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アクリテルガルデ 5

「子犬。お前は荷馬車にいろ。ゴードンは捨ておいていい。危なくなったら逃げろ」

グラフはリタを残してホーニーを追いかけた。


野盗の群れがどれくらいいるかわからない。ヴィオラが情婦を仕留めるまでは時間は稼がねばならない。


 金の匂いのする話しは町で何かしら動かないと手に入らない。野盗という立場上、町には入れない。普段は素性を隠して町の裏路地で客を引いたりして日銭を稼いでいた。たまたまゴードンに声を掛けられると、ベラベラと粉の話しをしだした。たまに金の匂いが向こうからやってくる。上手いこと言って手下を御者に見立てゴードンに紹介した。傭兵はなしには説得できなかったが最小人数とお荷物になるだろう獣人の子供を雇った。

数で押せばアクリテルガルデだろうとなんとかなると思った。


「そう上手くはいかないにゃあ」

「なんの話しだ?」

お互い斬り結ぶのに飽きた。そろそろ決着をつけたかった。


「毒か」

いくつもの野盗の死体を辿った先にホーニーが息も絶え絶えにやられていた。

「グラフさん。しくった」

矢で射抜かれたホーニーが木にもたれながら動けないでいた。剣の裂傷も酷かった。

「悪い。俺は行くぞ」

グラフは小さく手を振るホーニーを置いて、野盗を追った。


「毒だよ」

情婦がナイフから滴るヴィオラの血を見て言った。

「そうか。まいったな」

ヴィオラは酒瓶を取り出したかと思うと焚き火の火を借り、即席の火炎瓶を荷馬車に放り投げた。

「荷馬車が燃え尽きる前に取りに行ったらどうだ?私は邪魔するがな」

ヴィオラは毅然として情婦に立ち塞がった。


「やるにゃあ。これじゃあやる意味がないにゃ」

情婦が焦りを感じた。

「リタ!来い。私の目になれ」

リタは風を纏ったかのような勢いで情婦に突進した。

わけがわからず情婦が本能的にナイフを構えたため、衝撃で後退したが、ヴィオラの前にリタが構えていた。


ヴィオラの目が霞む。まだぼやけているうちに決着をつけなければならない。リタがどこまで動けるかも未知数だ。


 グラフは豪快に死体の山を築きながら野盗の群れを駆逐していた。

「おかしい。弓使いがいない」

夜の闇の中で一番警戒しなければならない毒の弓使いがいない。全員倒してしまったか。


いや、状況がおかしい。ここにも、あそこにも木の皮が捲れている。捲れた木の幹には二条の筋が見受けられた。クマハギというやつだ。食料に難儀している熊が木の形成層を食べた跡だ。空腹の熊は危険だ。グラフは熊の縄張りに入ってしまったのだ。野盗も知らずかどうか縄張りに入ってしまったのだろう。


 弓使いは熊の襲撃に矢を射たが、熊の太い毛や分厚い皮に防がれかえって怒らせてしまったようだ。熊の嗅覚は犬以上とされる。そして人並みの視力だが暗視能力は高く、暗闇の中でも見えるのだ。その巨躯からは想像できないが木登りもできる。実際に木の実を食べに木に登るし、枝を利用して熊棚という巣をつくる。

木の上の弓使いは逃げ場を失い、熊に襲われた。

グラフの知らないところで闇に紛れた野盗が襲われていた。


「おいおい。毒だぞ」

情婦は横目で火が廻った荷馬車を見て半ば諦めた。

右に左に躱わすが、躱したところをリタが突いてくるのでヴィオラの射程距離内に押し戻される。

「犬っころめが、ちょこまかといいポジション取りをしてくる」

「どうした?キャラが崩壊してるぞ」

ヴィオラの息があがっていた。動きで血の巡りが良くなり毒の回りが早い。

「チッ。うるさいにゃあ」


(こいつ、センスがある)

情婦が弱ったヴィオラを安易に捌けないのは、視界の切れ端から小さく潜り込んでくるリタの攻撃に手を焼いているからだ。


「ぐうぅっ!」

空からグラフが落ちて来た。衝撃音で三人の動きが止まった。

「ウルスフェロス?逃げろ!」

グラフが折られた大剣を自分が飛んできた闇へ投げつけた。


「?」

リタがウルスフェロスという言葉に疑問を持ち、一瞬集中力が切れた。

「この辺りを縄張りとする魔獣だにゃ。おバカさん」

情婦がリタの油断を見逃さなかった。ナイフの切っ先がリタに届く前にヴィオラの剣が情婦の肘辺りから切断した。そのまま返すように胴に向けて一閃放ったがこれは躱された。


「クソっ!商売あがったりだよ」

粉は燃え、腕を斬り落とされ、野盗はほぼ全滅。情婦は汚い言葉を吐きながら逃げていればと後悔した。


 コッフ、コッフ。独特な息遣いをしながらウルスフェロスという魔獣は姿を現した。

見た目そのものは熊に違いなかった。

辺りを見渡し状況を確認するようにウルスフェロスは落ち着いていた。しかし空腹でお腹の音が鳴った。


 リタは集中力を取り戻し、情婦に迫った。今度は戦線離脱を頭によぎらせた情婦が油断した。

情婦の両脚の腱を一閃した。足首から鮮血が吹き出し情婦は倒れた。

「チクショぉぉー!」

情婦の断末魔の叫びが響き渡った。


ヴィオラはすかさず情婦にトドメを刺し、手にしたナイフを奪い、毒のついた方をリタに託した。

「リタ。やれるか?」

ウルスフェロスに突き刺せばいい。毒が効けば生存率は上がる。

ヴィオラはもう視力が回復しない。毒は遅効性で致死量を受けた。もう戦えない。身体が動くのを拒む。

「頑張ります」

リタはナイフを握りしめた。


 ウルスフェロスと対峙しているのはグラフだ。先に受けた胸から脇腹へ抜けた爪の斬撃が痛々しく血をこぼしていた。

グラフも命が尽きようとしていた。


「リタ。少しの間だったが楽しかったよ。決して心を闇に堕とすな。思い人に会えるといいな。行け!」

ヴィオラの声にリタは走った。


 










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