アクリテルガルデ 1
傭兵。金銭で契約された武装集団。組織名アクリテルガルデはグラフを小隊長とする。もとは山岳地帯に囲まれた農業、産業の貧しい土地柄から自然と生まれた武力をウリとした集団である。彼らを命の輸出と呼ぶ者もいる。
国家やそれに次ぐ権力者が自国民や自衛力を損なわずに金の力で雇った独立した軍隊といったところだろう。これにより自国の経済発展を滞りなく進めながら戦争ができたり、ダメージを最小限に抑えた貿易などができる。しかし、反面現地での略奪や犯罪暴力などの振る舞いや寝返りも危惧される。
アクリテルガルデは傭兵集団の中でも勇敢と忠実を守り長い歴史の中で王国御用達の警護や、直接の利害関係のない大きな戦争、大商会の護衛任務など信用と実績を積み重ねた集団である。
「我々は常に何処かしらの雇い主の任に当たっていてね。今回の依頼主は羽振が悪くて少人数での護衛を依頼してきたのだが、まだ出発の算段も決まってなくて困っていたんだよ。そうなると我々も財布は心細くなるし、士気も下がる。ちょっとうんざりしていたんだよね」
ヴィオラが言うには、護衛期間の報酬は約束されているが、港町での滞在期間の日当は契約に入ってないのでもめているらしい。
リタはよくわかってないがウンウンと頷く。
アクリテルガルデの多くの傭兵は何処ぞの国の戦争に参加したり、何処かの大司教の式典の警護に当たっていたりと忙しいらしく、グラフははずれクジを押し付けられたと愚痴をこぼしていたそうだ。
夜になると、グラフは宿屋にたどり着いた。
「ヴィオラ。出発は明日に決まったぞ。寝てたか?」
扉をノックもせずに勢いよく開け放って言った。
「父上。一応、私も女ですので、一応」
ヴィオラはまだ起きていた。空になった酒瓶が二本転がっていた。
「グラフさんと呼べ。あの子犬はどうした?帰ったか」
「リタですよ。期待して待ちましょう」
「ん?」
「グラフさんがテストしろって言ったんですよ」
「ああ、そうか。なんのテストだ?」
やれやれといった感じでヴィオラが答えた。
「今夜中に何か一匹狩ってこいって命じました」
「それはいいな。よし、採用なら子犬の分の報酬も掛け合ってやろう」
「リタですよ」
「ただいま戻りました」
リタがノックして扉を少し開け顔だけ覗かせた。
「はいりたまえ。子犬、リタよ」
グラフが威厳ある声で言った。ヴィオラがニコニコしていた。
「どうした?狩りはダメか」
グラフの問いにヴィオラの顔が曇った。
「あの、血まみれで不衛生だと思って外に置いてきました」
リタの答えに二人は宿の外に走った。
「ふははは」
グラフは笑った。
「一角兎じゃないか。上手く喉に一突きだな。やるじゃないか」
ヴィオラが感嘆の声を上げた。口笛まで吹いた。
「ヒトを殺めたことはあるか?」
リタは首を振った。グラフの問いにヴィオラが小さく蹴りをいれた。
「よし、子犬は後衛と野営の見張りに従事しろ。ホーニーを叩き起こせ。こいつを換金してツケを払いに行かせろ。明日の出発までには間に合わせろ。急げ」
ヴィオラはやれやれといった感じでホーニーを起こしに行った。
出発の朝。馬車は二台。依頼主ともう一人女性が乗る箱型の馬車と荷物のみを載せた馬車にそれぞれ御者が付いていた。
アクリテルガルデはグラフ、ヴィオラ、ホーニーとリタが護衛の任に就く。
「やあ、噂に名高いアクリテルガルデに護衛を依頼できるなんて光栄だよ。私が依頼主のゴードンだ。高い報酬を払ってるんだ。よろしく頼むよ」
大商会長ゴードンと名乗る男の挨拶が終わった。
「少ねえよ。ケチんじゃねえよ」
ホーニーが聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。そしてヴィオラに蹴られた。
「ホーニーだ。基本オレとお前で野営の見張りを交代でする。まあ、頼むわ」
見た目と言葉遣いはイカれてるが、礼はわきまえたつもりだという。
「リタです。よろしくお願いします」
荷台の後ろでヴィオラとリタは座って話し合っていた。
「いい天気だな。このまま何事もなく依頼が終わることもあるからな」
「楽勝ですな。姐さん」
側を歩くホーニーが口を挟んだ。
「リタは気を抜くなよ。油断は生存率を下げる」




