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更に戦う

 お互いに譲れなかった。双方傷だらけになりながらも戦うことを諦めなかった。

「突くことしか脳がないのか。小娘」

「あなたも毒はないのですね。安心しました」

「減らず口を」


ここまで戦いが長引くと不眠不休で戦えるラードンに分があるかに見えたが、リタの闘争心はまだ衰えてない。


「回天!」

溜めの作り方もその威力も衰えず正確にラードンを襲う。ラードンも受けて立つ。躱わすにしても自らを肉の壁にしても黄金の林檎には近寄らせない。


「こしゃくな」

ラードンの身が遂にリタに削られた。ピット器官は確かにリタの迷いのない魔力の流れを感知していた。バランスを崩してしまうほど大きく削られてしまったが負けたわけではない。闘志も消えていない。


 リタの手に大きな感触があった。硬い鱗を貫き肉を抉る感覚をその剣を通して伝わった。衝撃の反動はビリビリとリタの身体を駆け巡るように走り抜けた。もちろんリタは怯まない。持てる力も矜持も押し通した。


お互い満身創痍になりながらも次の攻撃の構えを準備した。

リタが間合いを詰め溜めを作った。ラードンは隙を作るように動いた。

「ちっ。油断したつもりはなかったんだがな」

先に戦意を喪失したのはラードンだった。


 黄金の林檎に少しヒビが入っていた。せめぎ合う二者の衝撃波が弾かれ林檎を掠めたそうだ。


リタは一気に脱力して深く呼吸した。

「やりました。わたしの勝ちですね」

「小娘の分際で。運が良かっただけだ」

ラードンがヒビの具合を見て黄金の林檎の価値が下がったことを確信した。


「ごめんなさい。意地っ張りで」

リタも剣を納め、黄金の林檎にキズが入っているのを見せてもらった。

「ふん、大した意地っ張りだな。まあ、この世に一つしかないもんじゃあないからな。オレの役目が終わったってことだ」


「では、これ以上戦う意味はないのですね?」

「…そうだな」

ラードンはまだやれるはずだが、リタの安堵した顔を見てそれは違うなと思った。


「ラードン様。お身体は」

「小娘。お前だってボロボロじゃねえか。オレは破壊と再生を司るんだぜ。ほっときゃ治る」

ラードンのもっとも深刻なダメージを受けた身体の部位が崩れ落ちるようにちぎれた。

「再生する。気にするな」


 黄金の林檎は砕かれた。ラードンの手伝いもあったがリタが何度も斬りつけた。

「黄金って斬れるんですね」

「黄金の林檎としての価値を失ったからだ。間違っても他で試すなよ」


しらけた感じでラードンはトグロを巻いて寝たふりをした。

「行け。このまま進めばこの空間の歪みから出れる。出た先は何処だかわかんねえがな」

リタは頷いて一礼して立ち去った。


「しかと見届けたぞ。リタ嬢。よくやった」

別れを告げた場所でデュラハンは仁王立ちをしたまま事の顛末を確認した。そして立ち去った。


 アドレナリンは全開に放出されたままだった。

「リベンジしますよ。喜んで」

リタの落とされた場所は何処か見たことがある風景だった。アクリテルガルデ。この言葉と彼らの姿が思い浮かんだ。


コッフ、コッフ。ケモノの息遣いをしたウルスフェロスがいた。突然現れたリタに警戒心を持ったが、すぐにそれが餌だと認識した。

あれは美味くはないが、人間の血肉は高い栄養価がある。抵抗はするがモロい雑食動物だという見解だ。

ヨダレの止まらなくなっただらしない口元を剥きだしにウルスフェロスは吠えた。


「回天!」

リタは待ったなしで踏み込んだ。

硬い。仕切り直しだ。

リタは距離をとり果敢に攻める。


ウルスフェロスは気付いた。あの細い剣でチクチクされると痛い。あの小柄でどこから力が湧いてくるのだ。少し前に大きな男が大剣を振り回して挑んできたが、それとは違う怖さと痛さを感じる。どちらかというとこの子供の攻撃の方が痛い。魔力をのせているからか。

フンス。と息巻いたが少しの警戒心が攻撃的な本能を邪魔してくる。リタのことが気に入らない。


力でねじ伏せればいいだろう。ウルスフェロスはいつものように考えていた。

今あるだけの力を惜しまない。リタは反復するように最高の一撃を繰り出せる、溜め、バネ、しなり、力の入れ方の一連の動作を確実に行い完成度の高い技へと昇華させた。


 この繰り返しが勝敗を決した。無駄に力任せに攻撃するウルスフェロスは隙が生じた。

常に一撃必殺を繰り出すリタは、無意識に自分の間合いに引き込み最高のダメージを与え続けた。


ウルスフェロスの力尽きた巨躯が遂に倒れた。

今更ながら痛みを感じてきたリタはこの熊の魔獣がアクリテルガルデを襲ったものと間違いないと悟った。


 燃えた馬車の残骸があったところまでリタは走った。燃えかすが残る、あの日最後を過ごした場所には死体はなかった。ウルスフェロスがおおかた食べ尽くしたのだろう。髪の毛一本残さず他の小型の魔獣が、ケモノが食事にありつくように骨まで貪ったに違いない。


アクリテルガルデの紋章の入った小さなロケットを拾った。これくらいしか形見になるものはなかったが、大事にしまった。


「クマは群れないと思ってましたけど…」

リタはまだ油断できない状況下にいた。

先程の仇よりかは小さいながらウルスフェロスの匂いを感知した。

何頭いるのだろうか。二、三頭。子供だろう。襲ってくる気配は感じる。

望むところだ。


(見ててください。繋いでくれた命は無駄にはしません)

リタは襲いかかるウルスフェロスを迎撃した。








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