ライカンスロープ
「釣れますか?」
海に糸を垂らしているハリマンにルイカが声をかけた。一晩で元気を取り戻したようだ。
サクランとヨシローは狼男と戦うつもりで準備をしていた。
ルイカが桶の中を覗くとヌルッとした軟体がいた。
「ヤリイカね」
ルイカは大好物だと言った。
サクランとハリマンがヨシローを見た。ルイカも驚いてヨシローの挙動を見つめた。
ヨシローは抜剣して構えていた。
「海の悪魔だ。警戒して!」
ヨシローとほかの者たちの空気が違っていた。
「兄貴。美味いだけで怖くないっスよ」
ハリマンにつままれたイカも観念したように墨をチョロっと吐き朝の食事になることを認めたようだ。
「美味いが悪魔だ」
ヨシローは想像と違って小さかったイカを見つめた。
「悪魔的に美味いですよね」
サクランが顎骨を震わしこたえた。ルイカもヨシローの挙動不審に苦笑した。
「では、いってきます。ルイカさん。よろしくお願いします」
サクランとヨシロー、トンカチが狼男と対峙するため船倉に潜ることとなった。
ルイカは頷いて幻覚魔法を解いた。ハリマンとルカウトはルイカ護衛を兼ねて甲板に残った。
「アナタも頼りにしてますわ。人差し指さん」
ルイカが分身の人差し指を撫でた。
船内はジメッとして冷んやりした空気と淡い緑に揺らめく人魂で怪異的な空間だった。
「いつもの空間に戻ってますね」
「いっそう不気味な雰囲気が出てますね。ここで八百年過ごしていたなんて信じられないです」
サクランはそれを聞いて口角を上げた。
「慣れです、慣れ」
「私、これまで何人かの人と出会いました。やっぱり寂しかったんです。偽善と言われてもいい、何か役立ちたいんです。今回のルイカさんの件もそうです。私が率先して皆さんを巻き込みました。どうぞ笑ってやってください」
サクランが独り言のように呟いた。
「サクランさんは立派です。孤独と戦い、見ず知らずの僕たちを大事にもてなしてくれたじゃないですか。ルイカさんを助けてみんなで笑いましょう」
サクランはしばらくうつむき
「ああ、涙腺くらいついてたらよかったのに」
ボサボサ頭の男が頭を掻きながらブツブツと愚痴をこぼし苛立っていた。
「この船には何人乗ってるんだ!骨の団体にジジイごときが。人魚がいない?そんなわけあるか」
空のボトルを投げつけ憂さを晴らした。
男の影が蠢き、船内をところ構わず八つ当たりした。瓦礫の山はさらに大きくなって、この男の苛立ちを象徴した。
「来いよ。根絶やしにしてくれる」
苛立つ男の影は狼に変貌し、暴力の限りを尽くした。
ギイイィィ。幽霊船は軋む音を立てながら、波任せに揺れている。
「どうです?ヨシローさん」
「船底に広い空間がありますね。そこに反応があります。ただ人の気配がするので狼男ではないです」
幻覚魔法を解いたため行雲流水が無理なく使えた。が幽霊船特有の空間が詳細な探知を困難にさせている。
「充分ですよ。人が狼に変身する線かもしれません。別でもう一つ初老の男の反応がないのは初老の男と狼男はイコールの可能性が大ですね」
船底の前に着いた。重そうな二枚扉を開けると瓦礫の山がそびえていた。
「ちょっと予想がハズレましたね」
瓦礫の山の前にボサボサ頭の男が立っていた。
「なんだ、骨の奴らか。人魚はどうした?」
白いコートを着ていた。しかし。血を浴びてるようにどす黒く滲んでいた。こちらに見向きもせずに喋った。
「ああ。言わんでもいいぞ。船内にお前ら二人の匂いがしていたからな。他の仲間の匂いがしないということは、甲板あたりに待機しているな。そこに人魚を匿っているのだろう」
「答えれませんね」
サクランが言った。トンカチはやる気まんまんだ。
「狼男ですね。初老の男は?」
ヨシローが抜剣して質問した。
「あの匂いのしないジジイか?そうかオレをジジイと思っていたのか。違うね。オレも知らん」
ボサボサ頭の男の答えにヨシローとサクランは顔を見合わせて頷いた。
「人魚から手を引いてくれませんか?」
サクランがさらに言った。
ボサボサ頭の男は空になったワインボトルの穴を覗き、最後の一滴を舌舐めずりした。
「うーん。それは駄目だ。長年追い求めていた研究材料だ。オレの不老不死を確立させるための必要な肉だ。譲れん」
「人魚の肉に不老不死の効果はない!」
「試さねばわからん。昔の逸話にあるということは可能性はあるだろう。お前たちこそ人魚に騙されているのかもな」
ボサボサ頭の男は笑いながら言う。そして地面に転がっている栓のされたワインボトルを拾い上げた。
「なかなかのワインでな。人魚の血肉に合うと思って、これだけ残してるんだよ。今宵はマリアージュを堪能できそうだなぁ」
ヨシローが戦闘開始の合図ととり、斬り込もうとした。それより速く動いたのはサクランだった。
「ミリオン・バッシュ!」
普段外套に隠していた右腕が何百万の槍のように襲いかかった。逃げ道がないほどの広範囲を変形した骨の槍が長い時間、ボサボサ頭の男に降り注いだ。
粉塵の中から現れたのは狼男だった。
両の手の鋭い爪がサクランの攻撃を軽く凌いだ。
「弱い弱い。犬にエサあげるつもりの攻撃か?あいにく骨は喰わん。お前たちの目の前にいるのはライカンスロープ。怪物どもの王だ!」




