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小閑 1

 リアーヌをメゾン・クローズに送り届けると、宿屋のベッドに身体を預けた。


翌日、換金所に出向いた。幽霊船で貰った金貨を一枚だけ換金した。見た目古銭にも見えるのであまり期待はしなかったが、換金所の担当者が慌てていた。

「冒険者って一攫千金を夢見てるからいいですよね」

皮肉が混じったのか、ヨシローが今までに持ったこともないほどの重さの現地通貨を手に入れた。


換金所を出ると馬車が一台ヨシローを通り越して止まった。御者が手招きしてヨシローに合図をくれた。

ヨシローは馬車を素通りしようとすると、テレーズが扇子で顔の下半分を隠していた。

目が合ってしまったので馬車に乗ってしまった。

テレーズの攻撃的ではないが逆らいにくい目力に屈してしまった。


「リアーヌの帰りが遅かったが、なんにもなかったんだってね」

テレーズの先制攻撃のような言葉に

「何もありません」

毅然とした態度でいようとしたが見透かされた感じがして言葉で対等な会話ができないのを悟った。


「まあいいさ。ゆっくり選んでくれて」

テレーズはヨシローにどうしても娼館を利用して欲しいようだ。


「外出は珍しいのですか?」

話題を変えたくてどうでもいいことをきいた。

「そうだねえ。うちの子たちは王侯貴族様方にも贔屓してもらってるからね。政治でも他国の戦争でも話しのタネになることは仕入れとかなきゃいけないんでね。私はサロンに通って識者と会話したり、聞き耳を立てたりしてるのさ」

テレーズは笑みを込めて話しをしてくれた。


「僕はどこに向かうのですか?」

「あんたが助けてくれたのはリアーヌだけじゃないんだよ。ちょっと顔貸してくんないかな。暇なんでしょ」

馬車は周囲の通行人の眼差しを受けながらメゾン・クローズへと向かった。


「マリアベルと会ってくれないか?彼女は聡明でいい子だよ」

「…わかりました。会うだけでしたら」

「抱いてやんなよ」

ヨシローは馬車から飛び降りようと思ったが、諦めた。暇なところを当てられたからだ。


 馬車は屋敷の裏手に周り、屋敷の豪華な裏門から中に招待された。

「悪いね。営業中なんで表からは遠慮してもらったよ」

テレーズの後を歩きながら恐縮して、前日の部屋に案内された。


「どんな子がタイプだい?」

テレーズは問い詰める。

「遊びにきたわけじゃないんです」

ヨシローはこのあと「本当に」と小さな声で言った。


「マリアベルは接待中なんでね。もう少し待ってな。なかなかの美貌だよ。紳士はみなあの子に恋をする」

ヨシローは我慢の時間を過ごす羽目になった。


「話しを変えて質問していいですか?」

ヨシローは頑張って話しを変えた。

「なんだい?あたしか?あんたのことは気に入ってるからね。相手してもいいよ」

テレーズは立場的に年齢はかなり上なのだろうが、美魔女である。ヨシローは話しを変えるのに失敗した。しかし、諦めなかった。


「諜報活動もしている。でしたね。実は清流の籠手というものを探しています。聞いたことはありますか?」

テレーズはニヤリと笑い

「なんだいそれ?魔道具の類いだね」

「そんなとこです」

「調べておくよ」

テレーズは眼鏡を掛け直しメモを取った。いくつか当てがあるのだろうか。


「あと、追い剥ぎにあった件ですが」

ヨシローは不思議に思うことがあった。以前、追い剥ぎと遭遇したあと、自警団に通報した。今回はその手続きは一切やっていない。

テレーズも誰も騒がない。


「よくあるんだよ。あたしらの仕事は辺境伯主催のパーティに女の子を送ることだけど、それをよく思わない連中がいる。いつもは送り迎えの護衛が付くんだけどね。やられたか、今回経費をケチったか。どちらかだろうね」

「敵がいるんですか?」

ヨシローの言葉にテレーズは大笑いした。


「あんた本当にウブだね。あたしらは春を売ってるんだよ。奥方連中からしたらたまったもんじゃあないだろうね。あたしらはこんなことでいちいち大事にしないさ。得意先だからね」

笑い声に包まれた中、扉がノックされた。

女給よりマリアベルの支度が整ったと報告が入った。


 ヨシローにはまだ早い世界なのかもしれない。深くは考えないでおこう。マリアベルのお礼が終わったら帰ろう。そういえば、この町は何が美味しいのだろうと楽しい方へ考えを持っていった。


「失礼します」

どうぞと返事があったので、おずおずと中に入った。

ヨシローの目の前にはガラス細工でできたような女性がいた。

髪が光で煌めいて、透き通った肌が繊細で儚げな感じだった。


「マリアベルです。先日は助けていただきありがとうございます」

見惚れてしまっていたヨシローは我に戻るのに時間を要した。

「ご無事でよかったです。それでは失礼します」

ヨシローは瞬きできないまま部屋を出ようとした。

クスクスとマリアベルの抑えた笑い声が聞こえた。


「失礼しました。噂通りの方だったので」

小さく咳払いをして笑いを堪えたマリアベルが続けて

「よろしければ、わたくしともおしゃべりしていただけないかしら?」

ヨシローはギクシャクした動きでその場にあった椅子に足を揃えて腰掛けた。

からくり人形のような動きにマリアベルは終始笑っていた。



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