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メゾン・クローズ

 血生臭い匂いが立ちこめた。

ヨシローは足を止めて姿を現すのを待った。

「お久しぶりです。ヨシロー様」


天から降り立ったのは堕天使のフィムだった。

大きく広げた漆黒の翼は地に降り立つのと同時に小さく折りたたみ片膝をついて地に臥した。


「流石でございます。紅竜の真眼を難なく手に入れたのですね」

「フィムさん。僕は死にかけましたよ」

ご冗談を。とばかりにフィムは笑った。


「ヨシロー様はこれから清流の籠手を求めに行かれるのですね?」

ヨシローは言葉に詰まり固まった。

「清流の籠手はどこですか?」

「ヨシロー様のこれから目指す地にございます」


目指すも何も目指してるわけではなかった。それよりもフィムの血生臭い匂いが気になる。

「フィムさん。大丈夫ですか?」


羽から血が滴り落ちるのに気付くと

「ご心配なく。わたくしは問題ありません。これは返り血でございます」


少しの間会話したがフィムはまた天に昇って行った。全てに答えると言いながら、肝心な答えをはぐらかされているようで心がモヤっとした。


 町に着いた。町の名はブロッセル。森に囲まれてはいるが割と綺麗な町だ。


町の関所に着くと通行手形と関銭という通行料がいる。通行手形とは身分証明だ。もちろんサンテールの身分証で問題はない。関銭は町ごとに違うが基本安い。

サンテールでのエリーナとの出会いは旅を優位にさせてくれた。


「観光かい?」

「はい」

関所の関守は、ニタニタと笑いながら通してくれた。

ヨシローは田舎者に見られたからかなと思い、宿を探した。


宿屋では女将に、お若いのに。そんな遠くから来たの。元気ねえ。などヨシローを活発な青年に例えて歓迎してくれた。


なんだか、もてなし方が仰々しくて落ち着かなかった。部屋で寝転がり「清流の籠手」の在処を考えた。

窓から見える屋敷は貴族のものでないにしてもかなり立派に見えた。

余程の権力者が住んでいるのだろう。ぼんやり考えていると宿の女将さんが扉をノックしてきた。


「お兄さん、帯剣してたよねえ。ちょいと助けて欲しいんだけどさ」

理由を聞くや否や、ヨシローは宿を出た。

この町の馬車が追い剥ぎに襲われているそうだ。

すぐ近くらしく加勢して貰いたいそうだ。


ヨシローは馬車と追い剥ぎには何か因縁めいたものを感じていた。


 馬車は猛烈な勢いでこちらへ向かって走っていた。それを追いかけるように二頭の馬が追随していた。

馬車がヨシローを追い越していくと、赤いドレスを着た女性が叫んだ。

「君は!?」

「ブロッセルの町で馬車を守れと頼まれました」

言葉の半分以上は聞こえなかったかもしれない。女性は剣を握っていた。馬車の屋根には何本もの矢が刺さっていた。


 行雲流水は追い剥ぎを二名確認した。目の前にいる二頭の馬で間違いない。

「水撃」

回転を加え威力を増した水弾の連撃が命中した。

ヨシローを前にして馬ごと追い剥ぎたちを倒した。


馬はなんとか立ち上がり手綱を失い彷徨うようにウロウロと落ち着きなくその場で闊歩した。

追い剥ぎは立ち上がらなかった。


 ヨシローは町に戻ると先程の馬車があった。

赤いドレスの女性が剣を捨て、ヨシローのもとに駆け寄ってきた。

「すまん。旅の人。追い剥ぎは?」

「倒しました。お怪我は?」

赤いドレスの女性は首を振ってお礼した。


あらためて、女性は淑女らしくお辞儀をし

「ありがとうございます。私の名はリアーヌです。先程の追い剥ぎから助けていただいたお礼がしたいので、マダムテレーズにお会いください」


ヨシローは断り切れずにリアーヌについて行った。

「貴方、押しに弱いのね」

リアーヌは苦笑した。


「ここよ。メゾン・クローズへようこそ。マダムにお目通りをお願いしてくるので、お待ちいただいてよろしいかしら」

宿屋の窓から見えた立派な屋敷だった。

「帰っちゃ嫌よ」

リアーヌは最初に言葉を交わした時と比べて、色気のある淑女のような立ち居振る舞いで屋敷に入って行った。


屋敷の裏手に回るように襲われた馬車が通り過ぎていった。

間近で見上げると本当に立派な屋敷だった。やはり貴族の屋敷なのだろうか。


 扉が開いて、女給が一礼をして中にどうぞと招き入れてくれた。


屋敷の中は広くびっしりと絨毯が敷き詰められていた。天井は高くガラス細工の入った照明がロウソクの明かりでキラキラて揺らめいていた。壁には絵画と明かりが等間隔で並んでいて少しも暗いところがなかった。

奥の部屋に通されると女性がいた。マダムテレーズだろう。側にリアーヌもいてくれた。


 メゾン・クローズ。閉ざされた家というには相応しくない豪華な屋敷だった。

「ほう。ずいぶんと若いね。うちの子たちを助けてくれて礼を言うよ。ありがとう」

テレーズはキセルを吹かし、じっとヨシローを見た。


ゴージャスな感じのテレーズを前に、お構いなくといった感じでお辞儀した。


「で、遊んでいくんだろ?どの子がいい。まけとくよ。うちの子たちはみな礼も作法も教育は行き届いてる。安心しな。部屋の調度品もいいやつだ。ベッドは柔らかいやつがいいか、すごく弾むから楽しめる仕様になってる。どうだ」

テレーズの言葉にヨシローは戸惑った。


「なんのことですか?」

「何って、ここは娼館だよ」

テレーズはキセルを置いて、眼鏡を掛け直しヨシローが何も知らずにここに来たのを見抜いた。

ヨシローは顔を赤くして後退りした。

テレーズは大笑いした。






 



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