かびあがっているはずだからだ」
「では、これは、何の契約なのかしら……?」
言いながら、ティアナはルードウィヒと対峙した時のことを思い出してみる。しかし、その時の記憶は霞みがかかったようにぼんやりとしていて、よく思い出すことができなかった。
確か……
『代価は――と――で』
やはり、その部分の記憶があいまいで、眉根を寄せて、額に手を当てる。
「とにかく、その契約がなんなのか、調べるために俺もビュ=レメンについていく」
「えっ?」
「何かあった時のために、森の魔法使いが近くにいる土地にいた方がいいと思う。だから、国に帰りたい気持ちは分かるが、もう少し、状況がはっきりするまでは、王子の指示に従うのが最善だ」
話し合った結果、イーザ国に帰るのを見送り、レオンハルトの用意した馬車に揺られて、ティアナとジークベルトとイザベルはドルデスハンテ国・首都ビュ=レメンを目指すこととなる――
これにて、完結です!
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この作品は、『ビュ=レメンの舞踏会』シリーズ第1弾ということで
物語の序章のようなカンジになっています。
ティアナの冒険はまだまだ続きます! レオンハルトとの恋もこれから…
シリーズ第2弾をお楽しみに!!