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黄金の林檎 2

 「KALLISTI」最も美しい女神に。という文字が刻まれた黄金の林檎は転がりながら、式に参列した全ての女性を魅了した。


式の参列者の中にいたヘーラ、パラス、ウェヌスの三名が名乗りを挙げた。我こそが一番美しいに値すると譲らない三人は揉み合いながら黄金の林檎を追いかけた。

確かに三人とも美しかった。甲乙付け難くそれぞれが美を兼ね備えていた。


転がった林檎はデメテルの足元につまづいて止まった。デメテルははっとして足を引っ込めた。

最初に林檎に辿り着いたのはパラスだった。

「貴女。何様のつもり」

パラスがくってかかる後をヘーラとウェヌスもやって来た。

「わたくし、興味ありませんの」

美しい髪がドレスからサラッと流れただけで宴にいた紳士はうっとりと髪の先から溢れる香りまで見惚れていた。

デメテルは扇子を広げ黄金の林檎から距離を空けた。


「忌々しい」

パラスの美しさと競うかのごとくデメテルの美しさは際立っていた。パラスは自分と肩を並べられるのが気に入らない。

しかし、今は黄金の林檎である。間違いなければ、最果ての園、ヘスペリスの林檎である。

この世界の神々の結婚式に贈られたとされる、実在する林檎である。この林檎園を管理しているのがヘスペリスと名乗るニンフだ。


ヘーラもウェヌスも林檎の価値を知っていた。


 挙式を中断されて困り果てた国王は提案した。

「この国にパリスという若い狩人がいる。この男は何も知らない。この男に選んでもらおう。公平に値する。よろしいかな」

慌てて提案したことだが、三人ともその提案にのった。


 宴は幕を閉じた。

パラスはこの時、呪いをかけた。美しいデメテルにだ。すべての老若男女がたった一瞬でもデメテルの高貴な美貌に見惚れていたのをパラスは許せなかった。


デメテルの艶やかな髪は恐ろしい蛇と化し、その姿を見たものを石と変える。心までも怪物にしようとした。

「今後、お前を美しいと見惚れるものはいない。その心さえも誰も振り向かすことはない」


デメテルは悲しみに明け暮れた。

大事にしてくれた二人の姉とも離れ、孤独になることを自ら選びストーンガーデンと揶揄される地に流れ着いた。


 宴の後、ヘーラは早速パリスに会いに行った。

「お前がわたしを美しいと選ぶなら、この森の支配者にしてやろう」

次に、パラスが来て

「お前の放つ矢は一隻の軍艦さえもいとも容易く撃ち沈める力を授けよう」

最後にウェヌスが

「お前が密かに心を寄せるものを与えよう。彼女はお前の子を孕み幸せな家庭を築くことだろう」


三人は特権を与えて是が非でも自分を選ばせようと策を講じた。

しかし、パリスの選んだ望みは愛する彼女と結ばれることだった。


ヘーラとパラスは激怒した。

だが、約束通りパリスは愛する彼女を手に入れ国に連れ帰った。

これに激怒したのは彼女の夫である敵国の王だった。


十年に及ぶ戦争は互いに疲弊し、凄惨な状況まで堕ちていった。何故戦いは続くのか。何がために戦うのか。根本の部分も忘れるほど酷い有り様だった。


 ここまで話しをしてデメテルは言葉に詰まった。

涙を流しているのだろう。

リタは固唾を呑んで聞き入った。


「神々の戯れとは、いつの世も身勝手なものよ」

デュラハンが合いの手を入れた。


「戦争がこの先どうなったかは知らないわ。わたくしには美しさを競う意味がわかりませんの。だって御三方とも美しい方々でしたのよ。本当に。どの方が一番だなんて決めれないわ」

デメテルは花を見つめて、どの花も一番綺麗に咲いている。ひとつを選ばなければならないことはないと憐れんでいた。


「わたしも選べません」

リタの感受性にも心に刺さるものがあったようで泣きそうになっていた。


「リタさん。わたくしは話しの中にあったように見た目はメデューサという怪物です。夜になると怪物に心を喰われてしまいそうになるくらい衝動に駆られ苦しんでいます」

デメテルの言葉にリタは首を振った。

「デメテル様は心の美しい方です。そのお姿も美しいと思います。わたしなら大丈夫です」


リタは目隠しを取ろうとした。

すかさずデュラハンが止めた。

「リタ嬢。貴女の心意気には感服しました。だがそれは許さん」

デュラハンは目隠しがずれてないか、結び目は緩んでないかを確認した。


「話しの最後をしますね。わたくしにプロポーズをしてくれた方とはご縁がなかったことになりました。仕方ないことですわね。彼を石に変えてしまいますもの。怪物となったわたくしの肌に触れることすら躊躇うでしょうね。ですが、彼はわたくしに愛の証と言って黄金の林檎をくれましたの。なんというオチでしょうね。奪い合った黄金の林檎はあの御三方の誰かの手の中にではなくわたくしの手にあるのです。美を競うはずが醜い争いになっていたのですわ」


「ふっふっふ」

デュラハンが笑った。本当に滑稽な話だった。


「リタさん。あなたにお願いがあるの。黄金の林檎を壊してちょうだい。わたくし、過去と決別するの」

「デメテル様?」

「リタ嬢。林檎はこの庭園にあるが我々では手が出せん場所にある。すまんな」


リタはじっと二人の視線を浴びて答えを出した。

「わかりました」





 



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