放課後の特訓
「だーかーらー……ここはこうして……聞いてる?」
秋の手が俺の肩にトンっと、優しく置かれた。それだけで、びっくりするもんだから、そうとう深く寝ていたのだろう。
「……ぁ? あ! ご、ごめん! つい!」
俺は勢いで謝り、そのまま土下座を披露した。我ながいい出来だったと思う。それを見た秋は、疲労が溜まったのかため息を一つ、ついていた。
「流石だね。冬さんに断られる素質はあるよ」
「そーなんだよ! 断られた瞬間、あ終わった……だよ!」
実は夏休み中に雪咲冬さん(ゆきさきふゆ)に、勉強を教えてほしいとラインでお願いしていた。が、返ってきた返事は「暑苦しいから無理」らしい。
「そんなに!? ねぇそんなに!?」
「わかってるよ……なんかいも聞いてたんだから……」
秋は再度ため息をついた。秋の目線は俺から、城の要塞のように積み上げられた宿題の山に移った。
「……夏くん」
「……? どうした?」
俺は嫌な予感がした。ここで秋が「諦めよう」なんて言うものなら、不登校になったほうがマシだ。
「……四季さんでも呼ぶ?」
「四季……さん?」
「ほら、学級委員長の。あの人、図書委員もやってるんだよね」
「あー! そういえば、秋、図書委員だもんな!」
そういうわけで、秋が四季さんの携帯に電話した。ぼそぼそと会話が続いていたのを聞いていた。内容はわからない。
秋が電話を切って、こっちに向かってくる。その目はどこか、一安心したような目だ。
「四季さん、なんて……?」
「駅前のファミレスで待ち合わせらしいよ」
「おー! それじゃあ、早く行こうぜ!」
「ただ一つ問題が……」
秋が気まずそうな雰囲気を醸し出す。なにか不都合でもあったのか、もじもじしている。
「なんだー!」
「……ファミレス代は奢れ、とのこと」
「……」
俺はバイトをしていない。自由こそが正義だと思っているからだ! 秋もテニス部で忙しいらしい。今日はたまたま休みだったらしいが。
「腹はくくるしかない! 行こう!」
そして、俺は秋の腕を掴み、廊下へ出るのだった。
いつの間にか、太陽は斜め45度に差し掛かり、ビルに映る色が赤くなっていく時間帯だった。
それにも関わらず、来てくれることに感謝する。どうせ、ファミレスのご飯やスイーツが目的だとは思うが。
「いらっしゃいませー」
そう店員が言う。当たり前のことだ。何も変哲無ことはない。ただ、今日が終わればその挨拶もしなければならない可能性も出てきた。




