リタ
「水撃」
ヨシローは自分の撃った水魔法の威力に驚いた。
「見事です」
サクランが目標にした障害物の破壊の程度を見て褒めてくれた。
これまで、ルイカの師事のもと水撃に回転の力を加える練習をしていた。回転力の影響により大きく螺旋を描き命中率が落ちてしまったが、真っ直ぐ命中するようになった。
「わたしは普通に渦を使ってだけど、回転の力って凄いのね」
ルイカは言った。リゲイアとじゃれ合いながら自分の当たり前が凄かったことに改めて照れた。
「本当にそれだけでいいのですか?」
サクランが心配した。財宝の山はまだ沢山あった。
「これだけでも換金すれば持ち運べないほどになると思います」
ヨシローが小さな袋に入るだけの金貨を詰め込んでいた。ルイカがこっそり一枚でも多くと思って金貨を袋にねじ込んでくれた。
いろんな言葉を交わし手を握りあったが、ヨシローは幽霊船を降り甲板から見守る二人に手を振った。
幽霊船はすぐに舵を切り出航した。港町の時より停泊日数は少なく、海に向かって船はどんどん小さく遠ざかって行った。
ヨシローは、旅をするため歩き出した。
ある港町。
「すいません。これ買ってもらえませんか?」
半べそをかいた女の子は野うさぎを三羽、差し出した。
食堂の店主は小汚い身なりの女の子をジロジロ見て
「ウチは解体はやってないよ。肉屋に行ってみな」
しっしっと手で追い払った。
「血を落とすな!不衛生だろ」
店主の怒鳴りに女の子はビクッとして走って店を出た。
「すいません。これ買ってもらえませんか?」
今度は肉屋だ。女の子は恐る恐る野うさぎを差し出した。店主は野うさぎの状態を見て
「脳天を一撃だな。嬢ちゃんがやったの?」
女の子は頷いた。
店から出ると少し色をつけたと言われて駄賃をくれた。しかし実際は相場より少ない。その事実は知らない。
「ご主人様…」
リタは小銭を握りしめて、フラーっと露店の食べ物の匂いにつられて露店の立ち並ぶ通りに入って行った。
パンとミルクを頬張り、指を舐めているとリタの目の前を露店商の若旦那と鎧を装着した体格のいい大男が話しをしながら歩いていた。
どうやら商隊と護衛の任を取り交わす話しをしているようだ。リタは聞き耳を立てどこに向かうか伺っていた。できればこの中つ海を越える商談だといいのだが。
リタはヨシローに会いたかった。里を半ば強引に出て狩猟と野宿を繰り返しこの港町までやって来た。
ヨシローが何処へ向かうとも中つ海を越えたなんて知るはずもない。今はこの海の先へ行きたいと願う。その気持ちだけでリタは動いていた。ただなんとなく。
リタは酒場の外に座り込み、中の会話を聴いていた。
「海路はダメだ。どこも船を出してない。隣の港町もそうだ」
「やはり回り込むように陸路で行きましょう。日数は掛かるが、船を待つよりいいでしょう」
「それが一番だな。ウチの傭兵を放し飼いにしとかなくて済む」
すべてが聞き取れた訳ではないが、商隊は海の向こうへ陸路で行くことは理解できた。
リタはあわよくばこの商隊と同行できないか画策してみた。しかし、学がないうえに人見知りであることは自認しているので、距離をとってついていくという安易な策しか思いつかなかった。
「どうかしたか?お嬢さん」
リタの前に影を落とす女性に声を掛けられた。リタはとまどいながら見上げた。
女性はそっとリタのフードを後ろへずらした。
「えっと、あの…」
「なんだ、獣人じゃないか」
女性はリタの頭上の窓から酒場の中を除いた。
「気になるのか?」
女性はついて来いと言ってリタを酒場の中へ案内した。リタはモゴモゴしているうちに店内の商談していたテーブルまで連れて行かれた。
「グラフさん。多分入団希望者です」
商談に割って入って女性が喋った。グラフと呼ばれた鎧を装着した大男は
「子供じゃないか」
「ですが帯剣してます」
女性は自信を持って言った。
リタは大事そうに両手で剣を抱きしめた。
「エモノはなんだ?」
グラフはオモチャのような小さな剣をジロッと見た。
「ピローソードです」
「聞かん名だな。ヴィオラ。入団テストは任せる」
ヴィオラと呼ばれた女性はリタを連れて離れたテーブルについた。
「テストだなんて、なんてことはないよ。誓約だと思ってくれ」
「あの、入団とかわかんなくて、そもそも何をするのかもわかってないので…」
歯切れ悪くリタは精一杯意見した。
「我々はね、傭兵なんだよ。今回の依頼主である商隊を中つ海の向こう、ブロッセル…という町まで護衛することなんだ」
ヴィオラは途中、咳払いしながら話してくれた。
「君はなぜ盗み聞きしてたのかな?」
「えっと、あの、海を越えたところまで行きたいなと。どうしたらいいか迷っていたので」
リタは盗み聞きの件を謝罪して言った。
「そうか家出で迷子なのか」
ヴィオラは笑って言った。
「軽蔑しますよね。すいません」
「いや、傭兵ってのはあぶれ者がほとんどなんだよ」
「海を越えてどうする。身寄りでもいるのか?」
「いえ、人を探していて」
ヴィオラは少しの沈黙に気づいて
「あてがある訳ではないのだな。納得するまで自分の足で歩くといいさ」
ヴィオラはエールを飲み干して言った。




