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小閑 3

 宿屋で目が覚めた。

メゾン・クローズに行こうか深刻に迷った。

換金所で大金を手に入れたのと、連日屋敷に招かれたからだ。

何も遊び心で行ったわけではないが、事情を知らない人から見ればヨシローは豪遊してると勘違いされてるわけだ。

どこで個人の事情が知られるかわからないものだ。


ため息が出た。にんにく臭い。深刻に悩んだ。

ヨシローはテレーズの言っていた修道女に会いに行くことを思い出した。

昨日の鉄柵の向こう側の女性にも言い訳が立つ。


 そう決めて、ブロッセルの西を目指した。

森を少し歩いたところで泉を発見した。修道女は見当たらない。

泉をぐるっと囲むように少し開けていたが、一本だけ木が泉の側に立っていた。


その木に隠れてお祈りを捧げている修道女を見つけた。

ヨシローは泉を回り込んで彼女に近づいた。

「あの、修道女の方!」

遠いところからヨシローが声をかけた。

修道女は祈りを辞めなかった。


ヨシローはゆっくり近づいたところで修道女の祈りが終わりヨシローの方を向いて立ち上がった。

「マダムテレーズにお願いされて貴女のところまで参りました。ヨシローといいます」


「わざわざありがとうございます。私は大丈夫ですよ」

修道女は丁寧に受けこたえた。

名をアグネスといった。


特に何も話さないので

「マダムテレーズに気にかけるよう言われてます。何かあったなら相談してください」

ヨシローはお辞儀だけしてその場を去った。


ブロッセルに戻るとリアーヌが手を振っていた。

「こんにちは。ヨシローさん」

リアーヌは笑顔でヨシローに歩み寄った。


ヨシローは一歩退がり

「昨晩、にんにく料理を食べたので近づかれるのは、ちょっと困ります」

「私のためにですか?光栄です」

リアーヌは気にしないと言ってくれた。

「違うんです。すいません」


「私たちにも月に一日休みがあるのです。休日は外出を許可されているので、運命を感じますわ」

香り高い紅茶を間に置いて落ち着いて座れるティーサロンで会話することになった。

事情を話すとリアーヌは笑った。

「確かにそうね。見た目優しそうで目立たないのに羽振りよく豪遊してるなんてギャップがたまりませんわ」

「本当に自分の行動が恥ずかしいです」

ヨシローは萎縮してしまって町に居づらい。


「ブロッセルって平和でしょ?先日の説教臭い殿方も稀にいるけど、治安はいいし私たちの仕事を知っていても、太陽の下を堂々と歩けるのよ」

「そうですね」

「ブロッセルはね税金のほとんどがメゾン・クローズから出てるの。メゾン・クローズありきの町なのよ。もちろん、辺境伯がパトロンに就いてるのも大きいわ。他にも多くの貴族の殿方からご贔屓してもらってるの」

メゾン・クローズのおかげで税金が少なくて済むなら町の人たちは無下にはできないだろう。


「マリアベルが言ってたわ。とても気さくな殿方だって。美人て微笑んでもやっぱり美人だわ」

リアーヌとヨシローは頷いた。


「私もね冒険者してたのよ。剣士としてね。すぐにダメだって痛感したわ」

「そういえば、馬車で剣を握ってましたね」


「私の場合は、パーティに恵まれていなかったわ。男だらけのパーティに女の私が一人。魔獣討伐よりも男たちの方が怖かったな。視線も手の弄り方も。怖くなって冒険どころじゃなくなったわ。別のパーティに移籍しても同じ運命だったわ。移籍を繰り返して遂に私ね、強姦されたの。それ以来、対人関係で荒っぽい男に会うと恐怖に陥っちゃうの。追い剥ぎに襲われた時もホントは怖くて吐きそうだったわ」

リアーヌの肩が少し震えた。


「でも、仲間を守れるのは剣を握れる私だけだったからホントにあの時は辛かったわ。私一人犠牲になれば仲間が助かるなんて思った矢先にヨシローさん、貴方が現れたのよ。素敵だったわ」

「そんな、助けてくれって頼まれたからですよ.それよりもこの仕事して辛くないですか?」


「優しいのね。そうね私にとってのリハビリかな。ひとはヒトなしでは生きて行けない。私のたどり着いた答えよ」


 そのあと、ヨシローはリアーヌに頼まれて洋装店で帽子の試着に付き合わされた。

過去に剣を握っていたなんて思えないほどグラマラスな容姿だが、とても情熱的で綺麗な顔立ちをしていた。

帽子をいくつも試着してはヨシローの名を呼んだ。


「すいません。僕はセンスがないのは自覚しているのですが」

リアーヌはいくつか帽子以外も購入していた。その中にヨシローの選んだ服も一着入っていた。悪いと思ってお金をだそうとしたが断られたが、折半することで合意してもらえた。


「いいのよ。私じゃ選ばないデザインだったから逆に新鮮だし、そう落ち込むほどのセンスじゃないと思うわ。お屋敷に戻ったらみんなの反応が楽しみだわ」

リアーヌは満足そうに言った。


 リアーヌを送り届けて宿屋に戻るとベッドにダイブした。疲れたわけではないが少しまどろみの中に溶けこんだ。


翌朝には、メゾン・クローズの馬車がヨシローを迎えに上がっていた。

ヨシローは慌てて起き上がり困惑した。変な噂が立ってしまっているのだ。弁解できるだろうか。

とりあえず、口臭を確認した。大丈夫そうだ。




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