幽霊船 4
ミシィっと床が軋む。ところどころで床板が腐っていた。船内は全て木造で暗がりが奥へと続いていた。
「変ですねえ。こんな造りではなかったはずなんですが」
サクランが指摘する。
「あの、クジラだかが衝突したからじゃないの?」
「可能性はありますね」
ハリマンとヨシローも答えた。
三人とトンカチは異様な気配に前に進めないでいた。
「いいえ。衝突で荒らされたとかではなく、船内の造りが変わってるんです」
ヨシローが行雲流水を展開したが、すぐに解除した。幽霊船が拒むようにヌルッとした嫌な感じをヨシローに与えた。
「嫌な感じですね。どうします?」
ヨシローがサクランの方を見た。
「進みましょう。大変なことになりましたが確認が必要です」
「おいおい、説明がつかないのかよ」
ハリマンが不安を抱えた。
ひと部屋ひと部屋、くまなく見回ることになった。
「変わり映えしないですね」
ヨシローが壁の壊れた部分を触りながら言う。どの部屋も傷んだ箇所が寸分違わず同じだった。
「同じ部屋にまた入ったかと思っちまうよ」
「下の階層も見て回りましょう」
サクランはここではなかったはずの下に繋がる階段に指を差した。
「お宝が無くなってることはないよな」
ハリマンの心配はそこだった。
「それも確かめに行きます」
サクランの今までに経験したことがなかった事象が緊急を要するにように緊迫感を出していた。
「やはり、この階もおかしいですね」
だんだんとわかってきた。無限ループするような見ための回廊を歩いている感覚が理解できた。
この割れた床が全く同じ形で等間隔で再現されている。このハズレかけたドアノブも、壁の燭台の蝋燭の形も先程見た風景が再現されていた。
そして、行雲流水を何度試してみても嫌な感じがして解除するしかなかった。
「申し訳ありません。本来なら案内するはずが」
サクランが突然切り出した。
「ホネの兄貴のせいじゃないよ。俺はワクワクしてるけどな」
「僕も冒険してる気分です」
「ずいぶん回りましたね。いったん引き上げましょう。ここに目印をつけておきます」
サクランはそう言って扉に大きくキズをつけた。
甲板に戻ると夜になっていた。
「どう思われます?」
サクランが二人に質問した。
「幻覚の類いじゃねえか?魔物が侵入したんだよ。あの衝突事故はきっとそうだよ」
ハリマンが仮説を言った。すごくしっくりした。
「僕は幻覚に会うのは初めてなのでわからないですが、探知魔法が使えないのでなんとも言えないです」
「兄貴。探知魔法ってなんだよ。すげえじゃん!」
「ハリマンさんの線は納得できますね。明日はそれも注意して探索しましょう」
不思議と襲撃を受けている感じはしなかった。そこも議論したが結論は出なかった。
幽霊船は知らぬ顔して気ままに航海をしているのだろうか。波の音が静に打ち寄せる。
翌日。
「困りましたね」
サクランの言葉に他の二人も同調した。
階下に潜ってすぐだった。全ての扉に昨日つけたキズが施されていた。
「確かに私がつけたキズです」
隣の扉まで歩いて
「そしてこれも私がつけたキズにそっくりです。寸分違わずこのキズです。ですが私は更に下の階の扉一枚にしかキズをつけてません」
「幻覚魔法で間違いなさそうですね」
三人は頷いた。
踊り場に着いた。
「ずいぶんと湿気臭いな」
ハリマンが瓦礫の木材をどけて足場を作ろうとした。
トンカチがハリマンに向かって馬の大腿骨を振り上げた。ハリマンは声をあげ後ろに尻餅をついたが、トンカチの狙いは飛んできた瓦礫だった。瓦礫を打ち落とすとぴょんぴょん跳ねて暗闇の向こうに先陣をきって臨戦体制をとった。
「誰かいますね」
ヨシローがサクランに確認した。
「私、一瞬気づきませんでした。トンカチの判断が早かった。助かりました」
サクランがハリマンに駆け寄り無事を確認した。
踊り場から覗く暗闇に包まれた通路。奥から獣の遠吠えがこだました。
トンカチが縦横無尽に駆け巡る。飛び道具と化された瓦礫の砲弾をことごとく打ち落とす。
砲弾の雨の切れ間にトンカチは暗闇に突っ込む。が何の音もたてず、トンカチは返り討ちにあったかのように踊り場へ返された。
「トンカチ!」
ハリマンがトンカチを抱きかかえ、その場を離れた。
暗闇の向こうから出てきたのは小さな初老の男だった。白髪に眼鏡をかけ、腰に手を当てゆっくりと歩いてきた。
「なんだ?お前らは。わしは探しものをしている。目的が同じでないのならば幸いたが、どうかな?」
この初老の男が瓦礫の砲弾を飛ばしてだのだろうか。
三人は警戒した。
「財宝は俺たちのもんだ。お前こそどっから入ってきた?」
初老の男はアゴをさすり
「ああ。それなら問題ない。目的が被らなければ争う必要はないな。それでいいじゃないか」
「質問の答えになってねえだろ。どうやって侵入した?」
「小僧…」
初老の男は睨みながら唾を吐きすてた。
「図にのるなよ。下等な虫ケラどもが」
初老の男は一切関わるつもりはなさそうだ。
ヨシローはハリマンの肩に手を置き首を振った。
辞めておこう。と合図した。
初老の男は会話が途切れたのを見越して闇に紛れるように姿を消した。
あとに残された三人は緊張が解かれるまで立ちつくした。




