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幽霊船 5

 ペタッ。トンカチの頭にキズテープを貼り人差し指の分身が手当てをしている横で、中指が馬の大腿骨の先、太く丸まった大腿骨頭の部分を削りだしトゲトゲに改良していた。

トンカチはリベンジするつもりだ。


「あいつは侵入者だ。あの幻覚もあいつだ。間違いねえ」

ハリマンが息巻いて言う。

「半分正解ですかね。幻覚の部分は誰か別の存在を感じます」

サクランの意見にヨシローも同意した。

「あの男は探しものをしていると言ってました。つまり幻覚の作用で彼は見失ったと考えるべきだと思う」


「相手にしないという選択肢もあります。彼が探しものを見つけたら、いずれここを出ていくでしょう」

「あんなのと同じ船で生活できねえよ。トンカチだって仕返す気満々だぜ」

トンカチと中指がシャドーボクシングを始め出した。


「ヨシローさんはどう思います?」

ヨシローに二人の視線が集まった。

「…何を探しているか?」


「そうですね」

サクランも理解した。ハリマンは答えを求めた。

「探しものが命。だったとしたら」

サクランが答えの半分を伝えた。

「あいつ。人の命を狙って追いかけて来たのかよ」


「探されている人は幻覚魔法で隠れている。と考えれば状況が納得できます」

ヨシローが床に簡単な絵を描いて説明した。


「とんだ変態野郎だな」

「ですが、探され人が悪い人だったらどうしますか?

なんにせよ、あの老人とは対話ができません」

「両者の揉め事が解決してここを出るのを待つ。そのことじたい虫のいい話しだと思います。なんせここ、海の上ですから」


 三人は話し合いのうち、財宝探しは続行する。初老の男とは会敵を避ける。幻覚魔法を使う誰かとは対話を試みる。そして対応を模索する。


「寝ずの番はこの子に任せてください」

紹介されたのはサクランの分身の中指だった。

初老の男が攻撃をしたという事実が見張りを擁立せざるを得ない状況となった。初老の男がこちらに無関心なのも考慮するが信用ができない。


「どうぞ。兄貴」

ハリマンが中指にも命名するよう促した。

「見張り役だから、ルカウトでいいんじゃない」

ルカウトは喜んで飛び跳ねた。隣で人差し指が拗ねだした。


 初老の男の動向はわからない。気にはかかるが、しっかりと体力の回復と準備を整えて探索を再開することにした。

幽霊船は何事も無いかのごとく波に揺れていた。


「またここだ」

ハリマンが座り込んだ。完全にループしている。回廊を真っ直ぐ歩いて下の階に降りたらスタート地点に戻っていた。試しに戻って階を上がると甲板に出た。


「今日はここまでにします?毎回幻覚の作用が違いますが、さすがに進めないとなると…」

サクランも今日は打つてなしと判断し切り上げることを提案した。


「かなり深刻な状況かもしれないですね」

ヨシローが切り出した。


もう少しと言い、トンカチを連れて階下に降りた。

不思議な気分だ。永遠と彷徨っていられる。ただ真っ直ぐ歩いているだけなのに。ヨシローは幻覚の回廊を手探りで、何か小さな違和感がないか調べながら歩いた。 


 背後からヨシローの肩を掴む者がいた。

「ヨシローさん。どうしました?」

ヨシローが振り向くとサクランとハリマンがあとを追いかけて来てくれた。


「兄貴。そこでずっと足踏みしてたぜ」

「ええ。歩いて前に進んでません」

ヨシローは驚いた、回廊を進んでいたはずが、そうではないらしい。


「変な言い方かもしれません。幽霊船に幻覚が施されているのではなく、我々が幻覚にかかっているとみるべきでしょう」

サクランの提唱に

「さっぱりわからん」

ハリマンが即答した。


「厄介ですね。階下を降りると幻覚にかかるわけです。我々甲板から回廊に降りたヨシローさんを見ていて気付いたわけです。今我々は回廊に降りてヨシローさんを止めました。気づかないうちに幻覚にかかったとみていいでしょう」


ヨシローが甲板に上がって手を上げた。呼応するようにサクランが手を振り回廊を進んで行った。それを後を追うようにハリマンが追いかけた。

しばらくして二人が甲板に上がって来た。

「どうです?」


「二人とも前に進んでません」

パントマイムのようだった。

「ちなみに三往復したんだぜ」

トンカチがそんなふうには見えなかったとフリフリしていた。

「決まりですね。幻覚にかかる境界線がわかりました。


 

 三人はしばらく回廊を存在する限り道なりに歩いて下の階層を目指した。何度も下に降りたつもりが上の階層に辿り着きながらも初見の場所に出た。

「やみくもに歩いて大丈夫なのか?」

ハリマンは心配をした。

「ヨシローさんが、頑張ってくれてます」


ヨシローは行雲流水をポイントを決めて展開していた。探知するのは甲板に待機しているトンカチたちだ。幻覚の術者を探知できないためトンカチたちの居場所から離れているか近づいてしまっているかで、進行度を判断していた。


「糸口が見つかりましたね」

サクランが壁に向かって語り出した。


「やっと俺が活躍できるよ」

ハリマンは自分の武器を取り出して自信に満ちた目で言った。

「盗賊のナイフ、固有スキル。開錠」

ナイフの切先をカギを模するように捻りを加えると、そこに無かったはずの扉が姿を現し開いた。

「飛び込みますよ」

サクランの号令と共に三人は、部屋へ飛び込んだ。

閉じた扉はスーッとまた幻の中に消えた。





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